講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-4 核磁気共鳴のJカップリングの意味(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。
J カップリングもNMRから得られる重要な情報です。これにより分子の構造がわかります。エチル基の場合、CH3-CH2-のメチル基の水素は隣接するメチレンの2つの水素の影響により、2回分裂し、1:2:1のトリプレット(tと略します)として観測されます。またメチレン基の水素はメチル基の3つの水素の影響により3回分裂し、1:3:3:1のカルテット(qと略します)として観測されます。つまりこの分子の部分構造が、化学シフトとJカップリングから見極められます。
同様にisopropyl基の場合、(CH3)2CH-の2つのメチル基はCHの1つの水素の影響で1回分裂し1:1のダブレット(dと略します)となり、このメチン(CH)は6つの水素による6回の分裂で7本(1:6:15:20:15:6:1)に分かれます。このピークの比はパスカルの三角形で表されるものです。
さて、このような単結合を挟んでの場合は、結合の回転が核磁気共鳴の測定周波数よりも十分に早いため、平均化されます。しかし、分子が固定されている場合のJカップリングは少しややこしくなります。固定されている場合、影響を与え合う炭素-水素結合の軌道の重なりの大きさで、Jカップリングの大きさは決まります。そのため2つの結合がE2反応のときに出てきたAnti periplanarの関係のときにカップリングは最大になり、90°で最小になります。この関係はカプラス曲線と呼ばれます。
この軌道の相互作用の大きと、Jカップリングの大きさの間に関係があることには重要な意味があります。
例えば水素結合をあげることができます。プロトンの移動を伴う、あるいは軌道の中をプロトンが移動する水素結合ではこのプロトン由来のカップリングが観測されます。その分子間あるいは分子内相互作用が単なる静電的な相互作用なのか、プロトンの移動を伴うものなのかを判定するときに、このJカップリングの有無が使われます。
また、片桐は、このカップリングで化学反応の可能性を議論しました。トリフルオロメチル基に隣接する炭素状にカルバニオンを発生させた場合に脱フッ素をおこす場合と、おこさない場合があります。このカルバニオン陰電荷の軌道に水素を付けている分子のフッ素-水素のJ-カップリングを測定すると、脱フッ素をおこす場合はカップリング定数が8Hz以上であり、おこさない場合は6Hz以下であるという経験則を見いだしました[Acc. Chem. Res. 2008, 41, 817.]。このように反応性もJカップリングで予想できる場合があります。
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