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2016年2月

2016.02.29

雑感 富士山(片桐教授)

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 同じ静岡県内でも、浜松市から富士山は滅多に見えなかった。会社員のころ、埼京線の高架から時折富士山が見えると、うれしかった。岡山に移り、富士山は東京へ出張するときに新幹線の車窓から見るチャンスがあるだけで、しかも、雲の上であることが多かった。期待してもみえないとがっかりした。

 ここ八王子に来て、富士山を見る機会が増えた。研究室の4階の窓からも富士山が見える。少〜し残念なのは富士山の前に三角形の山があるため、富士山は、頂上に三角形のうつり込んだ形で見える。空気が澄んでいるとき、富士山はくっきりとはっきりと見える。

 手元の地図で確認すると、この手前の山は丹沢山地の北端に位置する大室山、標高1587m、らしい。

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2016.02.26

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-4 核磁気共鳴のJカップリングの意味(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 J カップリングもNMRから得られる重要な情報です。これにより分子の構造がわかります。エチル基の場合、CH3-CH2-のメチル基の水素は隣接するメチレンの2つの水素の影響により、2回分裂し、1:2:1のトリプレット(tと略します)として観測されます。またメチレン基の水素はメチル基の3つの水素の影響により3回分裂し、1:3:3:1のカルテット(qと略します)として観測されます。つまりこの分子の部分構造が、化学シフトとJカップリングから見極められます。

 同様にisopropyl基の場合、(CH3)2CH-の2つのメチル基はCHの1つの水素の影響で1回分裂し1:1のダブレット(dと略します)となり、このメチン(CH)は6つの水素による6回の分裂で7本(1:6:15:20:15:6:1)に分かれます。このピークの比はパスカルの三角形で表されるものです。

 さて、このような単結合を挟んでの場合は、結合の回転が核磁気共鳴の測定周波数よりも十分に早いため、平均化されます。しかし、分子が固定されている場合のJカップリングは少しややこしくなります。固定されている場合、影響を与え合う炭素-水素結合の軌道の重なりの大きさで、Jカップリングの大きさは決まります。そのため2つの結合がE2反応のときに出てきたAnti periplanarの関係のときにカップリングは最大になり、90°で最小になります。この関係はカプラス曲線と呼ばれます。

 

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2016.02.25

水不足はトマトを甘くする?(江頭教授)

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 先日、寒さがホウレンソウを甘くする、という話を紹介しました。

 同様に、甘いトマトを作るために水不足の状態にする、という方法があるといいます。

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2016.02.24

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-3 核磁気共鳴装置の精度(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 核磁気共鳴では化学シフトが重要な情報として得られます。その単位はppmです。これは1,000,000分の1を表しています。つまり、1ppmの精度で測定をしたいのなら、1,000,000分の1の精度で磁場をコントロールしなければなりません。実際には化学シフトは小数点以下2桁まで欲しいので、100,000,000分の1の精度が求められます。さらにJ カップリングでは0.1 Hzの値が必要になります。400MhzのNMR装置では、1/4,000,000,000つまり40億分の1の精度で磁場を安定させ、電波を安定させなければなりません。これはおおよそですが地球一周に対して1cmの精度に相当します。途方もない精度です。

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2016.02.23

寒さはホウレンソウをを甘くする?(江頭教授)

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 寒いと注意力が散漫になって報告も連絡も相談もいい加減になりますよね、という話ではありません!(この意味での「ほうれんそう」についての解説はこちらに。)

 先日何気なくテレビを見ていると「ホウレンソウ」についての特集が。(「食彩の王国」の第617回だったようです。) その中で紹介されていたのが矢本ブランドの「ちぢみほうれん草」でした。ホウレンソウを育てる際、寒さから守るのではなくあえて寒さにさらして育てる。すると、ぎゅっと縮んだようなシワがはいったホウレンソウが育つそうです。これが「ちぢみほうれん草」で寒さに対応して「凍結を防ぐために水分を減らし糖度を蓄え」ているため、とても甘いのだといいます。(詳しくはこちらに紹介されています。)

 なるほど、これはおいしそう。ですが、何で糖を蓄えることが凍結防止に役立つのでしょうか?

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2016.02.22

πファクター、π/2ファクター(片桐教授)

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 なんと片桐は25年くらい前に飛び込みに近い営業をやったことがあります。当時、新入社員だった片桐のOJT(On Job Training)はある含フッ素有機化合物を売れる形にして売ってくるという、研究、製造、販売をまとめて企画するという無茶振りでした。まあ、29歳で入社2ヶ月の係長相当の新入社員にどんなテーマでどんな仕事をさせるのか、会社の方も困ったのでしょう。

 飛び込みの営業は、まず電話でアポを取る。「突然の電話で申し訳ありません。」自己紹介の後に「実は当社ではこのような化合物があるのですが…ご興味はありませんか?」。事前に興味を持ちそうな会社の関係ありそうな部署の方に話をしても、乗ってくるのは数十人に一人くらいでした。でも、アポが取れたらこっちのもの。さっそく先方を訪問します。

 そのとき、訪問時間には気を使いました。10時に約束なら、9:55-10:00にその会社の受付にたどり着かなければなりません。もし、1分でも遅れたら、会ってもらえないかもしれないし,少なくても交渉ごとで不利になります。だから、その会社の前に、15分以上前に着くように準備します。

 でも、電車の遅延などで予定が狂うことがあります。そのようなときのために、πファクター、π/2ファクターという余裕を持たせるとよいと習いました。

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2016.02.19

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-2 核磁気共鳴測定の歴史(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 核磁気共鳴装置は1924年にパウリが元素のうち、その原子番号が奇数のものおよび質量数が奇数のものは磁石として働きうるという予想を元に開発されました。第二次世界大戦時のレーダー技術の進歩により、皇室力安定な電波源が使用できるようになり、実際に検討が進みました。そして、1945年の12月にパーセルが、1946年の1月にブロッホがほぼ同時に核磁気共鳴スペクトルを観測し、その歴史が始まりました。これらの業績により1952年には二人がノーベル物理学賞に輝きました。

 1951年にはその核種の周囲の電気的磁気的な環境により観測される周波数の異なる現象、化学シフト(ケミカルシフト)が発見されました。そして、1953年には大学発のベンチャーとしてVarian社が装置の商業化に取り組み、1961年にはじめての商業機であるVarian A-60が発売されました。その間、1954年にはサンプルの回転により分解能が向上すること、それによる微細構造(J カンプルング)もみつかりました。これによりNMRから得られる大きな情報、化学シフト、J カップリング、積分が出そろいました。

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2016.02.18

煙突の白い煙は煙じゃない?(江頭教授)

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 今回のタイトル、何を言っているのかとお思いでしょうが…。煙突から今日も煙がでているな、と思ったらもう少し注意して観察してみてください。

 煙突から出ている白い煙の様なもの、動きを目で追ってゆくとすぐに透明になって見えなくなってしまいます。白い粉が空気と混ざって薄まって見えなくなる、という様子ではなく、本当にフッと透明になってしまうのです。

 そうです。これは煙ではなくて「湯気」なのです。煙突から水蒸気を多く含んだガスが放出され、外気に触れて冷却されることで水蒸気が凝縮して微細な水滴になる。それが白く見えている訳です。外気との混合が進むと水滴は蒸発してガスは透明になります。

 煙とはものが燃えるときにでる気体のことですが、それが目に見えて「煙」と呼ばれるのは微細な紛体が含まれているからです。このような煙は薄まっても透明になることはありません。それに必ずしも白いとは限りません。煙突から出ているのはそういう意味では煙ではない、ということです。

 では、なぜ煙突という言葉には「煙」の文字がつくのでしょうか?

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2016.02.17

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-1 有機化合物の構造決定4種の神器(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 有機化合物の構造決定と同定は意味が違いますので要注意です。同定は既知物質のスペクトルと自分の測定した化合物のスペクトルとを比較して、同じスペクトルであるから同じ化合物であると判定するものです。一方、構造決定は、必ずしも既知ではない、多くの場合は新規で未知の化合物のデータを集めてそれを元に構造を推定する操作です。

 この構造決定には4つの測定が必須とされています。それはNMR(核磁気共鳴)、IR(赤外吸収)、MS(質量分析)、そしてEA(元素分析)です。これをまとめて、有機物の構造決定の4種の神器と呼びます。

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2016.02.16

ガスボンベの残圧が増える話(江頭教授)

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 化学などの実験で使用するガスボンベ、円柱状の鉄の容器にガスを高圧で詰め込んだものです。中のガスには高い圧力がかかっていますから、ガスを使用する際にはレギュレータ(調整器)をつけて適切な圧力に調整してから使用します。

 このレギュレータには2つ圧力計がついているのが普通です。ひとつはレギュレータから流れ出るガスの圧力、もうひとつはボンベの内部の圧力です。ボンベの体積は一定ですから、ボンベに残っているガスの量はこの圧力計で測定します。最初は150気圧程度あった圧力がガスを使用するにしたがって減っていきます。ボンベは使い切らずに少し圧力を残して返却します。これは大気圧より高い圧力を保つことで空気のボンベへの混入を避けるためです。使い切ってしまうとボンベにガスを再充てんする前に洗浄の作業が必要になってしまいますからね。

 ということで、実験でガスボンベを使用する際にはボンベの残圧を確認して記録に残しています。

 「あれっ、このボンベ、前回より残圧が増えてるぞ!実験でガスを使って残量が減っている筈なのに、なんで?」

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2016.02.15

大学での実験事始め-工学基礎実験I (須磨岡教授)

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 工学部応用化学科の一期生が基礎工学実験Iを始めるにあたって,「高校時代にどのくらいの数の化学実験を行いましたか」というアンケートを行いました.「50回くらい」や「数え切れないくらい」といった回答があった一方,3回以下(つまり年間に1回以下の実験)という回答が20名以上からありました.実に2割強の学生が高校時代にほとんど実験を行っていないことになります.

 これには,設備の問題で実験ができないというだけではなく,大学受験までに教科書の内容をすべて終える必要があり,実験のために時間を取ることができないという現実があるのでしょう.しかし,大学では座学だけではなく,毎週の実験が必修科目であり,本学でも1年生の前期から工学基礎実験Iが始まります(本ブログの「学生実験をみてみよう」シリーズで2015年度の工学基礎実験I&IIの内容を紹介しています).

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2016.02.12

講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-4 付加と脱離を分けるもの=エントロピー効果(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 置換反応と脱離反応の違いは、求核剤がハロゲンのついている炭素原子を攻撃するか、それとも塩基として水素を引き抜くかの違いであると理解されます。その差を分けるのは電子的な要因と立体的な要因の兼ね合いになります。そして、その兼ね合いを決める要因の一つに「温度」があります。

 高校の教科書には130-140℃に加熱した濃硫酸中にエタノールを加えると、ジエチルエーテルができるとされています。一方、160-170℃に加熱した濃硫酸中にエタノールを加えると、エチレンができるとしています。同じ基質、同じ試薬(酸触媒)でも、温度の違いにより異なる生成物が得られるわけです。この現象も「第10回目の講義から-1」で出てきた

ΔG = ΔHTΔSTは温度)

で議論できます。

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2016.02.11

スマホの気象情報は当てにはならない?(江頭教授)

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 先日、学生さんと一緒に山梨市環境センターにあるバイオマス利用のための施設を訪問しました。(バイオマスのお話はまた別の機会に。)

 山梨市は本学のキャンパスがある八王子から1時間半ほど。移動中に何気なくスマホで山梨市の気象情報を調べると、なんと山梨市は「気温 -4℃」とあるのです!

 これは大変だ、もっと暖かい服装をして来るべきだった。それにしても聞きしに勝る山梨の寒さ、と思ったのですが念のため、Yahooの天気コーナーを見ると今度は「気温 4℃」。あれっ、マイナスはどこ行ったの?それほど寒くないじゃん、などと言っているうちに電車は山梨市に到着。外にでると…。

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2016.02.10

講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-3 Pure SN2反応の例 片桐の仕事から(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 Pure SN2反応は、極めてまれです。多くのSN2型反応では反応の過程で、完全なWalden反転が起こらずに、若干のラセミ化を起こします。つまり、完全なWalden反転を経て進むSN2反応はPure SN2反応と見なせます。そのようなPure SN2反応をおこすためにはどうすれば良いでしょうか。

 以下は、片桐の研究です。

 

 前のブログで述べたように、Pure SN2でなくなる要因は、反応中心炭素上の陽電荷の発生です。ですから、反応中心炭素上の陽電荷を不安定化してやればよいわけです。そこで、反応中心の炭素に強い電子求引性基であるトリフルオロメチル基を配した求核置換反応はSN2機構で進むと考えられます。

 しかし、このトリフルオロメチル基近傍の求核置換反応は「困難反応」と呼ばれていました[N. Shinohara, T. Yamazaki, T. Kitazume, Rev. Heteroatom Chem. 1996, 14, 165.]。片桐がまだフッ素化学の初学者の頃に、この反応の可能性を当時の大家の先生に尋ねたところ、「まあ、やってご覧(無理だから)。うまくできたらほめてあげるよ」と闘志をかき立てるようなコメントをいただきました。

 先行研究を詳細に調べてみると、確かに成功例は全くといっても良いほどにありませんでした。成功例の多くはトリフルオロメチル基の他に、ヘテロ原子や共役系を配して、カチオンの安定化を行ったものでした。このトリフルオロメチル基の近傍でのSN2型反応が困難な理由は、このトリフルオロメチル基の立体障害でした。トリフルオロメチル基上のフッ素は強い電子求引効果により陰電荷をもち、その陰電荷と求核剤の陰電荷の間の静電反発がこの反応を困難にしていました。通常立体障害と呼ばれる反発は、1/r12の短距離力です。しかし、静電反発は1/rの長距離力です。ですから、このトリフルオロメチル基の周りには求核剤はまったくちかよることができません。

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2016.02.09

1年生後期の学生実験「工学基礎実験 II (C)」を終えて(原准教授)

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 応用化学科1年生後期の「工学基礎実験 II (C)」の実験日程を終えました。本年度に学科が新設されて最初の実施でしたが、学生さん、実験スタッフ、他の教員の方々からのたくさんの協力を頂き、大きな事故やトラブルもなく予定した日程を終了することができました。

 1年生前期・後期の実験は、専門的な化学実験を行うために必要な基礎的実験技術を習得することを目的としています。実験ガイダンス、実験講義を行った後に、2年生以降のより発展的な実験の遂行に必要な基礎技術を習得するための実験テーマを実施しました。

 「工学基礎実験 II (C)」の具体的な実験テーマの選択にあたっては、学生のみなさんが社会に出たときに少しでも意義あるものであって欲しいという期待をこめました。実験のテーマとして古くから知られている有名な実験を行う選択肢もありましたが、実社会でその実験を行う機会はほとんどないことを考慮して、実験テーマとして設定しないことにしました。それよりも、新設の学科として導入された最新の実験設備を活用した実験テーマとなるように心がけました。

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2016.02.08

コーヒーの香りと科学論文について (その2)(山下教授)

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 前稿でコーヒーの話をしたのには理由があります。

 最近見たテレビ番組で、「コーヒーが長寿命化に効果がある」という話題が取り上げられていました。実際に学術的な研究を行った結果、1日にコーヒーを飲む回数と脳梗塞の発症の割合には明確に相関があると紹介されました。そのとき、ゲストの一人から「このデータから、コーヒー自体が健康にいいといえるのか、健康で余裕がある人だからコーヒーを飲んでいられるのか、どうなのでしょうか?」というような趣旨の発言がありました。

 即ち、コーヒーの摂取量と健康に明らかな相関があるのは実験的な事実としても、単にそのデータだけからすぐにはコーヒーが健康によいと結論付けることはできないということです。他の様々なデータを総合するとコーヒーの効果が議論できるのですが、その詳細は専門の研究者にお任せするとして、本稿ではこのような実験事実から結論を導き出すことについて述べたいと思います。

 自然科学では、ある現象を発見したとき、そこから様々に条件を変えた結果を観察し、結果発現に至るメカニズムを見出そうとします。例えば、化学の分野ではベンゼン環に置換基がついたとき、その置換基がベンゼン環に対して電子を供与するか、電子を求引するかでベンゼン環の反応性を議論することがよくあります。

 もし、ある化合物のベンゼン環に電子求引性基をつけたところその化合物の反応性が非常に高くなったとしたら、「その化合物に対して電子密度を下げると反応性が向上する」と結論づけてよいのでしょうか?その化合物の反応性が高くなったのは実験的事実ですが、その原理は電子密度の変化かもしれませんし、あるいは置換基を導入したことによる溶解度の変化や置換基と反応試薬との相互作用に由来しているかもしれません。短絡的に結論を導いたために間違った結論となった例が化学の世界でも少なからずあります。

 このような観点から私は常々、学生が研究論文や学生実験のレポートを書く際に実験事実から「論理的に」結論を導き出す際に客観的かつ論理的に考察しなければならないことを説明してきました。

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2016.02.05

講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-2 Pure SN2反応?(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 講義ではSN1反応とかSN2反応とか分別しています。しかし本当は、その分別は大変困難です。その最も有力な根拠の一つはWalden反転です。立体特異的に光学活性体から立体中心が反転した光学活性体が得られれば、SN2反応であり、ラセミ化すればSN1反応と判定されます。しかし、実際の反応では、SN2型の反応でも完全な立体特異性を示す例はまれです。もう一つの根拠となるのはカチオンの転位反応です。もしカチオン特有の転位が起こればSN1と判定されます。

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2016.02.04

授業紹介 2年後期「サステイナブル環境化学」(江頭教授)

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 今回は2年の後期に行われる授業、「サステイナブル環境化学」について紹介しましょう。

 環境問題を理解するためには環境に存在する物質とその化学反応についての理解が必要となります。大気、海洋、陸水、土壌、そして生態系において自然に起こっている化学反応と物質循環、さらに人間によってもたらされる変化とその影響についての知識を身につけることで、環境問題に対するより本質的な分析・評価能力が身につきます。

 具体的には、自然環境の化学的側面についての知識を身につけ、ニュースなどで新しい環境問題について知ったとき、自分で考えてその問題を分析・評価する能力を身につけることを目指します。

例えば、

  1. 大気、海洋、陸水、土壌、生態系がどのような物質で構成されているか説明できる。
  2. 大気、海洋、陸水、土壌、生態系での水、炭素、酸素、窒素などの循環について説明できる。
  3. 既存の環境問題(地球温暖化、オゾン層破壊、水俣病など)の化学的な原因を理解し、説明できる。
  4. 想定される新たな環境問題について、その現実性・危険性を評価できる。

といった項目を目標としています。

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2016.02.03

講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-1 SN2とSN1とE2とE1(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 有機化学1の講義は、反応の話に入りました。

 反応をどのように捉えればよいのかです。ずばり、電子的要因と立体的要因で考えましょう。

 ΔG = ΔHTΔS は物理化学で習う最も基本的な式の一つです。厳密には異なりますが、有機化学ではΔHを電子的要因、ΔSを立体的な要因として捉えると、わかりやすくなります。

 SN2とSN1を比べると、SN2反応の方がより進みやすいといえます。これは遷移状態や中間体の電荷の存在や集中度によります。SN2反応の遷移状態では、その陰電荷は求核剤と脱離基に分散しています。一方、SN1の中間体の陰電荷は脱離基に、陽電荷はカルボカチオンにあり、その電荷は局在化しています。ですから、SN2反応の起こらない場合のみSN1反応が起こります。そのため、SN2とSN1の分かれ目は、SN2反応機構の阻害要因である有機ハライドの反応中心炭素(求核剤の攻撃を受ける炭素原子)周りの立体障害になります。SN2反応は立体障害により制限され、そのハライド基質の反応性は、メチル基>1°>2°の順になり、3°ハライドはSN2反応をほとんど起こしません。一方、SN1反応はそのカルボカチオンのできやすさに支配されるために、3°>2°>1°となります。

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2016.02.02

大学案内(冊子)の次年度版の編集を進めています(西尾教授)

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 東京工科大学では,学外の方々に大学の詳細を知ってもらうための情報源として,以下の「3本の柱」を用意しています.

(1) 大学のホームページ(http://www.teu.ac.jp/)

(2) 受験生を対象とした情報サイト「工科大ナビ」(http://jyuken.teu.ac.jp/jyuken/index.html)

(3) 冊子の「大学案内」

 最近は,スマートフォンで閲覧されるインターネットの情報を重要視しています.(現在見て頂いている,応用化学科のブログもしかり.) しかし,冊子の大学案内も依然として重要な情報源ですので,平成28年度版の「大学案内2017」の編集作業を,力を入れて進めているところです.現在,工学部には新入生が在籍していますので,(裏を返せば新入生しか在籍していませんので,)次年度版では新入生に登場してもらう事となりました.

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2016.02.01

コーヒーの香りと科学論文について (その1)(山下教授)

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 忙しいことは大変よいことだ、と思うことにしています。

 忙しいということは、研究であればそれだけ世界から注目されているということであり、学務であればそれだけの責任を負っているということであり、いずれにしてもそのやりがいに自励的に活性化されると思います。

 以前、大学まで徒歩20分のところに住んでいました。毎日、早朝に自然の風景や季節の移ろいを楽しみながら大学まで通っていましたが、忙しくなるとその時間すら許容できず、車に乗って5分で大学に行き仕事を始めました。当時は1分でも時間が欲しいほどの忙しさでしたが、あるとき、本当に足りないのは時間的余裕ではなく精神的な余裕ではないか、ということに気づきました。それ以来、忙しい時はあえて時間をかけて心の余裕を保つようにしています。

 その一つがコーヒーです。

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