寒さはホウレンソウをを甘くする?(江頭教授)
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寒いと注意力が散漫になって報告も連絡も相談もいい加減になりますよね、という話ではありません!(この意味での「ほうれんそう」についての解説はこちらに。)
先日何気なくテレビを見ていると「ホウレンソウ」についての特集が。(「食彩の王国」の第617回だったようです。) その中で紹介されていたのが矢本ブランドの「ちぢみほうれん草」でした。ホウレンソウを育てる際、寒さから守るのではなくあえて寒さにさらして育てる。すると、ぎゅっと縮んだようなシワがはいったホウレンソウが育つそうです。これが「ちぢみほうれん草」で寒さに対応して「凍結を防ぐために水分を減らし糖度を蓄え」ているため、とても甘いのだといいます。(詳しくはこちらに紹介されています。)
なるほど、これはおいしそう。ですが、何で糖を蓄えることが凍結防止に役立つのでしょうか?
高校の化学を学んでいる人はすぐに答えが分かったと思います。
これ、凝固点降下ですよね。液体に(この場合は水に)何かの物質(この場合は糖)を溶かすと凝固点、すなわち凍る温度が下がる、つまり0℃でも凍らなくなる、という現象です。
なんでそんなことが起こるのか、おおざっぱに説明すると
(1) 0℃では水と氷は共存している。しかし…
(2) じつは水の分子が氷の表面に取り込まれる速度と氷の結晶表面の水分子が水中に融け出してゆく速度が釣り合っている「動的平衡状態」である。
(3) 水に糖が含まれると氷に接する水分子はその分だけ目減りする。
(4) 釣り合いが崩れて融け出す分子の方が多くなる。つまり糖を含む水の中では0℃でも氷は解けてしまう。
(5) 糖を含む水が凍るにはもっと温度が低くなければならない。つまり「凝固点」は0℃以下に下がる(降下する)。
といったところでしょうか。
凝固点の下がり方は溶けている物質の量に比例しますから、より糖分が多いほど寒い条件でも凍らない、糖分を蓄えて水を減らし、糖分濃度を上げるほど寒い環境に対応できる、ということになります。
凝固点降下は物理化学で学ぶ現象ですが、この様に生物が対象でも適用できるのですね。生物のなかで起こっている現象でも物理と化学の法則に従っている。これは物理も化学も生物も、ひとつの大きな自然科学という体系の一部である、ということを示す例の1つでしょう。
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