ガスボンベの残圧が増える話(江頭教授)
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化学などの実験で使用するガスボンベ、円柱状の鉄の容器にガスを高圧で詰め込んだものです。中のガスには高い圧力がかかっていますから、ガスを使用する際にはレギュレータ(調整器)をつけて適切な圧力に調整してから使用します。
このレギュレータには2つ圧力計がついているのが普通です。ひとつはレギュレータから流れ出るガスの圧力、もうひとつはボンベの内部の圧力です。ボンベの体積は一定ですから、ボンベに残っているガスの量はこの圧力計で測定します。最初は150気圧程度あった圧力がガスを使用するにしたがって減っていきます。ボンベは使い切らずに少し圧力を残して返却します。これは大気圧より高い圧力を保つことで空気のボンベへの混入を避けるためです。使い切ってしまうとボンベにガスを再充てんする前に洗浄の作業が必要になってしまいますからね。
ということで、実験でガスボンベを使用する際にはボンベの残圧を確認して記録に残しています。
「あれっ、このボンベ、前回より残圧が増えてるぞ!実験でガスを使って残量が減っている筈なのに、なんで?」
何が起こったのでしょうか?消費しても残圧が増えるならいつまでも使い続けられて助かるのですが…。
気体の圧力は体積によって変化する、これはボイルの法則ですが、もう一つ重要な法則、シャルルの法則がありましたよね。両者を併せたボイル-シャルルの法則(PV/T=一定)によれば一定量、一定体積のガスの圧力は絶対温度に比例します。普通の実験が行われる温度は室温付記なので絶対温度で約300Kくらいです。季節と場所にもよりますが、10K程度の温度変化はあり得ます。つまり絶対温度で3.3%程度の温度変化が起こるわけですから圧力にも同程度の変化は起こります。
朝、まだ寒い時間のボンベの残圧が100気圧なら昼には103気圧になっていてもおかしくない、実験でのガスの使用量が少なければ「消費しても残圧が増える」という現象が起こる、というわけです。
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