講義 「有機化学1」 第15回目の講義から-1 分子軌道法について エチレンとブタジエンのπ結合について(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は共役系をもつ有機化合物についていくつか…。
この講義では、分子軌道法、特にヒュッケル分子軌道法を用いて共役系の(半)定量的な取扱について説明しました。
このとき、炭素のπ電子の元々の軌道=2p軌道のエネルギー準位をαとし、共鳴エネルギー=結合形成による軌道の安定化の程度のエネルギーをβとしました。そして軌道エネルギー準位図を作成しました。
エチレン分子の場合、そのエネルギー準位図にはα+βの結合性軌道とα−βの反結合性軌道が書き込まれます。このとき安定化の程度はマイナスの値になるため、βは常にマイナスの値です。そのため、α+βの結合性軌道の方が、α−βの反結合性軌道よりも低い位置に書き込まれます。電子はより安定なα+βの結合性軌道に2つはいります。したがって、結合の形成により、元々のp軌道のエネルギー値であるαよりも電子1つあたりβだけ安定化することになりますので、エチレンのπ結合の結合エネルギーは2βと見積もられます。
さて、線形代数学(C)の講義の固有値問題の話で述べたように、ブタジエンの場合はヒュッケル分子軌道法で4つの固有値=eigen valueが求まります。このeigen valueと言うことばはもともと量子力学でディラックさんがつくったことばだそうです。その意味では数学もその応用分野の要請で発展していることがわかります。
さて、このブタジエンの4つの軌道のエネルギー値は下の方(安定なもの)からそれぞれ、α+1.62β、α+0.62β、α−0.62β、α−1.62βになります。ですから、その結合エネルギーは4つの電子で4.48βになります。これはエチレンのπ結合2つ分の4βに比べてさらに0.48β大きなものであり、これが共役による安定化のエネルギーになります。これは実測値的には水素化熱で議論されます。
このようにヒュッケル分子軌道法によっても、そのエネルギー値の傾向を理解できます。
さらに、電子の入っている一番上の軌道=HOMOと電子の入っていない一番下の軌道=LUMOの間の間隔は、エチレンの場合2β、ブタジエンの場合1.24βになります。これが紫外吸収スペクトルの違いとして理解されます。
共役系が長くなると、この2つの軌道、HOMOとLUMOの間の間隔が小さくなります。光のエネルギーは
E = hν = h×(c/λ)
(hはプランク定数、νは光の周波数、cは光速、λは光の波長)
で表されますから、共役系の長いほど、吸収する光エネルギーは小さくなります。そのため、その光の周波数は小さくなり、波長は長くなります。
このあたりは3年で習う量子化学で徹底的にやりますので、お楽しみに。
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