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講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-5 核磁気共鳴の積分値と緩和(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 

 NMRから得られる情報は多々あります。その中でも積分値はその核種の相対的な存在比を与えるものです。しかし、この積分比は1H NMRや19F NMRでは使えますが、13C NMRでは使えません。これは「緩和」の問題です。

 NMRの観測エネルギーはMHz帯の電磁波としては弱いものです。これは2つの状態の間の差が小さいことを示します。そのため、2つの状態の存在比の違いはわずかです。しかも、13C NMRは核種そのものがなかなか緩和しにくい性質を持っています。特にカルボニル基の炭素は積算を繰り返すと飽和してしまい、相対強度が下がり、見えなくなることがあります。また、13Cは天然存在比が少ないので、測定感度も低く、そのため多回数の積算を必要としますから、なおさら飽和しやすくなります。さらに、最新の機種では余り心配は要らないのですが、昔のNMRはデーターポイント数が少なく、1H NMRのように20ppmの範囲を測定する場合と異なり、13C NMRは300ppmの範囲を測定するため、一つのピークに使えるポイント数が少なく、その積分比は測定ごとにばらつくことがありました。

 それでも、無理矢理に13C NMRで積分比を得るにはどうしたら良いか?。以下は本来は禁止手ですので、実際にはやらないでください。そのためにはサンプルの量を増やし、緩和を早くすれば良いわけです。

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 具体的には、5 mmφのサンプル管に代え10 mmφのサンプル管を使います。これにより測定にかけられるサンプル量は4倍になります。同じS/N比を得るために必要な積算回数の1/16で済みます。次に、サンプルの緩和を早くするためにサンプル内にわずかに均質に常磁性物質を紛れ込ませます。錆の出た直後の水道水と重クロロホルムを混ぜた後に、分液して使うのはかなり効きます。測定のシーケンスも変えます。パルス幅を狭くします。45°パルスではなく22.5°パルスをかけます。1回あたりの測定感度は落ちますが、緩和は早くなります。そして、次の測定までの間隔を空けます。15分間隔で測定します。

 このような工夫をして測定すると、本来は鋭い13C NMRのピークも幅が広がり、データポイント数の影響が減ります。また、緩和の影響が抑えられ、カルボニル炭素の積分比とメチル基の積分比も実際の炭素の存在比と5%以下の精度で求められます。ただし、この測定法は機械を独り占めにする、設定が大幅にずれているので環境の復帰に時間がかかるなどなど不都合が多く、他の装置の使用者からフルボッコにされました。

 NMRをルーチンワークで使用する限り、その使用と得られる情報には限界があります。しかし、その原理や根本を理解できれば、限界を外すことができます。できないはずのしかし自分の求める測定も可能になります。ルーチンワークのみでは機械に使われている状態です。原理を理解して機械を使いこなしてください。

片桐 利真

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