講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-6 CIDNPと緩和(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行くのですが…、今回は少し脱線です。
CIDNPという測定があります。これはラジカル反応の生成物では、ゼーマン開裂による2つの状態にある分子数が乱れるために、異常な吸収スペクトルを示すというものです。ラジカル反応でも反応が早くてその中間体ラジカルを電子スピン共鳴法(ESR)で観測できない場合には、このCIDNPの測定がその中間体ラジカルの状態などについての情報を得る手段として有効です。この詳細については、専門書やKaptein則などのキーワードで調べてみてください。
さて、片桐は大学院生の頃、Grignad反応を研究していました。あるとき文献でBlomberg先生がCH3CH2BrとMgをTHF中で反応させながら1H NMRを測定すると、生成物のCH3CH2MgBrのメチレン基がCIDNPを示すという論文を読みました。
さっそく、試してみると、文献どおりに1:3:3:1のカルテットに分かれるピークが上下に点対称の形になりました。おもしろがって、他のハライドでもいろいろ試しました。
しかし、その中で、PhBrの反応ではCIDNPは観測されませんでした。これが何を意味しているか、その時はわかりませんでした。しかし、その30年後にこの実験結果がヒントになり、安全なp-CF3-C6H4-MgBrの調製法の開発につながりました。
新しい発見や開発は、先人の成果の追試から始まります。そして、うまく行かなかった実験もそのときには無意味でも、後々大きな意味があることがあります。
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