講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-7 不純物 NMR測定の実際に役立つ論文(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行くのですが…、今回は少しアドバンスな話です。
実際にNMRを取ると、不純物が多く混入しています。重クロロホルムは原則、冷蔵保管です。そのため、冷蔵庫から出して使うときに、まだ冷えていると結露して水が混入します。エバポレーターで飛ばしたはずの酢酸エチルやエーテルの混入は…ため息が出ます。そして、このような不純物の溶媒は使用した重溶媒により化学シフトが微妙に異なるため、それが本当に不純物なのか、それとも生成物のピークなのか判別が難しい場合もあります。
そのようなときのお役立ちとして、1997年のJournal of Organic Chemistryの論文を紹介します。J. Org. Chem. 1997, 62, 7512-7515の論文は、いろいろな重溶媒中のいろいろな不純物溶媒の化学シフトなどをまとめたものです。とっても役に立ちます。引用回数はさほどではありませんが、最も多くダウンロードされている論文だそうです。
この論文は、論文と言うよりもデータベースのようなテクニカルレポートです。しかし、このような論文を書くことを企画した著者の、その視点に敬服します。
サンプル中の不純物には,本当〜っに泣かされます ( ; _ ; )。
特に器具の組み立てに使ったグリースの混入は涙です。有機化学では炭化水素系のアピエゾングリースではなくシリコングリースをよく使いますが、これは、「これはグリースではない、内部標準のテトラメチルシラン(TMS)だ」という自己弁護のためかもしれません。でも、TMSを入れていないのにTMSのようなピークが出たりすると、言い訳できません。さらに、最近のNMRの進歩により、TMSとグリースのピークが微妙に分かれたりします (つ_ ; )。機械の進歩も善し悪しかもしれません。
最近は、分子のスピン-回転(拡散)緩和を利用して、比較的分子量の小さな溶媒分子のピークを消してしまうDOSYのような特殊測定技術もあります。しかし、できればこのようなごまかしではなく、きれいなものを得ることが、やはり大前提でしょう。
私の話ではありませんが、私が学生時代に光反応の研究テーマで研究していた博士課程のO先輩がいました。反応後に反応溶液を分析したところ、かなり大量にこれまでに見たことがない物質が得られていたそうです。そこで、液クロ分取で2週間かけてその純品サンプルを得ました。そのNMRのチャートを広げて、腕組みしながら「きれいに取れたな(ニヤリ)」「何だろう?」と眺めていたところ、後ろから、修士課程のT先輩が、「それゴム管の可塑剤ですね。きれいに取りましたね」…と。お気の毒様でした。その後、ショボンと肩を落として帰って行くO先輩の姿がありました。
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