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2016年3月

2016.03.31

学長賞・学部長賞のこと(江頭教授)

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明治から戦前の日本を舞台にした小説やドラマで「あの人は金時計だ」とか「さすが帝国大学の銀時計組だ」などといった表現をみることがあります。(最近は少ないかも。)

 さて、この金時計・銀時計というのは帝国大学(今の東京大学です。昔は大学と言えばここしかありませんでした)が首席、つまり成績最上位の学生に銀時計を記念品として贈った、ということから来ています。つまり金時計・銀時計は成績優秀者の証し、という訳ですね。

 金時計や銀時計、今なら腕時計を想像するところですがこれは「懐中時計」というタイプでした。写真の「時計皿」が文字盤の部分をカバーする部品として使われていたもので腕に付けるにはやや大きすぎです。なんでそんなものを?時計は昔は高価な精密機械の代表でした。水晶振動子が大量生産されて以来、正確で安価な時計が世の中に溢れている現状では想像し難いかも知れませんが、今で考えれば「電気自動車をもらう」位の感覚だったのではないでしょうか。

 さて、金時計・銀時計は成績優秀者を讃えるための制度であり、同時に学生に首席をめざして努力することを促す仕組みでもあります。今では懐中時計を渡すところはないでしょうが、いろいろな大学が類似の表彰制度を持っていて、東京工科大学にも同様な制度があります。

 それが学長賞・学部長賞です。

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2016.03.30

実験における失敗から学ぶ 保護具の話-4 帽子 片桐!あたま!あたま!(片桐教授)

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 化学実験で保護具として帽子をかぶることはまれです。しかし、時に必要な場合もあります。

 私の大学4年〜修士2年の研究は毎日4時間のガラス細工、4時間の真空ライン作業、4時間の測定+α(たまに原料合成)でした。おかげでガラス細工は上手になりました。

 ある日、いつもの様にガラス細工をしていると、何やら焦げ臭いにおいがしました。

「おーい!、誰か何か焦がしていないか?」と聞きましたが、誰も心当たりがありません。しばらくすると、焦げ臭いだけではなく、黒っぽい灰色っぽい灰のようなものも降ってきます。ガラス細工の火がどこかに燃え移ったのかと、周りをきょろきょろしてみても、どこにも燃えているような様子がありません。

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2016.03.29

2年生ガイダンスとアドバイザー面談(江頭教授)

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 3月28日、まだ新学期には早いのですが2年生向けのガイダンスを行いました。

 そうです。本学部も開設からほぼ一年がすぎ、初めての「工学部2年生」が登場することになりました。

 2年生の単位の履修に際しての注意など学務関係の説明からスタート。新年度の時間割も配付されましたが、1年生と2年生の2学年分の時間割は初登場です。

 引き続き学生生活についての注意事項があり、その後学部長の挨拶。今回のガイダンスは学科別で3ヶ所に分かれて行ったので学部長には3会場を回っていただくことになりました。「初心忘るべからず」(これは世阿弥の言葉だそうです。)1年も過ぎた、と思うかもう1年過ぎた、と思うかにもよりますが、学び始めた最初の気持ちを折に触れて思い返すことは大切ですね。

 教養学環からは佐渡島のトキの保護活動などのボランティア活動を単位認定する「サービスラーニング」、合宿形式の体育授業、海外研修など、本学のユニークな授業についての説明が。

 3年前期に予定されているコーオプ実習の詳細や、その後の卒業研究を行う研究室の配属方法の説明、そして大学院の設置計画など将来についての情報もありました。

 ガイダンスに引き続き、これも本学の特徴的な制度であるアドバイザー教員による面談が行われました。

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2016.03.28

実験における失敗から学ぶ 保護具の話-3 マスクに関するヒヤリハット(片桐教授)

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 最初に一言、マスクは必要なところで最適なものを使いましょう。そして過信は禁物です。有機溶剤の作業で、薄い活性炭層をつけた不織布製のディスポーザルマスクを使っても、効果はほとんどありません。それを使うくらいなら、局所排気設備(ドラフト)内で作業すべきですし、部屋の換気を頻繁にする方が体のためです。

 有機溶媒の除去には吸収缶を取り付けた毒ガスマスクの様なものをつける必要があります。それでも、ヘキサンなどの極性の低い溶媒は除去できません。粉塵作業など目に見える大きさの微粒子や有機溶媒でもミスト状のものの除去にマスクは有効です。でも大気中に揮発した分子状の有機物は除去できません。

 有機溶剤を使う環境では、マスクに気を使うよりも換気に気を使いましょう。

 

 私自身も学生時代にはマスクの効果に過剰な期待をしていました。

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2016.03.25

実験における失敗から学ぶ 保護具の話-2 安全メガネの話(片桐教授)

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 保護具の材質は悩みどころです。ゴム手袋のおもわぬ怖さについては前にお話しした通りです。今回は安全メガネの話です。

 市販の安全メガネはプラスチック製の安価なもので、通常、メガネの上にカバーするように装着します。もし、有機溶媒などで視界が悪くなったら、あきらめて新しいものにしましょう。

 片桐の実験時に使用しているメガネは分厚いガラスレンズの、遠近両用メガネです。実験時には遠くの学生の挙動も、近くの実験指示書も見なければなりませんから、どうしても遠近両用であることがのぞまれます。また、ガラス製であることは、有機溶媒への耐性の都合上、必須です。プラスチックレンズはアセトンなどの有機溶媒がかかると、溶けてしまい、透明ではなくなってしまいます。そして,メタルフレームはサングラス用の大面積のものです。そのため、この特注の実験用メガネの重さは普通のメガネの数倍もある重いものです。これにクリップオンで跳ね上げられるサングラスをつけて、実験用の安全メガネとして使用しています

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2016.03.24

東京工科大学の卒業式(江頭教授)

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 昨日、3月23日に東京工科大学の卒業式(正式には「学位授与式」)が行われました。

 朝10時半から写真の体育館のアリーナで、片柳理事長をはじめとする祝いのことば、軽部学長から各学部の総代への学位記の授与、そして卒業生からの答辞など。卒業生諸君とご家族の方々、そして我々教員も参加して盛大な式が行われました。卒業式は学部の卒業生に修士、博士の修了者も一緒に参加し、さらに八王子キャンパスの学部に加えて蒲田キャンパスの学部も合同で行うので入学式と並ぶ本学で最も規模の大きな式典となっています。

 卒業式終了後、昼食の時間を挟んで卒業生は各自の研究室へ。そこで研究室の先生から各自の学位記を受け取ります。そして学部単位の記念のパーティーへ。この日で学生証も返上し、いよいよ大学での生活が完結することになります。

 さて、我々の工学部ですが、もちろん、まだ卒業生はいません。

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2016.03.23

実験における失敗から学ぶ 保護具について-1 ゴム手袋の話(片桐教授)

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 メチルイソシアネート(CH3-NCO)は有害性(毒性)の高い試薬です。また、刺激性が強く、空気中にあればわずかでも目が開けられなくなります。この試薬の恐ろしさについては、以前、このブログでも推薦図書として「ボパールの悲劇」の話を紹介させていただきました。私自身も、実験中に僅かな量のこの試薬に暴露し、「天空の城ラピュタ」のムスカの様に目を抑えてのたうち回るような目に遭いました。

 実験はメチルアルキルウレアの合成のため、アルキルアミンとメチルイソシアネートを反応させている時に起こりました。

 もちろん、安全確保のために、実験は局所排気設備であるドラフトの中で、白衣はもちろん、髪の毛につくことを恐れて帽子をかぶり、眼鏡も開放式ではなくゴーグル型のものを用いて、活性炭マスクを装着し、手はゴム手袋を二重にはめて、さらにいざという時のために実験補助者の部下を同様の装備で待機させて、隙のない状態で実験に臨みました。

 鼻の横がかゆくても、掻くのをあきらめて、実験を着々と進めました。有害性の高いメチルイソシアネートのアンプルを開けて、滴下ロートの中に入れました。空のアンプルは有機溶媒で洗い廃液も無事タンクに入れて密閉し、反応を安全に開始しました。

 そのとき、ゴーグルが少しずれました。

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2016.03.22

融ける結晶?溶ける結晶!(江頭教授)

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 まずは下の写真をクリックしてみてください。

 写真に写っているのビーカーの中の物質は硝酸コバルト、正確には硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)の結晶です。ビーカーは水浴の中に入っていて60℃~65℃の間に加熱されています。クリックして動画を見ていただくとわかりますが、硝酸コバルトの結晶はこの温度で溶けてしまいます。

 通常、金属塩がとけるのはかなり高い温度です。たとえば食塩、NaClの融点は800℃程度。60℃程度の低温で金属塩がとける、というのはかなり異常なことです。

 なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。

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2016.03.21

書評のような雑感のような… 放送大学の講義を見て、札野順「新しい時代の技術者倫理」放送大学教育振興会(2015)(片桐教授)

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 1月29日夜、疲れて早めに布団に潜り込み、うとうととする時の習慣でオフタイマーを付けてからテレビを見た。変なバラエティばかりで面白くない。ニュースもつまらん。チャンネルをぽちぽちと変えて行ったところ、放送大学に行き当たった。そのときたまたま放送されていた「分子分光学」は2017年度開講の「量子化学」の講義の参考になりそうである。講義の進め方に感心したり、キラル分子を表す上手ではない絵に突っ込みを入れながら、眺めていた。

 その後、次の講義として札野先生の「新しい時代の技術者倫理」が始まった。面白かった。ぐいぐいと引きつけられた。これは4月から開講の「安全工学」にも使えると思った。

 日曜日に電車に乗って八王子のK書店に行った。5階の奥に放送大学のテキストが売られている。さっそく、この「新しい時代の技術者倫理」と「分子分光学」のテキストを購入した。2冊で約6500円の出費であった。

 放送大学の教科書は講義とセットでないとその良さを理解できないかもしれない。

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2016.03.18

書評 中田亨「「事務ミス」をなめるな!」光文社新書(2011)(片桐教授)

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 間違いを指摘すると「単なるケアレスミスです。次から気をつけます。」と当たり前のように言う者がいる。そのような者を見ると「アホかっ!」と怒鳴りつけたくなる。古今東西、多くの重大事故は「ケアレスミス」に起因している。そのような重大事態に「次」はない。

 先日、うちの次男がそのような言い訳をしたので目から火が出るほどに怒り付けた。その数日後、長女がセンター試験の解答する問題(数1Aを解くつもりで数1を解いたらしい)を間違い、取り返しのつかない事態に落ち込んでいる。本人も親も大きな時間的経済的損失を被ることになりそうである。数日前に次男を怒鳴りつけたとき、私は「ケアレスミス」ということばに大きく反応した、嫌な予感を覚えたので次男をこっぴどく怒鳴りつけた。長女も居間でその様子を見ていた。でも、教訓は活かされず「事故」は防げなかった。

 本書は、まず「なぜ人はミスをし続けるのか」という視点から人間のミスを起こす原因を解析し、次に実践編として「ミスはこう防ぐ」と事務手続きや作業手順などの改良法について述べている。この本に記述されている対策の多くはそのまま工学分野での安全に関わるものであり,参考にすべきものである。

 さらに、「「クリック一つで大損失」の時代!」について述べている。第一章において、近年の情報化に伴い、小さな事務ミスの影響が大変大きなものになる現状を認識させようとしている。現代の事務ミスは昔ののどかな時代の事務ミスとは大きく異なるのである。

 この本には「異常検知力」の重要性が説かれている。

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2016.03.17

「世界の人口は何億人ですか?」(江頭教授)

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 以前、学部一年生の学生を対象とした環境の授業を行っていた頃の話です。「世界の人口は増え続けており、地球環境への不可も増加している」という話と一緒に、表題の「世界の人口は何億人ですか?」というクイズをだしていました。授業をはじめて数年、面白いことに気がつきました。このクイズの答えを間違える人が多い。それも実際の数字よりも少し少なく答える人が多いのです。

 どうしてだろう?大学一年生の学生さんが世界人口の数値に触れたのは、おそらく彼らが高校生のころではないでしょうか。そのときに最新の人口の数値を覚えたとすると、大学1年になるまでの2~3年で世界人口が増えてしまう。近年、世界の人口は1年当たりにおよそ1億人くらい増えている、それで少しずれが生じる、ということになるわけです。

 なるほど。これは大学生以外にも使えるのでないか。世界人口はずっと増え続けていますから、「あなたが習ったとき、世界の人口は何億人でしたか?」と聞けばその人が何歳くらいかわかることになりそうです。

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2016.03.16

講義 「有機化学1」 第15回目の講義から 有機化学の目指すもの(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよ最終回です。今回のブログはこの講義をとおして片桐の伝えたかったことをお話しします。

 初回の講義でお話ししたように、有機化学は科学の三論(理論、各論、方法論)の中の各論に相当します。その守備範囲は有機化合物全般になります。

 有機化合物はその結合のつながり方やその立体配置などにより、文字通り数えきれないほどの集団を形成しています。これらの化合物の作り方や性質(物性)あるいは反応(反応性)などをすべて調べて、記録できればそれにこしたことはないのでしょう。しかし、それは不可能なことです。そして、このようなアプローチは新規な化合物についての「予見性」を持ちません。

 分子構造解析手段の進歩により、その分子の持つ構造の類似性(Similarity)から分類し、整理する博物学的にアプローチできるようになりました。その際に、「このような官能基を持つのだからこのような性質を持つだろう」、というような定性的な仮説を立てることが可能になりました。さらにエネルギーという尺度を導入することによりこの分類は定量化されるようになりました。これにより分子の物性を予測することもある程度可能になり、さらに求める性質や機能を持つ有機分子を設計することも可能になりつつあります。

 反応についても、19世紀までの反応資剤と生成物の関係を元にした博物学的な取り扱いから、反応中間体や遷移状態を仮定すること=反応機構の仮定により、類似性による整理とそのエネルギー的な理解は飛躍的に進み、それを元にした新しい反応開発の指針も与えられるようになりました。これは生成物の構造を元にしたオリジナルのMarkovnikov則が中間体の安定性を元にするmodern Markovnikov則へと進化した話からも理解できると思います。

 しかし、このような仮説は日々改訂されています。

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2016.03.15

「これはサステイナブルだ」「これはサステイナブルではない」(江頭教授)

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 サステイナブルが「正直わからないカタカナ語1位」というのは困った話ですね。では、サステイナブルという言葉を解説してみましょう。

「サステイナブルという言葉が最初に用いられたのは有名な『成長の限界』の中でですね。その後ブルントラント委員会の最終報告書、『Our Common Future』で述べられた持続可能な開発、サステイナブル デベロップメントがこの概念を決定づけたと言われています。これは将来の世代のニーズを損なうことなく現代の世代のニーズを満たすような開発、ということで…」

「あー、その辺は良いからもっと具体的な話をしてよ。これはサステイナブルだ、というのを何か挙げてくれないかな?」

「…………」

そうなんですよね。サステイナブルなものの具体例を挙げることはむずかしい、というか非常に長い時間を考えると全てのもには終わりがあるわけで厳密な意味でサステイナブル、つまり持続可能なものは存在しないことになってしまいます。

 サステイナブルというのはある種の理想的な状態のことで、厳密には実現不可能だがその実現に向けて努力することが大切だ、というタイプの概念です。

 では、なんでこの様な概念が強調されるのか。

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2016.03.14

雑感 サステイナビリティの認知度 「サステイナブル」?、 「サスティナブル」?、「サステナブル」?(片桐教授)

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 先日、ネットでニュースを見ていると、ちょっと困ったなあと思うニュースを見た。

正直わからない…カタカナ語1位は

http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20160108-00046897-r25

栄えある(?)1位は サステナビリティ(意味:持続可能性)18.5%


でした。以下:

2位 オーソライズ(意味:公認)17.0%


2位 フィジビリティ(意味:実行可能性調査)17.0%

4位 アセット(意味:資産、財産)15.5%


4位 オルタナティブ(意味:代替案)15.5%


6位 ハレーション(意味:他に影響を及ぼすこと)14.0%


7位 バジェット(意味:予算、予算案)11.0%


7位 アライアンス(意味:提携)11.0%


9位 ダイバーシティ(意味:多様化)10.5%


10位 スキーム(意味:事業計画)9.0%



11位 ステークホルダー(意味:利害関係者)7.0%


12位 コミットメント(意味:約束、責任を持つ)6.5%


13位 コンセンサス(意味:合意)5.5%


13位 ベネフィット(意味:有益、利益)5.5%


15位 リソース(意味:資源、資産)2.5%


 調査母集団が20代〜30代の男性会社員200人と限られているため、これがそのまま社会の認知度とは言えません。そして、有効な回答者が110人であったこと、聞いたことがないことばは除外していることは、この統計の信頼性は余り高くないこと、サステイナブルの非認知度は18.5%よりもはるかに高いことを意味しています。

 しかし、「サステナビリティ(持続可能性)」については、そのカタカナ表記の問題があります。

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2016.03.11

講義 「有機化学1」 第15回目の講義から-1 分子軌道法について エチレンとブタジエンのπ結合について(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は共役系をもつ有機化合物についていくつか…。

 この講義では、分子軌道法、特にヒュッケル分子軌道法を用いて共役系の(半)定量的な取扱について説明しました。

 このとき、炭素のπ電子の元々の軌道=2p軌道のエネルギー準位をαとし、共鳴エネルギー=結合形成による軌道の安定化の程度のエネルギーをβとしました。そして軌道エネルギー準位図を作成しました。

 エチレン分子の場合、そのエネルギー準位図にはα+βの結合性軌道とα−βの反結合性軌道が書き込まれます。このとき安定化の程度はマイナスの値になるため、βは常にマイナスの値です。そのため、α+βの結合性軌道の方が、α−βの反結合性軌道よりも低い位置に書き込まれます。電子はより安定なα+βの結合性軌道に2つはいります。したがって、結合の形成により、元々のp軌道のエネルギー値であるαよりも電子1つあたりβだけ安定化することになりますので、エチレンのπ結合の結合エネルギーは2βと見積もられます。

 さて、線形代数学(C)の講義の固有値問題の話で述べたように、ブタジエンの場合はヒュッケル分子軌道法で4つの固有値=eigen valueが求まります。このeigen valueと言うことばはもともと量子力学でディラックさんがつくったことばだそうです。その意味では数学もその応用分野の要請で発展していることがわかります。

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2016.03.10

「サチる」は化学者の方言?(江頭教授)

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 昔、私が大阪に転勤してすぐの話です。大学のイベントでパソコンを使った展示を行いました。無事イベントが終わって…

  「会場のパソコン、なおしといて。」

  「えっ?パソコン壊れたんですか?」

この「なおす」という表現、関西の方言で「片付ける」という意味なのだそうです。

 さて、方言というもの、本来は各地方固有の言い回しのことですが、職業による特徴的な言い回しもあります。いわば化学者の方言、とでも言うべきものでしょうか。その中でも以前から気になっていた表現が「サチる」という言い回し。皆さんは意味がわかるでしょうか。あるいは普通に使っていますか?

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2016.03.09

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-7 不純物 NMR測定の実際に役立つ論文(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行くのですが…、今回は少しアドバンスな話です。

 実際にNMRを取ると、不純物が多く混入しています。重クロロホルムは原則、冷蔵保管です。そのため、冷蔵庫から出して使うときに、まだ冷えていると結露して水が混入します。エバポレーターで飛ばしたはずの酢酸エチルやエーテルの混入は…ため息が出ます。そして、このような不純物の溶媒は使用した重溶媒により化学シフトが微妙に異なるため、それが本当に不純物なのか、それとも生成物のピークなのか判別が難しい場合もあります。

 そのようなときのお役立ちとして、1997年のJournal of Organic Chemistryの論文を紹介します。J. Org. Chem. 1997, 62, 7512-7515の論文は、いろいろな重溶媒中のいろいろな不純物溶媒の化学シフトなどをまとめたものです。とっても役に立ちます。引用回数はさほどではありませんが、最も多くダウンロードされている論文だそうです。

 この論文は、論文と言うよりもデータベースのようなテクニカルレポートです。しかし、このような論文を書くことを企画した著者の、その視点に敬服します。

 サンプル中の不純物には,本当〜っに泣かされます ( ; _ ; )。

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2016.03.08

春の保護者懇談会、学外でも行います(江頭教授)

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 本学科に新入生を迎えてからそろそろ一年。2年生になると保護者の皆さんも学生諸君の大学での様子が気になるところでは、という配慮でしょうか、本学では例年5月に保護者懇談会が行われています。

 工学部でも今年の5月に初めての春の保護者懇談会が行われます。八王子キャンパスで5月15日、16日の土日を使って希望されている保護者の方と面談する予定です。東京近郊に実家のある学生諸君の保護者の方はこちらに参加していただければ良いのですが遠方からの学生さんの保護者の方が参加するには少し大変でしょう。そこで、学外での懇談会も行います。

 盛岡、仙台、水戸、松本、広島、福岡、札幌、静岡、名古屋、郡山、新潟、宇都宮、長野、富山、高崎。全国15ヶ所でホテルを借りて懇談会の会場とします。

 さて、懇談会の教員側の担当は学生委員の仕事、つまり私(江頭)の仕事です。八王子キャンパスは良いのですが学外の会場を全部担当するのは大変なので、工学部の教員の間で分担することになっています。

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2016.03.07

グリーンケミストリー、クリーンケミストリー、ITRSそしてサステイナブル工学 (高橋教授)

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 工科大学工学部が目指すサステイナブル工学を支える化学のひとつに、グリーンケミストリー(green chemistry)があります。グリーンケミストリーの考え方は、化学製品を設計、合成、応用するときに、人や生態系への悪影響を最少にし、かつ経済的・効率的に実現するというものです。では、クリーンケミストリー(clean chemistry)とはどういうものでしょうか?

 インターネット検索で“クリーンケミストリー”を検索すると、「グリーンケミストリー」の間違いではないか、と表示されました。皆さんも、そう思われたかもしれませんが、タイトルに揚げたのは“クリーンケミストリー”です。検索結果の中に、「純度」、「コンタミネーション(汚染)」というキーワードがありました。そうです。クリーンな状態を創出するための化学です。なんだ、お掃除か、と思わないでください。これなくして現代のIT(ICT、そしてIoT)技術は成り立たないと言っても、過言ではないでしょう。そして、クリーンケミストリーは応用化学科で行っている、化学の力でIT(ICT、IoT)技術を向上するための教育・研究のひとつです。

 現代の私たちの生活を支え、より良い生活環境を提供し続けているIT技術は、スマートフォン、タブレット、パソコンだけでなく、あらゆる電化製品や太陽光発電に用いられています。電化製品に使われているIC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)、太陽光発電パネルに使われている太陽電池の基幹部分では半導体デバイスが働いています。この半導体デバイスが正常にそして効率的に動作するためには、使われている半導体材料がクリーンでなければなりません。

 さて、どのくらいクリーンでないといけないのか。それは、タイトルにあるITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors:国際半導体技術ロードマップ)でまとめられています。

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2016.03.04

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-6 CIDNPと緩和(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行くのですが…、今回は少し脱線です。

 CIDNPという測定があります。これはラジカル反応の生成物では、ゼーマン開裂による2つの状態にある分子数が乱れるために、異常な吸収スペクトルを示すというものです。ラジカル反応でも反応が早くてその中間体ラジカルを電子スピン共鳴法(ESR)で観測できない場合には、このCIDNPの測定がその中間体ラジカルの状態などについての情報を得る手段として有効です。この詳細については、専門書やKaptein則などのキーワードで調べてみてください。

 さて、片桐は大学院生の頃、Grignad反応を研究していました。あるとき文献でBlomberg先生がCH3CH2BrとMgをTHF中で反応させながら1H NMRを測定すると、生成物のCH3CH2MgBrのメチレン基がCIDNPを示すという論文を読みました。

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2016.03.03

ハラスメントに関する講習会が開かれました。(江頭教授)

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 東京工科大学では月に一度、八王子キャンパス、蒲田キャンパスでそれぞれに「全学教職員会」と称した講習会を開いています。学長が大学の運営方針を説明する回もありますし、各学部がそれぞれの教育目標を発表する回もあります。時には外部講師をお願いして大学の教育にかかわる最新の話題を解説していただくこともあります。

 今週開かれた「ハラスメント講習」もその1つで名川・岡村法律事務所の丸山恵一郎弁護士、池田千絵弁護士、鈴木修平弁護士から学校におけるハラスメントについてのお話をして頂きました。ハラスメントの定義や種類の説明に始まって具体的な裁判事例の紹介、ハラスメントへの対策・対応の解説、という内容でした。

 裁判事例はさすがに「これはひどい」という行為が多く、ある意味分かり易いハラスメントでした。ただ、自分達の問題として考えると、ここまではっきりした問題行動には至らずとも教員と学生との関わりの中で、教員にそのつもりが無くても学生が不快に感じるケースがあるかも知れません。学生は教員と学生とのある種の上下関係のもとで弱い立場にある、その点では対等な関係ではありませんから、この様な問題を当事者間で解決することは困難になります。今回の講演で、なるほど、と思ったポイントもこの対等な関係ではないということに関連しています。

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2016.03.02

講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-5 核磁気共鳴の積分値と緩和(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。

 

 NMRから得られる情報は多々あります。その中でも積分値はその核種の相対的な存在比を与えるものです。しかし、この積分比は1H NMRや19F NMRでは使えますが、13C NMRでは使えません。これは「緩和」の問題です。

 NMRの観測エネルギーはMHz帯の電磁波としては弱いものです。これは2つの状態の間の差が小さいことを示します。そのため、2つの状態の存在比の違いはわずかです。しかも、13C NMRは核種そのものがなかなか緩和しにくい性質を持っています。特にカルボニル基の炭素は積算を繰り返すと飽和してしまい、相対強度が下がり、見えなくなることがあります。また、13Cは天然存在比が少ないので、測定感度も低く、そのため多回数の積算を必要としますから、なおさら飽和しやすくなります。さらに、最新の機種では余り心配は要らないのですが、昔のNMRはデーターポイント数が少なく、1H NMRのように20ppmの範囲を測定する場合と異なり、13C NMRは300ppmの範囲を測定するため、一つのピークに使えるポイント数が少なく、その積分比は測定ごとにばらつくことがありました。

 それでも、無理矢理に13C NMRで積分比を得るにはどうしたら良いか?。以下は本来は禁止手ですので、実際にはやらないでください。そのためにはサンプルの量を増やし、緩和を早くすれば良いわけです。

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2016.03.01

学生実験室は学科の顔? 「大学案内2017」編集中です.(西尾教授)

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 現在,東京工科大学を外部の方々に紹介するための冊子,「大学案内」の次年度版(「大学案内2017」)の編集を進めています.先日は,応用化学科のページに載せる画像を撮影しました.下の写真はその時の様子ですが,学科の1年生に撮影に協力してもらいました.

 撮影場所は,応用化学科の顔とも言える学生実験室です.

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