グリーンケミストリー、クリーンケミストリー、ITRSそしてサステイナブル工学 (高橋教授)
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工科大学工学部が目指すサステイナブル工学を支える化学のひとつに、グリーンケミストリー(green chemistry)があります。グリーンケミストリーの考え方は、化学製品を設計、合成、応用するときに、人や生態系への悪影響を最少にし、かつ経済的・効率的に実現するというものです。では、クリーンケミストリー(clean chemistry)とはどういうものでしょうか?
インターネット検索で“クリーンケミストリー”を検索すると、「グリーンケミストリー」の間違いではないか、と表示されました。皆さんも、そう思われたかもしれませんが、タイトルに揚げたのは“クリーンケミストリー”です。検索結果の中に、「純度」、「コンタミネーション(汚染)」というキーワードがありました。そうです。クリーンな状態を創出するための化学です。なんだ、お掃除か、と思わないでください。これなくして現代のIT(ICT、そしてIoT)技術は成り立たないと言っても、過言ではないでしょう。そして、クリーンケミストリーは応用化学科で行っている、化学の力でIT(ICT、IoT)技術を向上するための教育・研究のひとつです。
現代の私たちの生活を支え、より良い生活環境を提供し続けているIT技術は、スマートフォン、タブレット、パソコンだけでなく、あらゆる電化製品や太陽光発電に用いられています。電化製品に使われているIC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)、太陽光発電パネルに使われている太陽電池の基幹部分では半導体デバイスが働いています。この半導体デバイスが正常にそして効率的に動作するためには、使われている半導体材料がクリーンでなければなりません。
さて、どのくらいクリーンでないといけないのか。それは、タイトルにあるITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors:国際半導体技術ロードマップ)でまとめられています。
ITRSによれば、半導体デバイスで求められているクリーンさは、1平方cm当たりの余計な(汚染)原子は109個程度にしなさい、というものです。ゼロでなくて良いの? 原子が109個もあって良いの? と思うかもしれません。確かに相当な数ですね。でも、忘れないでください。1モルの水には、6.02×1023個(アボガドロ定数)のH2O分子が含まれているということを。
1平方cm当たり109個の原子というのは、1 cm当たりの1辺に32,000個の原子が並んでいること(平均すると)になります。では、隣り合う原子の距離を想像することにしましょう。原子は半径が10-8cm程度です。原子の大きさが、あなたの勉強机の上の1 mm程度のホコリ大としたらどうなるでしょう。ずばり、ホコリ(原子)とホコリ(隣の原子)の間隔は約3 mになります。3 m離れてポツン、ポツンとホコリ(原子)があるだけ、あとは何もない状態。そのくらいのクリーンさが求められているのです。皆さんも掃除をしてホコリひとつ無い状態にしたつもりでも、ほんの少し残っているということはありませんか? ホコリとホコリの間隔が3 mの状態となると、勉強机(幅が1 m程度としたら)の上にはひとつのホコリも許されないことになりますね。
このような究極のクリーンさを実現するための化学が、クリーンケミストリーです。述べてきたようなレベルまで半導体材料などを清浄化(クリーンに)することで、ITデバイスの省電力化が進み、太陽電池のエネルギー変換効率が向上します。このことは、エネルギーを効率よく使用することにつながりますから、クリーンケミストリーはまさにグリーンケミストリー、サステイナブル工学の考え方を具現化するものと言えるでしょう。応用化学科では、溶液中での化学反応を駆使してクリーンケミストリーの研究を行っています。サステイナブル社会を実現するために、皆さんも一緒にクリーンケミストリーを学びませんか?
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