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書評 中田亨「「事務ミス」をなめるな!」光文社新書(2011)(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

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 間違いを指摘すると「単なるケアレスミスです。次から気をつけます。」と当たり前のように言う者がいる。そのような者を見ると「アホかっ!」と怒鳴りつけたくなる。古今東西、多くの重大事故は「ケアレスミス」に起因している。そのような重大事態に「次」はない。

 先日、うちの次男がそのような言い訳をしたので目から火が出るほどに怒り付けた。その数日後、長女がセンター試験の解答する問題(数1Aを解くつもりで数1を解いたらしい)を間違い、取り返しのつかない事態に落ち込んでいる。本人も親も大きな時間的経済的損失を被ることになりそうである。数日前に次男を怒鳴りつけたとき、私は「ケアレスミス」ということばに大きく反応した、嫌な予感を覚えたので次男をこっぴどく怒鳴りつけた。長女も居間でその様子を見ていた。でも、教訓は活かされず「事故」は防げなかった。

 本書は、まず「なぜ人はミスをし続けるのか」という視点から人間のミスを起こす原因を解析し、次に実践編として「ミスはこう防ぐ」と事務手続きや作業手順などの改良法について述べている。この本に記述されている対策の多くはそのまま工学分野での安全に関わるものであり,参考にすべきものである。

 さらに、「「クリック一つで大損失」の時代!」について述べている。第一章において、近年の情報化に伴い、小さな事務ミスの影響が大変大きなものになる現状を認識させようとしている。現代の事務ミスは昔ののどかな時代の事務ミスとは大きく異なるのである。

 この本には「異常検知力」の重要性が説かれている。

この本に記述されている異常検知力は「合理的」なものである。しかし、世の中には第6感というものもありそうである。私の母方の祖父は1945年7月に「嫌な予感」を得て、広島から山一つ向こうの西条へ移り、母は被爆を免れた。私もその遺伝であろうか、研究室の責任者としての「よくあたる片桐のイヤな予感」は私の周囲で認識されている。しかし、この「よくあたる片桐のイヤな予感」という評判にはその前に「役に立たない」という枕詞がつく。もし、「イヤな予感」が当たれば、それは嫌な予感がしても事故防止には役立たなかったことになる。事故防止に成功すれば、「イヤな予感」はあたらなかったことになる。結局、「イヤな予感」は役立たずということになる。

 事故防止のために大事なことは、一人一人がその第6感をもつようにつとめることであろう。第6感と言っても、根拠のない、エスパー的なものではなく。わずかな違和感や空気の違いなどによる,無意識的なものであり。その意味では五感の統合である。その意味で「異常検知力」を磨くことは、重要である。

 この本は、そのような五感の磨き方、使い方とそれにより得られた情報の適切な処理と結論付けについて合理的にまとめた本である。

片桐 利真

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