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2016年4月

2016.04.29

サステイナブルではなかったフロン冷媒(江頭教授)

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 クーラーや冷蔵庫のような冷凍機に冷媒として用いられているフロンの開発と改良の歴史はSustainableな社会の構築と化学物質の開発に関して示唆に富んだ実例であると思います。以下にフロン冷媒とオゾン層の歴史を振り返ってみましょう。

 冷媒にふさわしい物質にはいくつかの条件がある。大気圧近くでの沸点が特定の温度領域にある物質が冷媒として利用しやすい。当初はアンモニア(沸点-33.3℃)が利用されていたが、においが強いうえに毒性が高く施工時の事故原因ともなっていた。

 そこで、1920年代頃に新たな冷媒として「フロン」が開発された。ただ、「フロン」という特定の物質が存在するわけではない。フロン、あるいはフロン類という用語はある種の化学物質のグループを指し示すもので、厳密な定義があるわけではないが、一般に図のようなメタン・エタン・プロパンといった炭化水素化合物の骨格に水素の代わりにフッ素や塩素などの原子が結合している物質を示している。炭素とフッ素、炭素と塩素の結合は非常に強い結合であり空気中ではほとんど分解することがない。分子の中で原子が硬く結びつき合っていて常温でその結合が切れることがなく、生体分子との相互作用も小さい。したがって顕著な毒性もなくほぼ無臭である。炭素の骨格とフッ素・塩素の結合数と位置の組み合わせによっていろいろなフロンを合成することができ、その沸点も変化するので、沸点が適切な温度領域にあるフロンを選んで冷媒として用いることができた。

 ここまでは、新たな化合物の合成を通して人々 (People) の快適な生活 (Prosperity)の実現のために化学が役立った、という具体例だと言えるだろう。しかし、後に環境への悪い影響、それも文字通り地球 (Planet) レベルの影響がフロンによって引き起こされていることが判明する。

 

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2016.04.28

農薬は恐ろしいものか?(片桐教授)

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 無農薬の野菜は、それだけで付加価値を持ちます。

 農薬のうち、殺虫剤は昆虫を殺す毒ですから、それを摂取した人間にも毒として働くに違いない、と考えるのは、ごく自然な認識だと思います。でも、農薬は本当に人間に有害なのでしょうか?、無農薬野菜は本当に安全なのでしょうか?。

 農薬による環境汚染問題を最初に提起したのはレイチェル・カーソンの「沈黙の春」でした(本ブログ「レイチェル・カーソン「沈黙の春」の暗黒面)。この本により血祭りに上げられたのがDDTという農薬でした。この農薬についてはJ. Emsley「化学物質ウラの裏」丸善に詳しく説明されているのでそれを読んでいただきたいと思います。戦後、この薬のおかげで昆虫により媒介される多くの病気を抑えることができ、多くの命を救いました。これによりこの農薬の実用化に貢献したミュラーは1948年のノーベル医学生理学賞に輝きました。

 いずれにせよDDTは「嫌われ」てしまい、現在はほとんど使われていません。特にその長期にわたり環境へ残存し、汚染する性質が嫌われました。

 このDDTの轍を踏まぬように、その後に開発されてきた多くの農薬は、人間への有害性はほとんどなく、環境で分解しやすいものになっています(ただし、農薬の作り方によっては、その不純物が体に悪影響を与える恐れがあるのは、否みません)。現在、日本でしようされている農薬についうていえば、健康への影響は考える必要がほとんどありません。その健康や環境への影響評価は、医薬品並みの厳しさで行われているそうです。

 それでも、農薬を恐ろしく感じるのは、それが人工の化学物質だからではないでしょうか。リスク認知に関する心理学的な研究では人工のものは天然のものよりも恐ろしいと認識されやすいようです。

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2016.04.27

サステイナブル工学の目指すもの(江頭教授)

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 今学期、2年生向けに開始された授業「サステイナブル工学基礎」はサステイナブル工学に関する最初の専門科目です。今回、その中でサステイナブル工学と化学の関係について講義を担当する時間をもらいました。この機会に私なりにサステイナブル工学の目標についてまとめておきたいと思います。

 サステイナブル工学は現在の社会の良いところを保ちつづけることを目標としています。

 産業革命の結果として形成された現代の社会は成長することを前提とした社会でした。しかし成長することを前提とした社会はサステイナブルではなく、このままではやがて行き詰まり滅びてしまいます。以前は科学の進歩が成長の維持を可能にすると期待されていましたが、「成長の限界」では科学技術の進歩を考慮しても継続的な成長は不可能であると考えられるようになってきました。われわれの社会は成長(=量的増大)を野放図に目指すことから卒業し、発展(=質的充実)を目標とすることでサステイナブルな状態に移行する必要があるのです。私はそのための工学がサステイナブル工学だと思います。

 ここで、まず明確にすべきなのはサステイナブル工学が目指す社会は産業革命以前の社会とは、一面では類似しているとしても、まったく別の社会であるという点です。

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2016.04.26

レイチェル・カーソン「沈黙の春」の暗黒面(片桐教授)

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 レイチェル・カーソンの「沈黙の春」は罪深い書籍です。
もし興味があれば、いちど読んでみてください。このブログを読む前にこの書籍を読めば、あなたはこの本に洗脳されてしまうかもしれません。それほどに影響力の強い本です。

 この書籍は、農薬による環境破壊の恐ろしさを訴えたものです。農薬(DDT)の散布により、虫は死にカエルは死に鳥は消え、そして我々も…という恐怖を駆り立てさせられる本です。この本に感銘を受けたケネディ大統領はアメリカにおけるDDTの生産を禁じました。しかし、その禁止はもっと大きな災厄の源になってしまいました。

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2016.04.25

一酸化炭素はなぜ危険か(江頭教授)

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 皆さんは「締め切った部屋でストーブを焚いている場合は、ときどき換気しましょう」という注意を聞いたことがあるのではないでしょうか。これはストーブが不完全燃焼した場合、締め切った部屋だと一酸化炭素が溜まって、一酸化炭素中毒を引き起こす、それを防ぐための注意喚起です。

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 では、なぜ一酸化炭素で中毒が起こるのでしょうか。「一酸化炭素は赤血球のなかのヘモグロビンと酸素より強く結びついてしまって離れない。酸素を体内に運ぶヘモグロビンが一酸化炭素に占拠されると体内に酸素を運べなくなって息ができても窒息してしまう。」というのが、その理由です。

 ここまでは良く聞く話ですが、もう一方踏み込んでみましょう。では、いったいどれだけの一酸化炭素を吸い込んだら危険なのでしょうか。

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2016.04.22

書評「背信の科学者たち」 副題:なぜ小保方さんは断罪されたのか(片桐教授)

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W. ブロード、N. ウェイド「背信の科学者たち」

 化学同人(1988)、講談社Blue Backs(2006)、講談社(2014)

今回はもう30年以上にわたり何度も版を変えて出版されているこの本を紹介します。

 片桐の有機化学Iの講義では、有機化学の発展の歴史に関しても講義を行いました。これについては以前のブログ(2016.3.16)にも記載したとおりです。

 多くの実験事実の間の類似性から、博物学的(分類学的)にその事実を解析し、それを元に仮説(理論)をたて、その理論にあわない/反する実験事実が得られた場合にはその理論を棄却し、新しい理論を構築して行く、という「組織的懐疑主義」に基づく理論の構築こそが、有機化学をおし進めてきました。

 ここで、大事なことは実験結果は事実であり、理論は意見だということです。実験結果は常に正しく、理論は間違っているかも知れないと言うことです。そして、実験結果は常に「正しい」ことが要求されるということです。もし、実験結果が事実でなければ、それを元にした理論は全く意味がなくなる。理論を立てる努力を無駄にさせる。それはその後の多くの科学研究の足を引っ張ることになります。

 先のブログ(ハメットさ〜ん)において,故意ではないにしても実験結果の間違いが50年の月日を越えて学生時代の私を苦しめた話を紹介しました。

 今回紹介した、この「背信の科学者たち」を読まれると、彼らが行った行為の何がいけなかったのか、がわかります。

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2016.04.21

学生実験をみてみよう(第3期) 「2年生の実験がはじまります」(江頭教授)

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 昨年度、1年前期の「工学基礎実験Ⅰ」、後期の「工学基礎実験Ⅱ」を紹介したこのブログの「学生実験をみてみよう」シリーズですが、2年目に入り、今度は2年生の学生実験を紹介してゆきたいと思います。

 2年前期の学生実験は「応用化学実験Ⅰ」という科目名になりますが実験の場所は工学基礎実験とおなじ学生実験室です。実験は火曜日の午後に行われます。新一年生は金曜日の午後に「工学基礎実験」を行いますから、本学科の学生実験室もやっと稼働率が上がってきた、ということでしょうか。

 さて、2年生の実験の内容は物理化学実験と有機化学実験の二つに大別されます。学生実験室は二つの部屋に分かれているので、実験も物理化学実験と有機化学実験に分かれて行います。本学の特徴的な建物、研究棟が見える窓側の部屋では有機化学実験を、奥の実験室では物理化学実験を行います。

 有機化学実験と物理化学実験、両者には特徴的な違いがあります。

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2016.04.20

「ハメットさ〜ん」(片桐教授)

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 コメディアンの高田純次が、テレビ番組「情熱大陸」の中で、「歳とってやっちゃいけないことは説教と昔話と自慢話」とおっしゃっていたようです。そうすると私のブログ記事はほとんど「やっちゃいけないこと」になります。でも、科学者は事実を過去形で話す義務があり、その意味で昔話はさけられません。今回も説教臭い昔話で一部自慢話になります。

 

 さて、ハメット則(ハメットの置換基定数)については以前のブログ(2015.11.04でも紹介しました。これは、分子構造中の置換基の反応への影響を定量的に、エネルギーを尺度として表そうという考え方で、現在の有機化学の礎(いしずえ)のひとつです。

 

 学生時代、Grignard反応の生成物(付加生成物と還元生成物)の生成比をこのハメットの置換基定数を用いて説明しようとしました。12種類の置換基を持ったベンゾフェノン(benzophnnones)とエチルマグネシウムブロミド(ethylmagnesium bromide)の反応では,付加生成物の他にMeerwein-Ponndorf-Verley型のβ—水素還元による還元生成物が副生します。その生成比はベンゾフェノンの一電子還元のされやすさに関係します。

 さて、この12種類のベンゾフェノンについて、その生成物比の対数を縦軸に、ハメットのσ値を横軸にグラフ(散布図)を作成すると、一点をのぞいてすべて見事に一本の直線上に整列しました。もちろん、化学反応の結果ですから実験結果のばらつきがあります。そこで、その外れた点を与えたベンゾフェノンについて、さらに実験を繰り返しました。そうすると、標準偏差を表すエラーバーの大きさはどんどん小さくなるのですが、その点の値はほとんど動きません。国際学会発表の2週間前に、焦りながら実験を繰り返しました。しかし、エラーバーはますます小さくなるのですが、その点は直線にどうしても乗ろうとしませんでした。

 正直に告白すれば、「学会発表のスライドからこの点を除外しようかな」という誘惑を感じました。しかし、それは実験結果のZappingと言う不正行為であることも以前に読んだ書物で意識していました。最終的には、「誰もこの点に気がつきませんように」と祈りながら、1点だけぽつんと離れたグラフを学会発表に使いました。

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2016.04.19

片柳研究棟の昼(江頭教授)

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 本学の授業が始まって一週間以上が過ぎ、もう2回目に入ってた授業もあります。

 大学の授業は前期・後期、各15回の合計30週間。試験期間をいれても34週間ですから、1年52週間のうち約三分の一は授業のない期間です。どこの大学でもそうなのですが授業のないとき、あるときで大学にいる人数は大きく異なります。そこで問題になるのは食事をする場所。

 幸い、本学には厚生棟に大きな食堂が三つ、吉野家やコンビニのサンクスも入っているFOODS FUUといった施設が充実しているため、昼食がとれなくて困る、という話は聞きません。しかし、片柳研究棟にいる我々応用化学科のメンバーは厚生棟やFOODS FUUに行くのにも時間がかかります。学期はじめの忙しいこの時期に重宝するのが片柳研究棟3階のリフレッシュスペースで販売されているお弁当です。

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2016.04.18

手みやげの難しさ(片桐教授)

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 3月16日に岡山大学へ荷物を取りに行きました。いつもこのような時に頭を抱えるのが手みやげです。

 片桐は甘党ですから「お菓子」を持って行きます。片桐 = お菓子にうるさい、というような風評と過度の期待があり、さらにおつきあいのある先生方は舌が肥えているため、どのようなお菓子を持参するかには気を使います。

 

 岡山からお菓子を持参するときには定番の「大手まんじゅう」を持参していました。これは、日持ちが1週間近くあり、1個80円以下の価格、かわいいパッケージ、でも箱入りは堅牢、日本三大薄皮まんじゅうの一つ、という話題性や利便性に加え、なによりおいしいことが手みやげとして好適でした。味だけを言うと、倉敷の藤戸まんじゅうの方が私には好みですが、こちらはそのパッケージが昔ながらの竹皮包みでつぶれやすく、岡山市内では入手が難しく、賞味期間も短く、何カ所にも持参する手みやげには不都合でした。大手まんじゅう以外には、岡山ですから「きびだんご」も持参していました。このとき、駅の売店で簡単に入手できる「廣榮堂本店」ではなく「廣榮堂武田」のものを持参していました。この2つの店は元々同じ店で(どっちが本家であるかは議論がある)お味に大きな違いはありません。食べ比べると、武田さんの方が私好みです。さらに、武田さんが岡山大学工学部精密応用化学の黎明期に教授をされていた武田教授のご実家であり、また息子さんの一人が有機フッ素化学で学位を取られていることなどが話題になります。

 

 さて、八王子に出てきて、「片桐好み」の手みやげをず〜っと模索しています。とっさのときに使うのは青木万年堂のまんじゅうです。これは本学のフーズ・フーのサービスカウンターで売っている「片柳まんじゅう」や「ぱっちいまんじゅう」をつくっているお菓子屋さんです。「葵千人」もおいしいのですが、個人的には「大納言」「多摩のひとつぶ」が好きです。八王子CELEO南館の1階で購入できます。

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2016.04.15

新一年生の盛りだくさんな一日(江頭教授)

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 4月13日(水)は昨日の記事にもあるようにノーベル賞受賞者の天野先生の講演会がありました。もちろん、応用化学科の新一年生もこの講演会に参加しましたが、ほかにもこの日は新一年生は盛りだくさんの一日でした。

 以前の記事「2年生ガイダンスとアドバイザー面談」でも触れましたが、本学では一年生から一人一人の学生に担当の教員がつく、アドバイザー教員と呼ばれる制度があります。卒業研究を行う研究室が決まるまで、その学生の担任の先生の役割をすることになります。

 「フレッシャーズゼミ」はそのアドバイザー教員と学生とが参加する授業で、これは「ホームルーム」の授業といったところでしょうか。

 この日の2限はこの「フレッシャーズゼミ」の授業が行われました。今年は片柳研究棟(写真左上)にあるアドバイザー教員の研究室に学生達を集めて行いました。去年はまだ部屋が準備されていませんでしたからわたしたち教員には感慨が深かったですね。

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2016.04.14

名古屋大学 天野 浩教授 特別講演会(片桐教授)

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 先日(2016年4月13日)にお友達のご縁にすがり、東京工科大学工学部の12年生を対象とした特別講演会で「世界を照らすLED」という題目のご講演をいただきました。片柳研究棟地下ホールは満員盛況で、立ち見まで出ていました。先生には大変ご多忙の中工学振興のために、新しい東京工科大学工学部へ「特別に」エールを送っていただきました。

 

 ご講演の内容は、まず工学的イノベーションを必要とする世界の現状と問題、個の幸せについてのご自身のお考えから高校時代、大学時代に先生の思ったこと考えられたこと、大学時代なぜLEDの研究に突入したのか、研究の進捗と展開、LEDの波及効果とその将来展望、価値についてのおはなしでした。学生の皆さんを引きつける講義でした。そして、最後に先生のいわれた「挑戦、自立,貢献」は若い方々へのエールとして心にひびいたと思います。講演は予定時間を少しオーバーしてしまいました。

 

 今回、うちの学生さんから2つの質問が出ました。

 

 

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2016.04.13

図書紹介 大前研一「ドットコム仕事術」小学館(2003)(片桐教授)

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 コーオプ演習などの講義で「ブレインストーミング技法」などの仕事術のノウハウを習った後に、読むと良い本を紹介する。この本は、いろいろな場面での仕事の進め方について示唆に富む本である。

 著者の大前研一氏は、理系で博士号を取り、技術者として働いた後にコンサルタント企業へ文転し、ビジネス界の大物になった人である。彼の著作は、非常に(非情に?)論理的であり、理系の人間に取っ付きやすい。

 私がこの本の内容を最初に読んだのは「週刊ポスト」に掲載された連載であった(本書第3章部分)。会議では「意見の熟成」のために無用な「沈黙の」時間を多く取り、それが苦痛であった。その連載は提案者の準備すべきことを明確に示していた。それを実戦したところ、会議時間は確かに短くなった。2010年に新しい授業の立ち上げの主幹に任命され教科書作成のとりまとめを行うときも、この本のおかげで、1回あたりの会議時間は1時間をこえることがなく、短いときは20分であった。

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2016.04.12

工学部の化学は「化学工学」じゃないかと思った?(江頭教授)

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 応用化学科で「化学工学」を担当する江頭です。

 昨日の片桐教授の記事に『「化学工学」は工学部で教えられるが、理学部ではあまり教えません。』との記述を見つけました。「化学工学」の担当教員として今回はこの「化学工学」という名称について少し説明をしておきたいと思います。

 読者のあなたがもし高校生でしたら、もしかしてこう思われたのではないでしょうか。

「機械」についての工学を行うのが「機械工学科」これは分かり易い。「電気電子工学科」はなんで「電気」と「電子」を区別するのかな?「化学」の工学をやるのは「化学工学科」だよね。あれっ?なんで「応用化学科」なんだろう…。

 以前にも紹介しましたが、「化学工学」は化学製品の生産技術に関する工学として出発したものです。昔は「化学機械学」などとも呼ばれていましたが、化学工場で使う個々の機械が連結されて化学プラント、コンビナートなどに発展するのとともに「化学工学」という呼び名に変わってゆきました。

 つまり、工学部の化学を「何を作るか」と「どうやって作るか」に分けたとすると、「どうやって作るか」の部分に「化学工学」という名称が割り当てられているのです。

 なぜ「どうやって作るか」の部分が化学工学になったのか?これは今となっては謎ですが私の考えを少しだけ述べさせてください。

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2016.04.11

理学部と工学部の違い(片桐教授)

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 学生さんとの雑談はブログネタの宝庫です(以下略)。

 先日、学生さんとの雑談の途中で「ところで、理学部と工学部の違いって何ですか」という質問が出ました。この質問をこれまでに何度受けたでしょうか。特に高校への出張講義では定番の質問です。私は理学部出身で長く工学部で教えてきました。その立場でこの質問には答えられなければいけない、と思っています。

 理学部と工学部で教えている化学の専門科目の講義はほとんど同じです。「有機化学」「物理化学」「無機化学」「量子化学」「分析化学」…。一方、「化学工学」は工学部で教えられるが、理学部ではあまり教えません。教育内容的にはそのくらいの差しかありません。

 私はこれまでこの問に対して「工学部は人を幸せにすることを目的とし、理学部は人類の知識や知恵を豊かにすることを目的としている」とか、「全知全能のうち、理学部は全知を目指し、工学部は全能を目指す」とかの説明をしてきた。でもこれはウソです。ごめんなさい。例えば化学の世界では知ることはそのままできることの限界を広げることになり、新しくできるようになることは新しく知ることにつながるものです。この知ることとできることは車の両輪のようなもので、片方だけ独立して存在するものではありません。

 村上陽一郎「科学・技術と社会」ICU選書(1999)では、マートンのCUDOSとザイマンのPLACEという考え方を紹介しています。

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2016.04.08

本日(4月8日)から前期の授業がはじまります(江頭教授)

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 東京工科大学八王子キャンパスでは今日(4月8日)から前期の授業が開始されます。これから15週間、キャンパスにまた賑やかな日々が戻ってくることになります。

 私たち応用化学科の新入生の皆さんは入学式から学部ガイダンス、学科ガイダンス、IT講習会と続き、もう授業が始まったように感じているかも知れません。でも本当の授業は今日から。記念すべき最初の授業は「スポーツ実技Ⅰ」。体育館や運動場でのスポーツでリフレッシュする時間ですから、いままでガイダンス続きだった1年生の皆さんには良い気分転換になるでしょう。引き続き午後の授業は「工学基礎実験Ⅰ(C)」です。実験の内容はこのブログ「学生実験を見てみよう」のシリーズでも紹介しましたが、今年度の実験は昨年度の経験からさらにブラッシュアップされています。

 工学部は開設から2年目になりますから、今年は2年生向けの授業も新たに開講されます。今日、応用化学科の新学期の授業のトップバッターは山下教授の「高分子化学」。そして5限には「サステイナブル工学基礎」の授業が写真の片柳研究棟地下ホールで行われます。

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2016.04.07

テレビ番組への感想 NHK BSプレミアム 木曜21時 ボス潜入(片桐教授)

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 仕事モードの脳みそが眠りにつくにはクールダウンのためにぼさっとすることが必要です。そのようなとき、私はテレビを見るともなく見ます。

 木曜日の夜、NHK BSプレミアムの「ボス潜入」という番組を見ました。企業の執行役員や部長がカツラをかぶりほくろを描いて変装し、中途入社希望のおっさんのふりをして、その会社の現場に潜り込み、現場の人の上司に言えない愚痴や現場の問題を実際に見聞きするという番組です。もちろん番組の趣旨は偽っているものの、NHKのカメラがそのおっさんの周りを追うので、対外的に言えないような過激なコメントは、あまりありませんが、それでも見ていて「あっ!それを言っちゃうの?」というようなコメントも見られ、ある意味スリルに満ちた番組です。そして、番組の最後にはそのおっさんの指導役の社員やアルバイトが本社に呼びつけられ、その変装したお偉いさんに面会し、「実は私は…」で種明かしをされ、あらまあ、となる番組なのですが…。

 元々はイギリスBBCの企画を持ち込んだ番組だそうです。しかし、何かすごく既視感を覚えるなあ、と思っていたところ、これって「水戸黄門」とか「遠山の金さん」のパターンではないかと気がつきました。

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2016.04.06

「研究室ひとり」の学会発表(西尾教授)

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 毎年3月末に開催される,社団法人電気化学会の学会発表(今回の開催名は「電気化学会第83回大会」)に今年も参加し,研究発表を行ってきました.現在,研究室は存在しますが,応用化学科の学生は1年生のみですので,連名無しの単名での発表となりました.お笑い芸人に「劇団ひとり」という人がいますが,私の場合は「研究室ひとり」としての発表でした.依頼講演を除いて,大学の教員が単独で発表する事は異例ですので,事情を知らない人には奇妙に映っていたと思います.

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2016.04.05

応用化学科は新たに86名の学生を迎えました。(江頭教授)

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 4月4日に東京工科大学の入学式が行われました。場所は八王子キャンパス体育館のアリーナで、卒業式のときと同様、大学のすべての学部の新入生が参加しました。デザイン学部、医療保健学部の新入生はこれから蒲田キャンパスに通うので、全学部が一同に会するのは、この入学式と卒業式のときだけです。卒業式ではわれわれ工学部の学生は居らず少しさびしい感じでしたが、今回、入学式には工学部の新入生も参加してくれています。応用化学科には新たに86名の新入生があり、これからは1年生、2年生の2学年の学生が所属することになります。

 当日はあいにくの雨でしたが、最初の片柳理事長の挨拶にもあったように、雨は木々の生長に必要なもの、天の恵みでもあります。たゆまず成長を続ける樹木がいつかは大木となるように、新入生諸君にも努力を続けて欲しいものです。

 続いて学長からの挨拶では本学の構成と大学での教育の理念、それを明文化したアドミッションポリシー(入学者受入の方針)、カリキュラムポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマポリシー(学位授与の方針)について説明されました。

 入学式の来賓は三菱総合研究所の小宮山宏理事長。第28代東京大学総長でもある小宮山先生には以前、本学の工学部でも講演をしていただいたことがあります。

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2016.04.04

講義紹介 2年前期「安全工学」(片桐教授)

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 今回は2年前期に行われる授業、「安全工学」について紹介します。

 工学は人を幸せにするための学問です。したがって、その実践には「安全」への最大限の配慮を必要となります。しかし、安全はTPO(Time, Place, Occasion)により大きく異なります。日本の産業と安全を現場から支えてきた「改善提案」の不適切な適用は、1999年に東海村JCOの臨界事故を引き起こしてしまいました。安全には「情報」や「知識」だけではなく、それを現場に当てはめる「知恵」を必要とします。さらに、これからのサステイナブル社会は国際的視野での安全を求めており、それを支えるために必要な学問分野や教養の裾野は広いものです。

 この授業では、安全における倫理学、心理学、法学などの広範な教養・知識の重要性を理解し、安全を推進するための手法や技術を学び、工学部生として知っておくべき危険要因とその発見法を習得し、それを元に社会で「安全を指導する」人材に必要な基礎的な能力の獲得を目指します。

 そして、この講義を受講することにより、 社会・現場での安全指導に必要な技能の獲得を目指します。つまり、正しく状況を把握する「取材力」(危険発見・分析・評価能力)、安全に関する正しい基礎的な知識に基づく「理解力」(国際的教養と安全の専門知識)、正しく安全対策を考える「思考力」(論理的思考力)、そして、相手を考慮したうえで自分の考えを正しく伝える「表現力」(リスク・コミュニケーション能力)、の4つの能力の習得を目指し、安全に関する問題解決能力の獲得を目指します。

 

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2016.04.01

片柳研究棟の夜(江頭教授)

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 我々工学部応用化学科の研究室は本学八王子キャンパスの片柳研究棟(写真の建物)にあります。

 もちろん、この建物には応用化学科の他にもいろいろな学科の研究室や施設があります。メディア学部のクリエイティブラボ/コンテンツテクノロジーセンターもそのひとつで、私(江頭)の研究室と同じ4階にある施設です。

 先日、この施設を利用しているメディア学部の学生さんに「江頭先生」と声をかけられました。実は私は工学部が開設される前の年、メディア学部の学生さんのフレッシャーズゼミを担当していて、そのときの学生さんたちとはアドバイザー教員として定期的に面談しています。声をかけてくれた学生さんもその一人でした。聞けばAnime Japan 2016 というイベントに本学が出展する、その作品の一つを仲間と一緒に製作している、という話でした。イベントが近づくとどうしても時間が足りず、授業の後に時間をみつけて作業をすすめていたのだそうです。

 化学系の学科でも研究のための実験に多くの時間が必要となることが珍しくありません。

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