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農薬は恐ろしいものか?(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 無農薬の野菜は、それだけで付加価値を持ちます。

 農薬のうち、殺虫剤は昆虫を殺す毒ですから、それを摂取した人間にも毒として働くに違いない、と考えるのは、ごく自然な認識だと思います。でも、農薬は本当に人間に有害なのでしょうか?、無農薬野菜は本当に安全なのでしょうか?。

 農薬による環境汚染問題を最初に提起したのはレイチェル・カーソンの「沈黙の春」でした(本ブログ「レイチェル・カーソン「沈黙の春」の暗黒面)。この本により血祭りに上げられたのがDDTという農薬でした。この農薬についてはJ. Emsley「化学物質ウラの裏」丸善に詳しく説明されているのでそれを読んでいただきたいと思います。戦後、この薬のおかげで昆虫により媒介される多くの病気を抑えることができ、多くの命を救いました。これによりこの農薬の実用化に貢献したミュラーは1948年のノーベル医学生理学賞に輝きました。

 いずれにせよDDTは「嫌われ」てしまい、現在はほとんど使われていません。特にその長期にわたり環境へ残存し、汚染する性質が嫌われました。

 このDDTの轍を踏まぬように、その後に開発されてきた多くの農薬は、人間への有害性はほとんどなく、環境で分解しやすいものになっています(ただし、農薬の作り方によっては、その不純物が体に悪影響を与える恐れがあるのは、否みません)。現在、日本でしようされている農薬についうていえば、健康への影響は考える必要がほとんどありません。その健康や環境への影響評価は、医薬品並みの厳しさで行われているそうです。

 それでも、農薬を恐ろしく感じるのは、それが人工の化学物質だからではないでしょうか。リスク認知に関する心理学的な研究では人工のものは天然のものよりも恐ろしいと認識されやすいようです。

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 その逆の一例として「イソフラボン」をあげられます。イソフラボンは大豆に含まれる成分で、女性ホルモンの不足している状況でそれを補う効果があるとしてオバサマ方にもてはやされました。しかし、この女性ホルモン様活性を持つということは、環境ホルモンと同じ作用を持つということです。

 イソフラボンは、大豆が自分を食べる動物を不妊化させることを目的とした天然農薬ではないかといわれています。だから大量に摂取すると、健康に影響を与え、ガンを引き起こす恐れもあります。実際、食品安全委員会は安全基準を設定しています。

 また、アブラナ科の植物(キャベツ)などの野菜は虫害などのストレスを受けると、「天然農薬」を分泌することが知られています[B. N. Ames, et. al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87,7777 (1990)] 。その量は通常使用される農薬に比べて遥かに多いと見積もられています。しかも,その天然農薬は植物体内に存在し、水で洗っても落とすことができないものです。

 これから科学者を目指す皆さんには、何がより正しいかについて、「定量的」に冷静に偏見(バイアス)なく考えていただければ、と思います。世間に流布している「常識」が正しいのか、それすらも疑ってみてください。

片桐 利真

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