理学部と工学部の違い(片桐教授)
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学生さんとの雑談はブログネタの宝庫です(以下略)。
先日、学生さんとの雑談の途中で「ところで、理学部と工学部の違いって何ですか」という質問が出ました。この質問をこれまでに何度受けたでしょうか。特に高校への出張講義では定番の質問です。私は理学部出身で長く工学部で教えてきました。その立場でこの質問には答えられなければいけない、と思っています。
理学部と工学部で教えている化学の専門科目の講義はほとんど同じです。「有機化学」「物理化学」「無機化学」「量子化学」「分析化学」…。一方、「化学工学」は工学部で教えられるが、理学部ではあまり教えません。教育内容的にはそのくらいの差しかありません。
私はこれまでこの問に対して「工学部は人を幸せにすることを目的とし、理学部は人類の知識や知恵を豊かにすることを目的としている」とか、「全知全能のうち、理学部は全知を目指し、工学部は全能を目指す」とかの説明をしてきた。でもこれはウソです。ごめんなさい。例えば化学の世界では知ることはそのままできることの限界を広げることになり、新しくできるようになることは新しく知ることにつながるものです。この知ることとできることは車の両輪のようなもので、片方だけ独立して存在するものではありません。
村上陽一郎「科学・技術と社会」ICU選書(1999)では、マートンのCUDOSとザイマンのPLACEという考え方を紹介しています。
米国の社会学者のマートンは科学者の行動規範をCUDOSという形で表しました。すなわち、C (Communality: 公有性)、U (Universality: 普遍性)、D (Disinterestedness: 無私性)、OS (Organized Skepticism: 組織的懐疑主義)です。
この行動原理はプロトタイプとも呼ばれます。さらに「好奇心駆動型」とも呼ばれます。まさに理学部的です。
一方、英国の科学技術論の学者であるザイマンは新しい行動規範としてPLACEを提唱しました。P (Proprietary: 所有的)、L (Local: 局所的=特定の課題の解決を目的とする)、A (Authoritarisn : 権威主義的=知識は権威である)、C Commissioned: 委託された=社会の要請を課題とする)、E (Expert: 専門的)です。これはネオタイプともよばれます。さらに「使命指向型」とも呼ばれます。まさに工学部的です。
東京工科大学は「実学」を掲げています。すなわちネオタイプの学問を指向しています。だから、工学部なのでしょう。
でもこれは私個人の意見です。正直、この答えに自信はありません。ですから、この質問が来たときには、「君はどう思う」と逆質問し、いろいろと雑談しながら話をそらす努力をしています。そうすると、次の質問が出てきます。
「ところで、先生、理学部と工学部と理工学部の違いは…」
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