書評「背信の科学者たち」 副題:なぜ小保方さんは断罪されたのか(片桐教授)
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W. ブロード、N. ウェイド「背信の科学者たち」
化学同人(1988)、講談社Blue Backs(2006)、講談社(2014)
今回はもう30年以上にわたり何度も版を変えて出版されているこの本を紹介します。
片桐の有機化学Iの講義では、有機化学の発展の歴史に関しても講義を行いました。これについては以前のブログ(2016.3.16)にも記載したとおりです。
多くの実験事実の間の類似性から、博物学的(分類学的)にその事実を解析し、それを元に仮説(理論)をたて、その理論にあわない/反する実験事実が得られた場合にはその理論を棄却し、新しい理論を構築して行く、という「組織的懐疑主義」に基づく理論の構築こそが、有機化学をおし進めてきました。
ここで、大事なことは実験結果は事実であり、理論は意見だということです。実験結果は常に正しく、理論は間違っているかも知れないと言うことです。そして、実験結果は常に「正しい」ことが要求されるということです。もし、実験結果が事実でなければ、それを元にした理論は全く意味がなくなる。理論を立てる努力を無駄にさせる。それはその後の多くの科学研究の足を引っ張ることになります。
先のブログ(ハメットさ〜ん)において,故意ではないにしても実験結果の間違いが50年の月日を越えて学生時代の私を苦しめた話を紹介しました。
今回紹介した、この「背信の科学者たち」を読まれると、彼らが行った行為の何がいけなかったのか、がわかります。
彼らは「間違った意見」を述べたから断罪されたのではなく、「実験事実をねじ曲げた」ことを断罪されています。
科学者・技術者は何があっても事実をねじ曲げてはいけない。つまり、ありもしない実験事実をつくってはいけない、不都合な実験事実をなかったことにしてはいけない、ということです。
小保方さんも「STAP細胞はありま〜すぅ」と主張したことではなく、その実験事実をいいかげんに扱ったこと、実験事実の根拠を示せなかったことが断罪されたのです。
米国科学アカデミー編「科学者をめざす君たちへ」化学同人、もあわせて読まれることをお勧めします。
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