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2016年5月

2016.05.31

サステイナブル工学基礎 学内施設見学(前編)(江頭教授)

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 本学工学部が特徴の一つとして掲げているサステイナブル工学ですが、その一番最初の本格的な授業が「サステイナブル工学基礎」です。(この授業の内容に関しては以前のブログ記事でも触れています。)今回は、この授業の一部として行った学内の施設見学について紹介しましょう。

 本学自体がサステイナブルかどうかはさておいて(これは私個人にはとても重要な問題ですが…)、今現在の産業社会の持続可能性に対するもっとも明白な制限はエネルギーの供給と廃棄物の処理でしょう。本学八王子キャンパスを一つの事業所として見ると電力を外部から供給されている点は普通の家庭と同じですが、廃棄物の処理は市役所のサービス対象とならない点で異なっています。実は外部電力以外の電源もある、という点で一般家庭にはない設備も存在しているのです。今回の見学では身近な大学という事業所の持つ設備を回ってみることとしました。

 とはいうものの、スタートは一見普通の住宅に見える建物から。

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2016.05.30

八王子キャンパス内の遊歩道を歩いてみた(西尾教授)

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 東京工科大学のキャンパスは八王子と蒲田の2箇所にありますが,工学部応用化学科は八王子の方にあります.2つのキャンパスの共通点は立派な建造物ですが,敢えて違いに目を向けると,それは自然の豊かさだと思います.(もちろん,八王子の方が豊かです.) 八王子キャンパスの南側 (斜面の上側) には広大な雑木林があり,遊歩道が整備されています.この遊歩道はキャンパスマップにも載っていないので,知っている人は意外と少ない様です.先日,自分で遊歩道を踏破(?)してみましたので,その時に撮影した写真を使って紹介していきます.

 キャンパス中央のタイル貼りの大通りを上り,更に右手進んで行くと,遊歩道の西側の出入り口に到達します.遊歩道の幅は1m程度と狭いものの,歩きやすい路面に整備されています.

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入口には注意事項が記された看板があります.火気厳禁は当然の事ですが,「マムシに注意」の赤字が,単独行動者の緊張感を高めます.

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少し進むと,小さな休憩小屋のある,雰囲気の良い広場に出ます.しかし,その先に急坂が待ち受けています.

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2016.05.27

「2016NEW環境展」にて展示発表を行いました(江頭教授)

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 皆さんは「2016NEW環境展」をご存じでしょうか。東京ビッグサイトで毎年行われている環境関係の大規模な展示会で、今年度の開催は5月24日から27日となっています。

 東京工科大学も学内共同プロジェクトとして工学部と応用生物学部とで進めている「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」というプロジェクトの内容を展示しました。

 タイトルに「Ⅱ」が入ってることからわかるように、このプロジェクトには前段階と言うべき先行プロジェクトがあります。八王子市と東京工科大学の共同プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」がそれで、バイオマスのガス化によって得られる一酸化炭素と水素から液体燃料を合成するプロセスを研究するプロジェクトでした。今回の「Ⅱ」のプロジェクトはその成果を引き継いでより実用化に近づけることを目指しています。

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2016.05.26

学生実験をみてみよう(第3期)「表面張力」(江頭教授)

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 応用化学科の学生実験を紹介する本シリーズ、今回は2年の向けの応用化学実験から「表面張力」の測定を紹介します。

 「表面張力」という言葉を聞くと水がコップに満タンになって、ぎりぎりまで溢れない状態を連想するのではないでしょうか。水の表面が縮もうとする力が働いていてコップの縁からあふれ出ようとする水をせき止めている、これが表面張力だ、という説明を聞いたことがあると思います。

 今回の実験はこの表面張力を測定しよう、というテーマです。測定方法は、表面張力測定器で測る、というだけでは身も蓋もありませんね。使用するのは写真のDu Noüyの表面張力計と呼ばれるもので水平につるした白金のリングを液面から引き出す、その際にかかる力を測定することで表面張力を測定します。(やや見えにくいですが、白金のリングは写真の左のすみに見えています。)白金のリングが液面から離れようとするとき液面が引っ張られる、それが表面張力です。引っ張り過ぎればリングは液面から抜け出してしまい力は無くなりますから、引っ張りながら力の変化を測定し、抜け出す直前の力を読み取ります。

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2016.05.25

「暑い!」のは温暖化のせい?(江頭教授)

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 今週の月曜日(5月23日です)、東京都で気温は30℃を超えて5月というのに真夏日となったと言います。われわれのキャンパスがある八王子でも30℃をこえたということであまりに急に暖かく、というか暑くなったためにどんな格好をするべきなのか迷ってしまいます。

 少し暑い日がつづくと「やっぱり温暖化は問題だな」などと言いたくなりますが、年々気がつくくらいに暑くなるようでは大変な事になってしまいます。気温は常に幅をもって変化しているものですから、暑い日もあれば寒い日もある。暖かい年も寒い年もありますから、その揺らぎとしての変化をならして平均化した温度についてみなければ温暖化の有無はわかりませんよね。

 と、いうわけで気象庁のサイトから以下の図表を持ってきました。これは気象庁のホームページ、「各種データ・資料」のページにある「気温・降水量の長期変化傾向」というページから、日本における「年平均気温偏差 [℃]」のデータを示したものです。「気温偏差」とありますから、平均からのずれを表しています。ここで言う平均とは注意書きに「基準値は1981〜2010年の30年平均値」とあるように最近の平均温度ですから、今に比べて昔が涼しかったかどうか、が示されています。

 赤い線をみればわかるようにはっきりと平均気温の上昇、つまり温暖化が見て取れます。でも、もうちょっと注意してみてください。

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2016.05.24

講義はライブコンサート(片桐教授)

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 講義を「情報や知識の伝達の場」だけであるとは考えてもらいたくありません。もし、情報や知識を得るだけなら、書籍を読む方が効率的です。そのような情報や知識は事前に予習し、講義では違うものを見つけてほしいのです。

 私はしばしば「教科書はCD、講義はライブコンサート」と言っています。(CDも最近ははやらないのかもしれませんね。) CDを買った上でさらに高いチケット(多くの場合、CDよりも高価)を買ってまで、コンサートにも聞きに行くのはなぜでしょうか。

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2016.05.23

学生実験をみてみよう(第3期)「工学基礎実験Ⅰ(C) 改訂版」(江頭教授)

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 本学の応用化学科で行われている学生実験を紹介しているこのシリーズ、前回は2年生向けの「応用化学実験」の内容を紹介しましたが、今回は1年生向けの学生実験、「工学基礎実験Ⅰ(C)」の話題を。昨年度、はじめて実施したこの実験ですが、その経験を活かしていろいろと内容を変更しています。カイゼンとかPDCAというやつですね。

 さて、最初の改善点は実験を行うスケジュールです。「工学基礎実験Ⅰ(C)」では実験項目を幾つかまとめ、学生諸君を実験の個数分のグループに分けてローテーションで実験を行っています。昨年度の実験では学制諸君はまず2グループに分かれて二つの実験を。続いて4グループに分かれて四つの実験を。それをもう一度繰り返して全部で10項目の実験を行いました。つまり2-4-4サイクルというわけです。

 本年度はこれを2-2-2-4サイクルに変更しました。

 実験の項目はおおまかに簡単なものから難しいものへ並べていますが、サイクルを細かく分けることでより適切な順番に並べることができます。また、初年度の実施で指導する学生グループの人数がどの程度が適切なのかがわかったことも大きいですね。

 さて、本年度の最初のサイクルの実験は「実験基礎」と「ガラス細工」の二つです。

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2016.05.20

 「アドバイザー制度委員会」が開催されました。(江頭教授)

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 「アドバイザー制度委員会」といっても皆さん、何のことかわからないですよね。実は本学の学生も知らないと思います。

 本学のアドバイザー制度についてはこのブログでも何回か触れています。(ここここ。)アドバイザー教員とは、高校生視点では大学1年~3年の間の担任の先生、大学卒業生視点なら研究室配属まえの指導教官、とでもいうべき存在です。大学に入ってから研究室に所属するまでの期間は学生にとって大学での居場所を見失いやすい危ない期間でもあります。本学では学生諸君に安全にこの期間を乗り切ってもらおう、という考えからアドバイザー制度を設けています。

 さて、「アドバイザー制度委員会」です。これはアドバイザーの制度が順調に運用されているか、もっと工夫できることはないか、学生へのサポートをより効果的にするにはどうしたらよいか、を考える委員会です。学長主催の委員会で軽部学長が自ら参加し、本学の八王子キャンパスと蒲田キャンパス、二つのキャンパスを繋いだテレビ会議で全ての学部の学生委員長が参加するかたちで行われます。八王子キャンパスの会議は写真の本部棟で行われました。

 さて、今回のアドバイザー委員会では新たな制度の導入が提案されました。

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2016.05.19

「日本語スキルアップ」(江頭教授)

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 写真のノート、本日(5月18日)提出された本学のフレッシャーズゼミの時間を利用して行われている「日本語スキルアップ」という授業の課題です。

 おっと、説明が足りませんでした。フレッシャーズゼミというのは新入生を対象としたゼミです。

 いえ、研究室配属が一年生で行われるわけではありません。(普通、ゼミは研究室配属された学生が対象ですからね。)以前、このブログでも紹介したアドバイザー制度、つまり1年生につく担任の先生の様な教員がアドバイザー教員で、そのアドバイザー教員のところで行うゼミ、これがフレッシャーズゼミです。

 毎週1コマ、このフレッシャーズゼミの時間があるのですが、その中の課題の一つとして「日本語スキルアップ」があるのです。

 自分の選んだ本(人文・社会・自然科学についての本で、ノンフィクションに限ります。小説は不可。)を読んで感想文を書く、というのが中心の課題ですが、一つ特徴的なポイントは読書ノートをつける、という点です。今回感想文を提出してもらったのですが、一緒に読書ノートも提出してもらいました。

 難しい本と一言でいっても本当に内容が難しいとは限らない。実は構成が複雑なだけだ、というケースもあります。(このブログ記事の初めの部分、内容の割に複雑な文章を書いてみました。)

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2016.05.18

安全へのかかわり方(片桐教授)

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 前の大学で片桐は「教員の中で環境・安全・衛生のわかる人」として雑務を押し付け(?)られていました。大学内には環境・安全・衛生の専門家、例えば衛生管理者の事務官だったり、産業医だったり、プラントの安全を専門とする教授であったり、環境を冠する学部までありました。しかし、その中で一人の工学部の准教授、それも安全管理ではなく、実験の安全の講義を担当している教員が環境・安全・衛生の(無資格の)専門家として重用されたのはなぜでしょうか。

 以下は個人的な見解ですが、世の中には「環境・安全・衛生の管理者」や「指示者」は多くいるけども、「相談役」「推進者」は少ないのかもしれません。

 環境・安全・衛生において3つのEが重要であると言われます。すなわち、Engineering(技術)Education(教育)Enforcement(管理)です。

 この管理がくせ者です。環境・安全・衛生の「管理者」は法的な基準をたてに、現場の人間に規則遵守を要求します。多くの場合,現場の人間は「なぜそのように厳しい基準を守らなければならないのか、そこまでしなくても十分安全である」という意識を持ちます。そのような疑問をぶつけられたときに、管理者はその「なぜ」に答えず、法律などの規則をたてに遵守を要求します。これでは管理者と現場は永久に相容れません。管理というスタンスはしばしば対立を生みます。

 私が会社員だった頃、職場の安全担当課長は「目の上のたんこぶ」でした。

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2016.05.17

保護者懇談会が開かれました(江頭教授)

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 先の土曜日と日曜日、本学の厚生棟(写真の建物です)で保護者懇談会が開かれました。対象者は2年生以上の学生なので、我々工学部応用化学科は今回初めてこの懇談会を行うこととなりました。

 以前にもご紹介したとおり、本学の保護者懇談会は地方都市でも行われますが、それらに先駆けて今回は八王子キャンパスでの懇談会です。これは、学生の家族の方で東京近郊に在住の方々が大学を訪れ、学科の教員と学生の成績などについて話をする場です。面談にはご家族の方だけが参加する場合もありますが、半数ぐらいの方は学生さんと一緒に面談をされていました。地方都市での懇談会は学生さんは参加できないので、学内会場ならではの光景と言えるでしょう。また、他学部では就職をメインとした相談も行われますが、工学部ではまだその段階ではありません。

 さて、以下は私の個人的な意見です。この保護者懇談会という名称はどうでしょうか?

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2016.05.16

学生実験をみてみよう(第3期) 「蒸気圧」(江頭教授)

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 本学科の学生実験を紹介するシリーズ、今回は応用化学実験の授業から「蒸気圧」の実験を紹介します。

 まずは実験装置の写真を見てもらいましょう。

 手前側にあるフラスコに液体が入っていて加熱されて沸騰しています。そこで発生した蒸気は冷却管で冷やされています。この構成は「学生実験をみてみよう(第2期)」で紹介した「蒸留」の実験によく似ていますね。ですが、ここでは冷却されて蒸気が凝集した液体をそのままフラスコに戻すように冷却管はフラスコの上に垂直に配置されています。さらに蒸溜の装置との大きな違いはこの装置が外気から遮断されていてポンプによって内部の圧力が大気圧より低い圧力に自由に設定できる点です。(大気圧より高いとジョイントの部分が外れてしまいます。)

 圧力が下がると水の沸点が下がる、だから高い山ではご飯が生煮えになる、などという話を聞いたことがあるかも知れません。沸騰という現象は外気圧と蒸気圧が釣り合うことで液体のどの部分でも蒸発がおこる、つまり気体が発生する様になる状態ですから、ある温度で沸騰している液体の圧力をはかることで、その温度での蒸気圧を求めることができるのです。

 「蒸溜」と今回の「蒸気圧」の測定装置、実はもっと大きな違いがあります。

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2016.05.13

「水銀法」は使い続けるべきだったのか?(江頭教授)

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 前回は水酸化ナトリウムの製造法として広く普及していた「水銀法」が本当に危険なプロセスだったのかどうか、について私の意見を述べさせてもらいました。

 結論は、「水銀法」に現実的な意味での危険性があったとは考えにくい、というものでしたから、「水銀法」を使い続けるべきだったのか?という問いに対しては、当然ながら「続けるべきだった」と答えると思われるかもしれません。しかし、その後の展開をみると必ずしもそうとは限らないと思うようになった、今回はその点について述べさせていただきます。

 図は前回同様、環境省の「水俣病の教訓と日本の水銀対策」からとったもので、こちらの元データは「ソーダと塩素」という雑誌からとられているようです。

 水酸化ナトリウムの製造は「水銀法」から「イオン交換膜法」へと転換されました。初めのうちは「水銀法」より多くのエネルギーを消費していた「イオン交換膜法」は、やがて改良が進み水銀法よりずっと少ない所要エネルギーで水酸化ナトリウムの生産が可能となった。ですから、この技術の転換は「結果オーライ」「終わりよければ全てよし」という展開になりました。

 でもこれは結果論です。

 

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2016.05.12

「水銀法」はそんなに危険だったのか?(江頭教授)

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 「サステイナブルじゃない!」といわれてフロン君は不満そうです。

 不満なのはフロン君だけじゃない、ということで今回は破棄された水酸化ナトリウムの生産技術、「水銀法」の弁明も聞いてみたいと思います。

 「水銀法」が破棄された理由は水俣病です。水俣病の実体が「有機水銀」(メチル水銀のことです)による重金属中毒であったことから、水銀の使用についての危惧がひろがり、それを契機として「水銀法」はイオン交換膜法に切り換えられました。でも水銀を使用している、というだけで危険なのでしょうか?

 そもそも、水俣病の原因物質はメチル水銀であって「水銀法」で使用されていた水銀、アマルガム(合金)としての水銀とは性質が違います。メチル水銀は油に溶けやすく生物の脂肪に蓄積して生物濃縮し、魚を通して人体に入ったと考えられていますが、金属の水銀で同じような現象が起こるとは考えにくいことです。

 なるほど、自然界でバクテリアの作用によって金属の水銀からメチル水銀が作られる可能性はありますが、それを言うなら蛍光灯や体温計に入っている(そうです。当時は入っていたのです)水銀はどうなでしょうか?

 そもそも、「水銀法」で使用されている水銀はリサイクルされていて、環境に放出される量は多くはありません。図は環境省が作成した「水俣病の教訓と日本の水銀対策」という冊子から取ったものです。(元のデータは『化学と工業』から)

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2016.05.11

悪いのは誰? フロンの弁明(片桐教授)

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 やあ、僕フッ素君だよ。有機フッ素化学の世界ではちょっと知られたマスコットだよ。今は片桐教授の研究室の戸棚の中にいるよ。

 最近、江頭教授が僕のことをいぢめるから、少し反論しようと思って、出てきました。

 フロンの生まれてくる必然性については、江頭教授の4月29日のブログに詳しく淡々と書かれているから、そちらを読んでくださいな。安全な、毒性のない冷凍ガスとしてアンモニアの代わりに僕を含んだフロンは生まれました。

 そのフロンがサステイナブルでなくなったのはどうしてなのか。そこが一番大事だと思います。フロンがサステイナブルではなくなったのは、経済とのジレンマ(2015.12.08ブログ)のためです。

 フロンは最初、冷媒として閉じ込められて使われていました。フロンは最初、そんなに安いものではなく、そんなにたくさん使われていませんでした。環境に出てくる量がほんのわずかならば、フロンは地球環境に影響するものではなかったのです。しかし、安定で便利だから、毒性がないから、というので半導体の洗浄や家庭用のスプレー・ガスとしても転用されるようになりました。大量生産されると、値段が安くなり、さらにいろいろな用途にたくさん使われ、回収されることなく消費され、どんどんと大気中に放出されてしまい(乱用され)、オゾン層を壊してしまうことになっちゃいました。

 これって、僕がいけないのかな。安全で安定でたくさんつくれば安くつくれてしまう僕の便利さがいけなかったのかなあ。

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2016.05.10

「グリーンケミストリー12箇条」はサステイナブルな材料開発に役立つか?(江頭教授)

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 先に述べたか性ソーダの合成プロセスの歴史(前編後編)は、同じ製品をつくるとしてもその造り方には複数の選択肢があり、よりよい合成プロセスを選択するべきだ、という教訓を示しています。また、ある時期までは優勢であった水銀法が廃れた理由を考えると、危険性のある物質はたとえ製品に残留しないとしても、そもそも使用しないことが望ましいこともわかるでしょう。

 この教訓は、材料の開発に際して、最終的にその材料がいかなる原料を必要とし、どのようなプロセスで生産されるのか、をあらかじめ想像しておけば最初からサステイナブルに近いプロセスで製造することができるということではないでしょうか。つまり、有害な元素を含まず、製造プロセスでも使用しない、というルールの下で材料を開発することが望ましい、そういうルールの必要性が示唆されている、と見ることができるのです。

 以前、本ブログでも紹介した「グリーンケミストリー12箇条」(2015.12.8の記事2016.1.5の記事)はそのようなルールを定式化したものと考えられます。今回はこの「グリーンケミストリー12箇条」の問題点について述べたいと思います。

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2016.05.09

水酸化ナトリウムの製造プロセス(後編)(江頭教授)

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 前回の記事に引き続いて水酸化ナトリウムの製造の歴史についてです。電気分解による水酸化ナトリウムの製造は50年ほど前に水銀法が広がったことで一応の完成を見たのですが、その後の展開について紹介しましょう。この歴史はサステイナブル工学、とくにサステイナブル化学について考える時、示唆深い事例であると思っています。

 1956年の水俣病の発見から始まったメチル水銀による中毒事件を契機として1973年には水銀法からの転換が求められることとなった。その後、一時は旧来の隔膜法も用いられたが、隔膜法を改良したイオン交換膜法が新たに開発され、現在、国内の全てのプラントではこのイオン交換膜法が用いられている。

 イオン交換膜法は隔膜法と類似した手法であるがアスベストの隔膜の代わりにイオン交換膜が用いられている。イオン交換膜には陰イオン基が結合していて負に帯電しているので陰イオン(この場合は塩化物イオン)は通過できない。隔膜の陽極側に食塩を入れると陽イオンであるナトリウムイオンのみがイオン交換膜を通過して陰極側に移動して純粋な水酸化ナトリウムを得ることができる。この手法は当初から従来の隔膜法を凌駕し、水銀法なみのエネルギー効率を達成していたが、イオン交換膜の分離性能と耐久性の向上によって、やがて水銀法以上のエネルギー効率を達成することとなった。

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2016.05.06

水酸化ナトリウムの製造プロセス(前編)(江頭教授)

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 今回は化学物質の製造プロセスの例として水酸化ナトリウム製造の歴史について紹介しましょう。このプロセスは紆余曲折を経て非常に効率の高いプロセスが完成したのですが、その歴史はサステイナブル工学、とくにサステイナブル化学について考える時、示唆深い事例であると思っています。

 

 工業用に利用される水酸化ナトリウム(NaOH)は伝統的にか性ソーダ(苛性曹達)と呼ばれている。代表的な強アルカリの化学物質で、そのままの形で消費されることはないが、石けんの製造やパルプの溶解、上下水道や各種産業の排水処理など幅広い領域で使用される。

 ソーダ工業では食塩(NaCl)からか性ソーダ(NaOH、水酸化ナトリウム)をつくっている。

 電気分解法ではか性ソーダとともに塩素ガス(Cl2)と水素ガス(H2)が副生成物として生じる。水素ガスの生成量は少ないが、塩素ガスはか性ソーダと同程度の重量で生成する。塩素ガスは毒性の高い危険な物質であるが、上下水道での殺菌に用いられている他、次亜塩素酸などの漂白剤、塩化ビニル樹脂などプラスチックの原料にも利用される有用性の高い物質である。

 さて、食塩水を電気分解すれば陽極側では塩化物イオンClから塩素ガスが発生する。塩素ガスは気体として容易に分離・収集できる。一方、陰極側ではナトリウムイオンNa+が還元されるが、水中では金属ナトリウムのまま存在することができず、水と反応して水酸化ナトリウム(か性ソーダ)となり、同時に水素ガスを発生させる。

 水素ガスも簡単に分離できるが、か性ソーダは水溶液となっていて原料であるNaClと分離することが難しい、という問題がある。NaClの電気分解を効率的に行い、高純度のか性ソーダを回収するためには何らかの技術が必要となる。

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2016.05.05

お酒を飲んでも呑まれるな(お酒は二十歳をすぎてから)(片桐教授)

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 久々に帰省した息子と夕食時に「獺祭(だっさい)」(山口県)スパークリング濁り酒(1瓶360mLアルコール度数15%)をのんだら、コップ1杯(約150mL)で酔っぱらってダウンしました。疲れていたとはいえ情けないなあ、年を取ったなあ、と思ったら息子も同じ量でダウンしていました。口当たりがよく、果実酒のような甘口の日本酒で「これが日本酒?」というようなお酒でした。息子も「こんなん飲んだら、たいがいの日本酒を飲んでも美味しいと思えなくなっちゃう」と偉そうな事をもうしておりました。滅多に手に入らない上に、ネット販売ではプレミアがついて定価の4倍近い価格で売られています。もしチャンスがあったら、二十歳を過ぎてから試してみてください。

 このお酒は「劇場版エヴァンゲリオン」で葛城ミサトが愛飲するお酒として有名だそうです。

 日本酒は普通1.8 L = 一升で販売されています。この1.8 Lの意味は何でしょうか。エタノールの経口摂取の半数致死量(それだけ飲んだ人の約半数が志望する量)はもちろん個人差はありますが約7.2 g / Kgといわれています。体重60 Kgの人で約430 gです。

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2016.05.04

オゾン層破壊で赤ちゃんの日光浴が不可能に、ってそんなまさか(江頭教授)

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 さいたま市が孫を持つ祖父母の「子育て」ならぬ「孫育て」を支援するためにつくった祖父母手帳、なかでも子育ての昔と今の比較した内容がtwitterで少し評判になっていました。現在の私には全く無縁な内容ですが何気なくその中身を見ていると、赤ちゃんの日光浴は近年推奨されなくなった、そしてその理由を「オゾン層の破壊で紫外線量が増加したことが原因」としているのです。

 オゾン層の破壊は問題ですが、とうとう人々の生活にまで直接影響が出るようになったのか、そう思うと空恐ろしいことです。モントリオール議定書によってオゾン層破壊を食い止められたのが本当にありがたい。では、実際どの程度紫外線量が増加しているのでしょうか。

 図は気象庁のホームページにある「国内の紅斑紫外線量年積算値の経年変化」という図です。

 まず「紅斑紫外線量」という見慣れない用語がありますね。これはおおざっぱに「日焼けのし易さで重みづけした紫外線の量」だと思ってください。図を見る限り紫外線の量はこの25年ほどで確かに大きくなっています。

 でも私にはこれが赤ちゃんが日光浴ができなくなった理由とは思えません。

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2016.05.03

オゾン層を破壊しない代替フロンの開発はサステイナブル工学の先駆け(江頭教授)

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 4月29日のブログではフロン、中でも塩素原子を含んだフロンが、非常に安定である、という「良い」特徴故にオゾン層の破壊という「悪い」影響を及ぼし、結果としてサステイナブルでは無かった、という例を紹介しました。今回はそのフロンによるオゾン層の破壊がその後どのように解決されたのかを紹介しましょう。この事例は将来の「サステイナブル工学」を考える上で良い具体例になっていると思います。

 オゾン層は紫外線を防ぐ効果を持っている。これが破壊されれば地上において生物にとって有害な紫外線が増加し、生態系への悪影響が懸念される。1980 年代半ばにはオゾン層保護の機運が高まり、1985 年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、1987 年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、フロン類の使用規制が始まった。では、フロンを利用していた冷凍機はどうなったのだろうか。

 まず、オゾン層破壊の原因であるオゾン分解のメカニズムにおいて触媒として働いていたのは塩素原子であることが注目された。同じフロン類でも塩素原子を含まないものも存在し、それらはオゾン層破壊の効果を持たない。塩素を含まないフロンを代替フロンと呼ぶ。炭素、フッ素、水素からなるいろいろな化合物が合成され、従来のフロンと同等の性能をもつ代替フロンが商品化されることで冷凍機の性能を維持したままオゾン層の破壊を防ぐ方法が確立された。快適な生活の実現 (Prosperity) に必要な性質を維持したまま環境 (Planet) を破壊する性質をもたない物質が新たに合成された。これはSustainable chemistry の典型的な成果のあり方の一つと言って良いであろう。

 オゾン層の破壊を防ぐためには代替フロンへの切り替えが必要だが、従来のプラントをそのまま利用して今まで通りのフロンを作り続けるほうがコストは低く抑えることができる。切り替えを行った業者が不利になるようでは代替フロンの普及は進まないので従来の塩素を含むフロンの製造販売を禁止することが「モントリオール議定書」で義務づけられた。その結果、塩素とフッ素、炭素からなるフロンの生産量は減少した。

 これらのフロンのうち、CFC-11、CFC-12などは大量に使用されていたため大気中に数百pptの濃度で蓄積していたが、対策がとられると同時に図の様に増加がとまり、あるいは減少に転じた。また、南極のオゾンホールの拡大もとまった。

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2016.05.02

5月2日東京工科大学はお休みです(江頭教授)

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 5月2日、ゴールデンウィークの真ん中ですがカレンダー通りなら平日です。でも東京工科大学は臨時休業日でお休みです。実は5月6日もカレンダーでは平日ですが本学はお休みで授業はありません。授業がないどころか大学は閉鎖。基本的に立ち入り禁止で許可を得た人しか大学に立ち入ることもできません。

 さて皆さん、これをどう思いますか?

 「休みがたくさんでラッキー」と思いましたか。それとも「授業料を払っているからにはちゃんと授業をしてくれなくては!」と思ったでしょうか。

 後者の人、ご安心を。実は本学の学年歴(学年歴というのは授業専用のカレンダー、といったものです。)では臨時休業日で平日を休日にしている一方で、 祝日授業開講といって祝日に授業をする場合もあるのです。たとえば先週の4月29日の金曜日、世間は休日でしたが大学では平常通りの授業を行っていました。

 通常のカレンダーと異なる学年歴を用いるのはハッピーマンデー制度の影響です。

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