悪いのは誰? フロンの弁明(片桐教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
やあ、僕フッ素君だよ。有機フッ素化学の世界ではちょっと知られたマスコットだよ。今は片桐教授の研究室の戸棚の中にいるよ。
最近、江頭教授が僕のことをいぢめるから、少し反論しようと思って、出てきました。
フロンの生まれてくる必然性については、江頭教授の4月29日のブログに詳しく淡々と書かれているから、そちらを読んでくださいな。安全な、毒性のない冷凍ガスとしてアンモニアの代わりに僕を含んだフロンは生まれました。
そのフロンがサステイナブルでなくなったのはどうしてなのか。そこが一番大事だと思います。フロンがサステイナブルではなくなったのは、経済とのジレンマ(2015.12.08ブログ)のためです。
フロンは最初、冷媒として閉じ込められて使われていました。フロンは最初、そんなに安いものではなく、そんなにたくさん使われていませんでした。環境に出てくる量がほんのわずかならば、フロンは地球環境に影響するものではなかったのです。しかし、安定で便利だから、毒性がないから、というので半導体の洗浄や家庭用のスプレー・ガスとしても転用されるようになりました。大量生産されると、値段が安くなり、さらにいろいろな用途にたくさん使われ、回収されることなく消費され、どんどんと大気中に放出されてしまい(乱用され)、オゾン層を壊してしまうことになっちゃいました。
これって、僕がいけないのかな。安全で安定でたくさんつくれば安くつくれてしまう僕の便利さがいけなかったのかなあ。
同じようなことは1960年代から70年代に問題になったPCB(ポリ塩素化ビフェニール)にもいえます。PCBは燃えない安全なトランス(変圧器)油として生まれました。
PCBができる前には、電柱の変圧器(トランス)の絶縁油として燃えやすい鉱油が使われており、落雷などで発火し、電線を伝わり延焼し、火災を引き起こしていました。でも、PCBのおかげで、このような火災をなくすることができました。しかし、安全で安定で便利だから、トランス油だけではなく、いろいろな冷却剤の媒体などに転用され乱用されちゃいました。そして、その毒性がカネミ油症事件で明らかになり、大地や海洋の汚染が問題になりました。
今では法律でPCB君は厳しく閉じ込められ、その処分方法の開発まで、無期懲役になっています。それでも、PCB君の良さに代われる安全なトランス油がなかったから、0系新幹線では厳重に管理されながら2008年末まで使われていました。
PCB君が安全で便利で安かったから、本来の用途から転用され乱用され、それってPCB君の責任なのかなあ。
僕ら便利な化学物質は、便利で安全さゆえに転用され乱用され、製造量が大きくなって安くなり、環境中に広がって開発時には予想もしなかった問題を引き起こしてしまい、大問題を引き起こしてしまう。同じことを何度も何度も繰り返しているような気がする。
代替フロン君も今はいいけど、油断していると僕らと同じ運命を辿るかもしれないよ。けんのん、けんのん。
そろそろ人間は僕らを正しく使う知恵を身につけてほしいなあ。
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