オゾン層を破壊しない代替フロンの開発はサステイナブル工学の先駆け(江頭教授)
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4月29日のブログではフロン、中でも塩素原子を含んだフロンが、非常に安定である、という「良い」特徴故にオゾン層の破壊という「悪い」影響を及ぼし、結果としてサステイナブルでは無かった、という例を紹介しました。今回はそのフロンによるオゾン層の破壊がその後どのように解決されたのかを紹介しましょう。この事例は将来の「サステイナブル工学」を考える上で良い具体例になっていると思います。
オゾン層は紫外線を防ぐ効果を持っている。これが破壊されれば地上において生物にとって有害な紫外線が増加し、生態系への悪影響が懸念される。1980 年代半ばにはオゾン層保護の機運が高まり、1985 年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、1987 年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、フロン類の使用規制が始まった。では、フロンを利用していた冷凍機はどうなったのだろうか。
まず、オゾン層破壊の原因であるオゾン分解のメカニズムにおいて触媒として働いていたのは塩素原子であることが注目された。同じフロン類でも塩素原子を含まないものも存在し、それらはオゾン層破壊の効果を持たない。塩素を含まないフロンを代替フロンと呼ぶ。炭素、フッ素、水素からなるいろいろな化合物が合成され、従来のフロンと同等の性能をもつ代替フロンが商品化されることで冷凍機の性能を維持したままオゾン層の破壊を防ぐ方法が確立された。快適な生活の実現 (Prosperity) に必要な性質を維持したまま環境 (Planet) を破壊する性質をもたない物質が新たに合成された。これはSustainable chemistry の典型的な成果のあり方の一つと言って良いであろう。
オゾン層の破壊を防ぐためには代替フロンへの切り替えが必要だが、従来のプラントをそのまま利用して今まで通りのフロンを作り続けるほうがコストは低く抑えることができる。切り替えを行った業者が不利になるようでは代替フロンの普及は進まないので従来の塩素を含むフロンの製造販売を禁止することが「モントリオール議定書」で義務づけられた。その結果、塩素とフッ素、炭素からなるフロンの生産量は減少した。
これらのフロンのうち、CFC-11、CFC-12などは大量に使用されていたため大気中に数百pptの濃度で蓄積していたが、対策がとられると同時に図の様に増加がとまり、あるいは減少に転じた。また、南極のオゾンホールの拡大もとまった。
オゾン層破壊物質の排出制限に対する多大な努力にもかかわらず、大気中の特定フロンの濃度やオゾンホールのサイズはいまだ旧に復する状態にない。フロンが開発される以前の状態に戻るのは今世紀半ば以降と予測されている。一度破壊された環境の修復には多大の時間が必要であることも事実ではあるが、「モントリオール議定書」によるゾン層破壊物質の規制は世界に国々の協力による環境問題の解決として意義ある成功事例である。このような協力が可能となった背景には化学による代替フロンの開発によって従来のフロンを使い続ける以外の選択枝が与えられていたことがあることを再度強調しておきたい。
この例におけるフロンの様に、何かがサステイナブルでないことを発見したら、その機能(ここでは冷凍機の冷媒としての機能)はそのままでサステイナブルでない影響(ここではオゾン層の破壊)を持たない物質を開発する。人々の生活の利便性をそのままに環境への影響をなくす。これがサステイナブル化学、ひいてはサステイナブル工学の考え方なのです。
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