「グリーンケミストリー12箇条」はサステイナブルな材料開発に役立つか?(江頭教授)
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先に述べたか性ソーダの合成プロセスの歴史(前編・後編)は、同じ製品をつくるとしてもその造り方には複数の選択肢があり、よりよい合成プロセスを選択するべきだ、という教訓を示しています。また、ある時期までは優勢であった水銀法が廃れた理由を考えると、危険性のある物質はたとえ製品に残留しないとしても、そもそも使用しないことが望ましいこともわかるでしょう。
この教訓は、材料の開発に際して、最終的にその材料がいかなる原料を必要とし、どのようなプロセスで生産されるのか、をあらかじめ想像しておけば最初からサステイナブルに近いプロセスで製造することができるということではないでしょうか。つまり、有害な元素を含まず、製造プロセスでも使用しない、というルールの下で材料を開発することが望ましい、そういうルールの必要性が示唆されている、と見ることができるのです。
以前、本ブログでも紹介した「グリーンケミストリー12箇条」(2015.12.8の記事、2016.1.5の記事)はそのようなルールを定式化したものと考えられます。今回はこの「グリーンケミストリー12箇条」の問題点について述べたいと思います。
では「グリーンケミストリー12箇条」を列記してみましょう。
1 廃棄物は「出してから処理ではなく」、出さない
2 原料をなるべく無駄にしない形の合成をする
3 人体と環境に害の少ない反応物、生成物にする
4 機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる
5 補助物質はなるべく減らし、使うにしても無害なものを
6 環境と経費への負担を考え、省エネを心がける
7 原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る
8 途中の修飾反応はできるだけ避ける
9 できるかぎり触媒反応を目指す
10 使用後に環境中で分解するような製品を目指す
11 プロセス計測を導入する
12 化学事故につながりにくい物質を使う
まず気がつくのは、これらのルールには化学物質の合成・開発から量産までいろいろなレベルでの行動が含まれていることです。とくに、実際に物質の大量生産を行うわけではない材料開発の研究までもが視野に入っています。
有用な材料の開発を目指して化学者が新しい物質の研究を行う際、上記のルールの一部は研究の中での選択枝に制限を加えるものです。しかし、このような制限を受けてもなお、化学の対象とするフィールドは広大で、新たな発明・発見の可能性が損なわれることはないであろうと私は考えています。そういう意味で、この12箇条は過剰なルールではないと思いますが、逆にこのルールで十分なのか、というとそうでもありません。
例えば、第4条「機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる」。
これは誰でも納得できるルールだと思うのですが、機能が同じでない場合はどうなるのでしょうか?機能と毒性のトレードオフの問題、つまり「この機能のためにどの程度の毒性が許されるのか」という問題が必ず表れてきます。これは化学、いや科学だけでは解決できない価値判断を含んでいます。サステイナブル工学の視野にはこの様な領域も含まれることは意識しておくべきでしょう。
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