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「安全工学」の講義 第1回安全と倫理から(1) 講義の目的 (片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 この講義については,すでにこのブログ(2016年4月4日)で紹介しました。この講義では:

  1.  取材力:正しく現状を把握する力
  2.  理解力:正しい基礎的な知識
  3.  思考力:正しく考える方法と能力
  4.  表現力:自分の考えを正しく伝える技術

の4つの力の獲得を目指します。これはそれぞれ本学のカリキュラムポリシーにある、

  1.  (発見)・分析・評価能力
  2.  国際的教養と専門の知識
  3.  論理的思考力
  4.  コミュニケーション能力

に対応します。特に安全の分野では、TPOに応じて、これらの能力を現場で発揮することが要求されます。

 2011年3月の東日本大震災、それに伴う福島第一原子力発電所のレベル7の事故は、我々工学者に冷や水を浴びせ、なさけなく、やるせないものでした。あのとき、刻々と知らされる事態の推移はテレビや新聞で知らされるものの、その多くは専門家や政治家の思い込みと想像に基づく意見でした。

 事実と意見をしっかりと分けるのが、科学のお作法であり、正しく事象を把握するために必須です。しかし、同じ事実を元にしたコメントでも、専門家によって,全く異なる意見が表明され、事態は混乱しました。

 地震のその日に「炉心溶融(メルトダウン)はありえない」と言われた大学教授がいたかと思えば、「メルトダウンどころか、再臨界の可能性もある」といわれた大学の先生もいました。漏洩放射能の影響について危険性をことさらに喧伝する方もいれば、「直ちに健康へ影響はない」と断言した政治家もいました。はては「むしろ少量の放射線は体に良い」と主張する大学教授もいました。これらの新聞やテレビで報道された内容は、あくまで限られた情報からの推測=意見でした。

 誰を信じたら良いのか、どうすれば自分と家族の安全と健康を守ることができるのか、これこそが、この講義の一つの目標です。

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自分で正しい情報を選択し、それを正しく理解できる知的基盤を持ち、それをもとに正しく判断し、周りの人に誤解無く伝えることが、この講義で皆さんに身につけてもらいたいことです。

 そして,皆さんは工学者の卵です。将来このような事態に直面した時に,周囲の人はあなたの意見を聞きたがる事になるでしょう。そのとき「分からない」ではなく、工学のプロとして自分で責任を持って発言できるような,基盤を身につけてほしいのです。

 2012年の春に,日本を訪れたパデュー大学の根岸英一教授(2010年ノーベル化学賞受賞者)は講演会のときに、東日本大震災に対して「Life must go on.」とおっしゃいました。われわれはこの文をどのように意訳すべきか、それが工学者の姿勢に沿うものであって欲しいと思います。

 あなたはどのように訳しますか。

片桐 利真

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