書評 武田 邦彦著「リサイクル幻想」(文春新書)(江頭教授)
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なんでもリサイクルすれば良いという訳ではない、という話をこのブログ記事に書きました。そこで思い出したのがこの本です。
著者の武田 邦彦氏、最近はどんどん専門分野が広がっているようで何とも評価しにくい著書を発表している様子ですが、2000年に出版された本書はまだ普通の本として読める内容です。
特に、リサイクルの矛盾を列挙した第2章はなかなかの切れ味で、安易な「リサイクルのためのリサイクル」に対する力強い反論となっています。工業製品は品質が保証されていることが必須ですが、リサイクルを行った場合の品質保証は難しい。さりとて低い品質でも許容される用途は極めて限られていてリサイクル品の受け入れ先はあっという間に足りなくなる。紙のリサイクルでは再生紙の再生率を偏重することで返ってエネルギー資源を浪費しているのではないか。等々、いろいろな論点が挙げられています。
2000年当時、リサイクルに注目が集まり、ともすればリサイクルが無条件で良いことと見なされた、本書にはそんな風潮に対する反論という側面もあるのでしょう。ですから結論は、個別具体的にリサイクルの是非を問うべきだ、で良いと思うのですが著者はリサイクルについてかなり手厳しい態度で、なんでもリサイクルしてはいけない、と見えるほどです。
さて、本書の後半で著者の考える理想の循環型社会が提案されています。
ゴミはすべて焼却し、焼却灰を「人工鉱山」とする、という考えなのですが、これを読んでなるほどと思った点がありました。
著者の考えに納得した、というのとは少し違って、著者が何故リサイクルに対してここまで悲観的ななのか、という理由が分かったような気がしたのです。リサイクルの対象になるものは一般的に言えば廃棄物・不要品ですが、それぞれは個別の構造をもった人工物で、それぞれの特徴に合わせた最適なリサイクルの仕方を考える必要がある、いえ、考える余地があると言えます。
一方で本書の著者がイメージしているリサイクル対象は均一化された「焼却灰」の様な物質なのでしょう。著者は廃棄物からの有用物質の回収には膨大なエネルギーが必要だとしていますが、全焼却して完全に混合してしまった「焼却灰」から有用元素を取り出すとなればそれは大変な作業です。
著者は人為的なリサイクルを断念し、自然の力で100年単位の時間をかけた人工鉱山の自発的な発生に期待していますが、100年後にそのような状況が達成できるめどがあるのでしょうか。それよりも目の前にある廃棄物・不要品の処理方法を一つ一つ丁寧に作り上げていく努力をすべきなのではないか、私はそう考えました。
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