Fischer-Tropsch合成について(江頭教授)
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先日紹介した応用生物学部と工学部の共同研究プロジェクト、そのなかで少しだけ「Fischer-Tropsch合成」に触れました。この反応は一酸化炭素(CO)と水素(H2)から液体燃料を作成することができるプロセスです。石炭やバイオマス由来の炭素のガス化と組み合わせると石炭やバイオマスから液体燃料(軽油など)が合成できることになります。
そんな反応があるのか!と思う人もいるかもしれませんが、FT合成自体は古くから知られていた技術なのです。
私個人の記憶では、FT反応の話を知ったのは私が大学の3年のころでした。東京大学の藤元薫教授(当時。現在も、一般社団法人HiBD研究所で液体燃料の研究を続けておられます)がこの反応を研究されていて、いろいろな種類の炭化水素が生じる反応をどのように研究してゆくのか、想像もつかないな、と思っていたことを記憶しています。今にして思えば、生成物の分布は完全にランダムという訳ではありませんし、炭化水素のいろいろな物性にも分子量に対してプロットしてみればそれなりの規則性があるものなので、不可能というわけではありませんね。
私が学生だったころはオイルショックの記憶が生々しい時期でした。(高校生の皆さんは当時の雰囲気をお母さんやお父さんに聞いて見ると良いと思います。)「石油が無くなったらどうしよう」という不安感が世間にあふれていましたから、石炭(の炭素)から石油の代替品をつくることができる、という点でFischer-Tropsch合成はとても魅力的に見えました。
さて、以下の図はこのFT合成を行うパイロットプラントや工業プラントで用いられた反応器の装置図です(藤本先生が書かれた「合成ガスから液状炭化水素の合成」 有機合成化学協会誌 41(6), 532-544, 1983 と題する解説記事から引用しました。) オイルショックから間もない時期でもすでにいろいろな反応器が実用化されていたことが分かります。
液体燃料を合成するプロセスが実は古くから実用レベルにあった。では、なぜ我々は今現在、合成液体燃料が使われているところを見かけないのでしょうか?
実は上記の総説には「現在合成ガスから液状炭化水素を工業規模で製造しているのは南アフリカ共和国のみである。」と書いてあります。これは1983年の記事ですから、南アフリカはアパルトヘイト政策を行っていた時代で、世界から孤立していました。石油を自由に輸入できない状況で、自国で産出する石炭を原料に液体燃料をつくっていたのです。
逆に言えば、オイルショックの状況下でも合成した液体燃料は石油由来のガソリンや軽油に比べて割高だった、少なくとも新たな液体燃料合成プラントがどんどん建設されるほどには魅力的ではなかった、ということだと思います。
FT合成プロセスは液体燃料の製造、という点だけから考えると現時点では経済性の乏しいプロセスだ、と言えるでしょう。ただ、現在利用されいる石油由来の液体燃料はサステイナブルではない、という点には留意する必要があります。我々の研究プロジェクトでは廃棄物の処理と燃料の合成を組み合わせることで経済性を持たせ、なおかつサステイナブルな燃料の供給手段を確保することを目的としています。
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