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2016年7月

2016.07.29

「安全工学」の講義 第2回応急処置から(4) 地震に備えてすべきこと(片桐教授)

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 2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

 このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 地震は嫌なものです。昔から「地震、雷、火事、親父(大嵐)」と自然災害の一番目にあげられます。たとえ震度2程度での被害を伴わない地震であってもあの足元が揺れることにより、恐怖を感じます。最近は緊急地震速報も普及し、揺れる直前にあの携帯やスマホの「キュイッ、キュイッ」という音や,テレビの「ビーッ、ビーッ、ビーッ…ピャンポン,ピャンポン」という音が流れます。それを聞くと,全身の筋肉がこわばります。あの警報音のあと、ほんの1秒の間に何をするのが最善か、常日頃から考えておかないとなにもできません。でも常にそんなことを考えていたくありません。日本人特有の言霊進行=縁起でもないという考え方ですね。

 地震発生時に慌てる前に、普段から備えることが大事です。落下物があたると痛いので、高いところに重い硬い本をおくのはやめましょう。本棚や戸棚などはしっかり耐震固定しましょう。避難経路の扉を塞ぐような什器(家具類)はおかないことです。

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2016.07.28

pHは桁数(対数)を使った指標(江頭教授)

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 実験で余った塩酸、そのままでは廃棄できませんから炭酸水素ナトリウム(重曹のことです)を使って中和してから捨てる様に学生んさに頼みました。重曹を入れるたびにたくさんの泡(二酸化炭素です)がでてくるので、見た目はサイダーの様ですが、もちろん甘くはありません。それどころか炭酸水素ナトリウム中のナトリウムイオンと塩酸中の塩化物イオンが廃液内に残留しますから中和が終了した時点では塩水になってしょっぱいはずです。(試してはいませんが...。)

 発泡の有無でだいたいの中和点は分かりますが、念のためpH試験紙を使って中性に近づく状態を確認しならがら処理をしてもらったところ、こんな話が。

 「最初pHがほぼ1だったが、いまは2くらいに到達した。中性はpH=7だから今までの5倍くらいの炭酸水素ナトリウムが必要です。」

 そのつもりで炭酸水素ナトリウムを加えてゆくとあっという間に溶液はアルカリ性に。今度は塩酸を入れようか、という話になってきます。

 はい、このお話はpHというものがどのように定義されているか、がポイントになってきます。pHは水素イオン濃度が少ないときに小さい値になる。中性は7。それ以上はアルカリ性だ。ここまではOKなのですが、pHは桁数(対数)使った指標なので、量に対する私たちの感覚は通用しません。pHが1違う、ということは水素イオン濃度は1桁違うということになります。符号が逆についているので、pHが1大きくなると水素イオン濃度は10分の1になる、ということです。

 つまり、pHが1から2になった段階で中和は90%終わっているのです。

 我々が扱う水素イオン濃度の範囲は非常に広い、だから水素イオン濃度の指標として桁数(対数)をもちいることで煩雑さを避けているわけです。

 この桁数を用いた量の指標は他の分野でも用いられています。

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2016.07.27

Fischer-Tropsch合成について(江頭教授)

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 先日紹介した応用生物学部と工学部の共同研究プロジェクト、そのなかで少しだけ「Fischer-Tropsch合成」に触れました。この反応は一酸化炭素(CO)と水素(H2)から液体燃料を作成することができるプロセスです。石炭やバイオマス由来の炭素のガス化と組み合わせると石炭やバイオマスから液体燃料(軽油など)が合成できることになります。


 そんな反応があるのか!と思う人もいるかもしれませんが、FT合成自体は古くから知られていた技術なのです。


 私個人の記憶では、FT反応の話を知ったのは私が大学の3年のころでした。東京大学の藤元薫教授(当時。現在も、一般社団法人HiBD研究所で液体燃料の研究を続けておられます)がこの反応を研究されていて、いろいろな種類の炭化水素が生じる反応をどのように研究してゆくのか、想像もつかないな、と思っていたことを記憶しています。今にして思えば、生成物の分布は完全にランダムという訳ではありませんし、炭化水素のいろいろな物性にも分子量に対してプロットしてみればそれなりの規則性があるものなので、不可能というわけではありませんね。


 私が学生だったころはオイルショックの記憶が生々しい時期でした。(高校生の皆さんは当時の雰囲気をお母さんやお父さんに聞いて見ると良いと思います。)「石油が無くなったらどうしよう」という不安感が世間にあふれていましたから、石炭(の炭素)から石油の代替品をつくることができる、という点でFischer-Tropsch合成はとても魅力的に見えました。


 さて、以下の図はこのFT合成を行うパイロットプラントや工業プラントで用いられた反応器の装置図です(藤本先生が書かれた「合成ガスから液状炭化水素の合成」 有機合成化学協会誌 41(6), 532-544, 1983 と題する解説記事から引用しました。) オイルショックから間もない時期でもすでにいろいろな反応器が実用化されていたことが分かります。

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2016.07.26

「安全工学」の講義 第2回応急処置から(3) 野次馬は絶対ダメ(片桐教授)

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 2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

 このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 住宅街で夜中に火災があると、どこからともなくわらわらとやじ馬が現れ,消火活動の邪魔になります。そして,多くの爆発を伴う大規模な火災事故での犠牲者は「やじ馬」です。

 1980年8月に発生した静岡駅前地下街爆発事故では、死者15人、負傷者223人の大事故になりました[1]。この時の死傷者の大多数は1回目の爆発の見物人で、2回目の爆発で被災したそうです。また、1947年にテキサスで起きたGrand Camp Explosion では552人が死亡し、3000人以上が負傷したそうです[2]。この事件は、船舶火災が発生し、港にやってきた消防隊および見物人が爆発により全員死亡したそうです。

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2016.07.25

前期の授業は今週で終了します(江頭教授)

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 高校や小中学校ではすでに夏休みに入っている学校も多いかと思いますが、本学では今週まで授業があります。正確には今週の木曜日、7月28日で前期の授業が終了します。

 月曜日や金曜日の祝日を出校日にして授業を行ったり、ゴールデンウィークのまとめて一週間の休みにする、など多少強引なやり方のおかげで今期はそれぞれの曜日の授業が順序よく均等に進んだため、先週の金曜日から今週の木曜日までのちょうど一週間が第15回目、つまり最終回の授業の日となっています。

 そうです、先週の金曜日に行われた授業はすでに最終回の授業でした。

 この日、私は本学科の1年生向けの「工学基礎実験Ⅰ(C)」の授業の手伝いをしました。学生実験は余裕をもって日程が組まれているので、最後のこの時間は学生諸君の採点済みのレポートを一時的に返却し、修正と加筆をする時間として有効活用することになりました。私は自分の担当する実験について、学生諸君の質問に答える役割でした。一学期間に10テーマ行った実験のうち、今回のレポート対象は4テーマ分でしたが、私のテーマ分だけでも分厚いレポートを持ってくる学生諸君のみると、1年生の授業のなかで学生実験の占める部分の大きさを感じます。

 学生実験は4限までで、その後、5限には「サステイナブル工学基礎」の授業がありました。

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2016.07.22

「安全工学」の講義 第2回応急処置から(2) 大学生は消火作業をすべきか?。(片桐教授)

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 2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

 このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 第2回の講義は「緊急時の対応」でした。大学の教室や研究室で地震に遭遇した時に何をするか、火事に遭遇した時に何をするか、けが人や急病人が出たときにどのように処置するか、救急車はどのように呼ぶか、などについての講義でした。

 そのなかでも、火事が起きたとき、見かけた時にどのように対応するかについてです。

 片桐は大学生時代に研究室に配属されてからの8年間で9回、消火器を使ってボヤを消しました。しかし、消火活動を無理強いされたことはなく、自発的に行った行為でした。一方、会社員になってからは入社2年目には職場自主防災組織の消火班班長を仰せつかり、業務の一部として操法訓練を受けました。

 学生に消火活動をやらせてもよいのか、大学の教室や研究室における学生の地位や位置づけは2003年以降に大学の安全衛生の立場からも盛んに議論されてきました。結論から言えば「教室の学生は映画館の観客と同じ、発災時には従業員(教員)の指示に従い避難させる」「研究室の学生は準構成員、消火活動の法的義務はないが道義的な義務を持つ」ということのようです。

 ですから,火災を発見した学生さんはまず消火よりも、その発災を周囲に知らせること,そして自分の身を守ることが求められます。周囲に火災の発生を知らせ避難を促すのは、道義的義務の範囲です。そして、可能なら消火器を使った消火活動を「絶対に無理せず」行ってください。先生や職員の方が来たら、すぐに交代してください。

 周りというと、隣の研究室ばかり思いつきますが、それ以上に上の階、下の階にも知らせてください。上の階には炎が上がって延焼の恐れがあります。下の階は消火の際の水で被害を受けます。周知ひとつでも、頭を使って行わなければなりません。

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炭酸消火器、事前に使い方を知っておきましょう。

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2016.07.21

共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について その2(江頭教授)

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 前回に引きつつき、東京工科大学の共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について紹介します。

 前回は八王子市と東京工科大学の共同プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」の成果を引継ぎ、バイオマスのガス化によって得られる一酸化炭素と水素から液体燃料を合成するプロセスを研究するプロジェクトを開始したこと、それが「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」である、という紹介をしました。

 また、このプロジェクトでは本学の応用生物学部と工学部が共同で研究を進めている、という点も述べました。

 さて、この新しい研究では先行する「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」の成果を引継ぎ、以下様な反応装置を使って「Fischer-Tropsch反応」により液体燃料(合成軽油)を製造するプロセスを対象としています。

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2016.07.20

共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について(江頭教授)

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 今回は東京工科大学の共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について紹介しましょう。

 本題に入る前に、まず共同研究プロジェクトとは何か。これは本学の学部内、あるいは学部間での共同研究を活性化するために企画された研究プロジェクトで、今回のプロジェクトでは我々応用化学科が属している工学部と本学の応用生物学部とが共同研究を行うこととなっています。

 はい、次はなぜ"Ⅱ"なのか、について。

 実はこの研究プロジェクトは本学と八王子市と「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」の成果を引継ぎ、より発展させるためのものなのです。

 という事で、まずは「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」について説明させてください。

 この研究プロジェクトはバイオマスのガス化によって得られる一酸化炭素と水素から液体燃料を合成するプロセスを研究するプロジェクトとして、平成19年にスタートしました。

 八王子市では、年間約1万トンに及ぶバイオマス資源を可燃ごみとして収集しています。これを有効利用する方策として、八王子市と東京工科大学は共同でバイオマスを液体燃料に変えるための共同研究を行いました。バイオマス由来の液体燃料は自動車などで利用してもトータルでは温室効果ガスを増加させませんし、限りある資源を大切に使うことにも役立ちます。

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2016.07.19

「安全工学」の講義 第2回応急処置から(1) AEDのありか(片桐教授)

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 2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

 このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 第2回の課題のひとつとして、「八王子キャンパスにあるAEDのありかを調べよ。その際、その置き場所を明らかにしている「情報源・ソース」をできるだけ沢山挙げよ。(3件以上)」を課しました。これは「取材」能力の涵養のためのレポートでした。どこにおいてあるかはわかって当たり前、その情報源を複数・出来るだけ沢山を調べられる能力を評価します。そして,その情報に矛盾はないか=裏を取ることの重要性もレポート課題をとおして意識させたいと思いました。

 多くのレポートが、5つのありかを記載できました。中には第一学生会館の1階を「八王子キャンパス内ではないのですが」と断り書きをして6カ所出してきた人もいました。中には、いちいちそのおいてある場所を自分の目で確かめた人もいました。確かに、キャンパス全体の俯瞰図への記載だけでは、実際に必要な時に建物の中を探しまわらなければなりません。さらに、現在の置き場所の問題点や設置場所表示の問題点を分析し、提案してきたレポートもありました。脱帽です。

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2016.07.18

7月17日にオープンキャンパスを開催しました(江頭教授)

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 7月17日(日)には本学八王子キャンパスのオープンキャンパスが開催されました。我々応用化学科も講演・模擬授業・展示・体験実験などを展開したのですが、この日、たまたま非番だった私は、オープンキャンパス参加者の目線で会場を見て回ることにしました。オープンキャンパスで本学の応用化学科を見学する際の流れを写真で見てゆきましょう。

 まず最初は受付から。会場は本学の片柳研究棟です。玄関には「受付」の看板が。中に入ると本学の公式キャラクター「こうかとん」がお出迎えです。

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受付を済ませてまずは地下ホールへ。会場や見学コースの説明、昼食の案内(本学の学生食堂で無料の昼食がでます)やアンケートへの記入のお願いと提出方法(キャンパスグッツと引き替えになります)などの紹介がありました。写真でホールが暗くなっているのは大学紹介のビデオが上映されていたからです。

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さて、次は同じ建物の2階で工学部についての学科紹介です。大山工学部長から本学工学部の沿革(実は本学には以前にも工学部があったのです!)や、教育上の特徴(サステイナブル工学コーオプ教育・そしてグローバル教育です。)の説明がされました。

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 ここもう一度会場が変わります。片柳研究棟7階、我々応用化学科の学生実験室に移動して、この度は応用化学科の説明が始まります。

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2016.07.15

「安全工学」の講義 第1回から(7) シティコープビルと公益通報(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 倫理的な考え方は、しばしば安全を達成する方法を規制します。その一つの例として「公益通報」「内部告発」の問題が上げられます[1]。そして,レポートケースメソッドの課題として提案した場合に、「自分のこととして」まじめに考えているかいないかが一番はっきり分かるのが、この課題です。

 軽く考えれば、世のため人のために不正を告発する行為は,正義の味方になることであり、安直に「正しい行為だから」と内部告発を選択します。しかし、その内部告発で会社がつぶれたら、それにより路頭に迷う社員=その多くは家族を持つ同僚、が出る恐れもあります[2]。また,その告発で自分が何も得をしないことも意識しなければなりません。特に、すぐにマスコミにばらす行為は最悪です。公益通報の「保護要件」は厳密に定められており、内部通報は比較的緩やかですが、行政機関通報はその規定が定められ、企業外通報では厳しく条件が定められています。つまり,法の保護は無条件ではありません。

 参考資料の質も問題です。法律事務所のWEB PAGEを参考資料とした場合のレポートの結論の多くは「内部告発する」でした。しかし、弁護士への相談費用は存外に大きな額になります。「会話をこっそり録音して、証拠を取っておく」のも一見有効な方法に見えます。しかし、「相手方の同意なしに対話を録音することは、公益を保護するため或いは著しく優越する正当利益を擁護するためなど特段の事情のない限り、相手方の人格権を侵害する不法な行為と言うべきであり、民事事件の一方の当事者の証拠固めというような私的利益のみでは未だ一般的にこれを正当化することはできない」という判例[4]もあり、この裁判でかかった費用の請求の際の法的な資料にはできない恐れもあります。

 では、どうするのが最善なのか、答えはありません。しかし、工学倫理ではその希有な成功例として、以前にこのブログ(2016年3月21日)に少しだけ触れた,シティ・コープ・ビルにおけるル・メジャーの決断の例が上げられています。これは、ル・メジャーの設計したビルが、法的な想定では問題ないけども、想定外の風の受け方を計算したら、倒壊の恐れがあることに気づいた。その時に、彼がどのような決断を下したかという話しです。

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シティコープ・ビルとその構造

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2016.07.14

出前実験を行ってきました(西尾教授)

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 6月25日に,逗子開成中学校・高等学校で開催している「土曜講座」を担当し,「虹色を出すめっきの実験」を実施してきました.昨年度に続いて2回目の実施となりましたが,アルミニウムの表面を電気化学的に酸化し,続いてめっきを行い,1枚のアルミニウム板に様々な干渉色(構造色)を出す実験です.これは首都大学東京の益田秀樹教授が開発したもので,東京化学同人「現代化学」の1997年1月号に掲載されています.

 定員20名に対して希望者が多かったので,事前に抽選を行ったとの事でした.参加してくれた学生は中学生が多く,はじめにスライドを用いて原理を説明した内容は,少し難しかったかもしれません.しかし,いざ実験が始まると,皆さん興味津々で真剣に取り組んでいました.化学教育の一端を担う者として,若い学生に化学を楽しんでもらう機会を頂いた事に,改めて感謝しています.

 この実験は,今年度の8/7(日),8/28(日)のオープンキャンパスでも実施する予定です.また,1回の実験で対応できる人数は約20名までですが,今回の様に出張する事もできます.興味がありましたら,大学の広報部まで是非お問い合わせください.

http://www.teu.ac.jp/gaiyou/006493.html

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2016.07.13

窒素固定はなぜアンモニア合成だったのか?(江頭教授)

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 先日紹介したSF小説「窒素固定世界」は窒素固定が大気中の窒素と酸素を結合させる反応、つまり窒素酸化として実現されたら、というIFの世界を描いたものでした。大気から窒素酸化物を作り出す疑似植物は爆発的に繁殖し、最終的には大気中の酸素を消失させ、人間以外のすべての動物が死滅する、という設定です。一方、現実の窒素固定技術は窒素と水素からアンモニア合成をを行うものでした。では、なぜ窒素固定の手段としてアンモニアの合成が選ばれたのか、言い換えれば、なぜ窒素酸化が選ばれなかったのか、が今回のお題です。

 窒素酸化物、大気汚染の原因物質で、あまり良いイメージのない物質です。アンモニアには価値があっても窒素酸化物には価値がなかったのでしょうか?そんなことはありません。窒素酸化物から得られる硝酸、硝酸から得られる硝酸塩は肥料として有効ですし、それ以上に火薬の原料としても重要な物質でした。実際、ハーバーボッシュ法を用いた最初の工場(後に大きな悲劇に見舞われるオッパウの工場です)が稼働した1913年の翌年、1914年にはすでにアンモニアの酸化による硝酸製造工場が作られています。

 では、アンモニアの合成反応と窒素の酸化反応、ここでは二酸化窒素が生じる反応としますが、この二つの反応の起こりやすさを比べてみましょう。

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2016.07.12

「安全工学」の講義 第1回安全と倫理から(6) 学会の倫理規定(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。
このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。
 
 学会はその分野のプロフェッショナルの集まりです。その倫理規定はその分野世界の住人として守るべきこと、守るべき態度を示しています。講義では日本化学会、電気学会、機械学会の倫理規定を紹介しました。
 
 日本化学会の会員行動規範[1]では
  1. 人類に対する責務
  2. 社会に対する責務
  3. 職業に対する責務
  4. 環境に対する責務
  5. 教育に対する責務
の5項目が記述されています。
電気学会の行動規範[2]には
  1. 人類と社会の安全,健康,福祉をすべてに優先するとともに,持続可能な社会の構築に貢献する。
  2. 自然環境,他者および他世代との調和を図る。
  3. 学術の発展と文化の向上に寄与する。
  4. 他者の生命,財産,名誉,プライバシーを尊重する。
  5. 他者の知的財産権と知的成果を尊重する
  6. すべての人々を思想,宗教,人種,国籍,性,年齢,障害に囚われることなく公平に扱う。
  7. プロフェッショナル意識の高揚につとめ,業務に誇りと責任を持って最善を尽くす。
  8. 技術的判断に際し,公衆や環境に害を及ぼす恐れのある要因については,その情報を時機を逸することなく,適切に公開する。
  9. 技術上の主張や判断に際しては,自己および組織の利益を優先することなく,学術的な誠実さと公正さを期する。
  10. 技術的討論の場においては,率直に他者の意見や批判を求め,それに対して誠実に対応する。
の10項目が記述されています。

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2016.07.11

「応用化学科の三つの特徴」を解説するビデオを公開しました(江頭教授)

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 本学の応用化学科の三つの特徴とは

  • 化学とバイオの融合
  • サステイナブル化学
  • コーオプ教育
の三つです。この順番で学科としての固有の特徴であり、この逆の順番で工学部全体での特徴でもあります。
 という事で、本学科の一番の特徴的なコンセプトは「化学とバイオの融合」です。これは、単に高校で学ぶ「化学」と「生物」との間、という意味ではありません。サステイナブルな社会造り、という工学部の、そして本学のミッションを実現するために、必然的に導かれるコンセプトなのです。なぜなら、という内容を山下学科長がこのビデオで紹介しています。
 そして次の特徴は「サステイナブル化学」です。
 

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2016.07.08

「安全工学」の講義 第1回安全と倫理から(5)工学倫理の必要性(片桐教授)

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 2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

 このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 倫理学は物事の善悪の判断を考える学問です。しかし、ニーチェはんが「神さん息してへんで!、死んではるで!」(なんでここだけ怪しい関西弁?)と宣言して以来、絶対的な善も悪も語ることが難しくなってしまいました。今は、TPOに応じて善悪を判断する基準を提示する「応用倫理学」ある意味、工学的な倫理学がいろいろな分野で研究されています。「工学」の世界にも「工学倫理」という世界があります。工学倫理は何冊もテキストが出版されており[1]、その入門編だけでも15コマ2単位の講義を必要とします。

 安全工学で重要なアイテムである「カイゼン」「改善提案」は産業のためには善と信じられていました。しかし、1999年の東海村JCO臨界事故は、このカイゼンを原因としていました。その意味で、善悪の判断の根拠となる「工学倫理」は安全工学にも大きく関係する学問分野です。

 鉱山では管理職と鉱夫が「友人関係を結ぶことを禁じていた」、という話しを聞いたことがあります。これは、山が落ちた時にその友情が「ひとりでも多くの鉱夫を助ける」ための管理職側の正しい判断を妨げる恐れからだったそうです。常識的に考えて正しいとされている「友情」が職業人としての判断の害になる可能性の話しは、私にはショックでした。そして、緊急時に場に流されず理で判断できるかどうかを自問すると、答えられない私がいました。

 

 プロとしての判断と、個人としての判断が異なるとき、どのように行動するべきなのでしょうか。

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2016.07.07

学生実験をみてみよう(第3期)「反応速度」(江頭教授)

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 本学科の学生実験を紹介している本シリーズ、今回は2年生向けの応用化学実験(物理化学実験)のなかから「反応速度」について紹介します。

 化学反応には早い反応、遅い反応、じつに幅広い速度の変化があります。でも、非常に遅い反応は私たちの興味の対象ではありません。逆に非常に早い反応の速度を知りたいと思うことも少ないはずです。「瞬時に反応する」などと表現されて実際に速度が問題となることはないはずですから。実際に反応速度を測定するニーズが高いのは、有意な反応が起こるために数秒から数時間の時間がかかる反応だと思います。逆にこれらの反応は速度を測定し易い反応だとも言えるでしょう。

 今回紹介する学生実験では二つの反応を対象としました。一つは酢酸メチルの加水分解。もう一つはp-ニトロフェニルアセテートの加水分解です。化学反応の速度を求めるには生成物や反応物の濃度を測定し、その時間変化を追跡する方法、生成物の量に対応する物性値を測定する方法がありますが、前者を酢酸メチルの反応で、後者をp-ニトロフェニルアセテートの反応で利用します。

 下の写真は酢酸メチルエステルの加水分解の実験。40℃の恒温槽中で反応を起こさせています。

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2016.07.06

書評 ハル・クレメント著「窒素固定世界」(江頭教授)

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ハル・クレメント著 小隅黎訳 「窒素固定世界」 東京創元社 (1980)

 もとの英語のタイトルはそのものズバリ「The Nitrogen Fix(窒素固定)」です。窒素固定と言えば窒素と水素を反応させてアンモニアを製造するプロセス、つまりハーバー・ボッシュ法のことですが、このSF小説の中では別の物質を窒素と反応させる触媒(正確には酵素のようなもの)が開発されたことになっています。つまり、窒素と酸素から窒素酸化物が生成される、というのです。我々の知っている化学工学的なプロセスとは異なり、非常に進化したバイオテクノロジーによって改造された植物が空気中の酸素と窒素から硝酸イオンを製造する能力を獲得する。この技術によって窒素肥料を必要としない理想的な農業が行える、はずだったのですが...。

 そこはSF小説ですから当然、大変なことになります。窒素固定植物は大繁殖し大気中の酸素がすべて窒素と結合した結果、大気から酸素は消失。窒素と窒素酸化物の大気となります。もちろん人間や動物は呼吸できません。窒素酸化物から生じた硝酸が海に溶け込むことで海の水は酸性になってしまいます。人間以外のすべての動物は死滅し、植物は窒素固定植物に入れ替わります。硝酸塩を含んだ窒素固定植物の一部にはニトロ化合物が蓄積し自然の爆弾となっている、そんな地獄よりも恐ろしい世界が出現して2000年後の世界がこの小説の舞台となっています。

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2016.07.05

「安全工学」の講義 第1回安全と倫理から(4) ノブリスオブリジェ(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 この講義で片桐はリーダーになるための「ノブリスオブリジェ」の涵養の重要性をしつこく論じています。では、ノブリスオブリジェとは、どのようなものでしょうか。

 辞書的には「高貴たる者の義務」と書かれています。私は、このことばを「大学などで高等専門教育を受けた者はその能力を社会のために正しく使うべきだ」という社会的責任を表す言葉として用いています。もっと言えば、自分の学んだことや獲得した能力を自分のためだけではなく、社会に還元する義務がある、というニュアンスです。私が講義,特に実験の講義で呪文のように唱える「みんなでHappyになろう」も、この精神に基づくものです。

 講義の「安全工学」の前半ではいろいろな事故の未然回避(防止対策)や事故被害の最小化(局限対策)のための手法、具体的には事故要因分析やその対策の立案をケースメソッドや自分の体験からレポートの形で思考実験・実践します。しかし、多くの学生さんのレポートは波及効果を「自分only」の限定的なものにしており、それを他へ波及させることを意識していません。これでは不十分です。講義で習ったことを自分のためだけではなく、みんなのために使うための知恵を獲得しなければ、なぜ安全工学を学んだのか、その価値がありません。

 ある意味、指導者の安全工学はボランティアに似ています。

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2016.07.04

世界の二酸化炭素排出量を調べてみよう(江頭教授)

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 先日の記事では日本の温室効果ガスの排出量について紹介しました。今回は世界全体の温室効果ガスについて調べてみましょう。

 世界の温室効果ガスの排出状況については環境省のこちらのページに「世界のエネルギー起源CO2排出量」としてまとめられています。「エネルギー起源CO2」が温室効果ガスのすべて、という訳ではありませんが現時点では人間活動によって放出される温室効果ガスのほとんどはCO2、それも化石資源の利用から発生するCO2です。なので、この値で世界の温室効果ガスの排出状況をおおよそ把握することができます。このデータはもともとはIEA(国際エネルギー機関)がとりまとめた数値をもとに環境省がまとめたものです。化石エネルギー、石炭・石油や天然ガスの生産は大規模になれば必ず専門の業者が関わることになり、多くのお金が動くことになります。それには税金がかかる、ということは政府が把握することになる。化石資源の利用については世界規模で正確な統計資料が作られる下地があった、ということでしょう。

 さて、図には環境省の「世界のエネルギー起源CO2排出量(2013年)」の資料から「主な国別エネルギー起源CO2排出量の推移」を示しました。(以前紹介した国内の温暖化ガスの排出量は2014年度までのデータがまとまっていましたが、こちらは2013年までのデータとなっています。「年度」と「年」のちがいにも注意。)

 2013年の排出量は322億トンに達していて、2012年の317億トンからさらに増加しています。

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2016.07.01

「安全工学」の講義 第1回安全と倫理から(3) プロフェッショナルに求められるもの(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 この講義では受講者を「責任ある工学のプロ」の卵,企業においては幹部候補生(将来管理職になるもことを期待されるもの)として扱います。したがって、受講者には「高いレベルの矜持」を求めます。では,高レベルの矜持、プロの矜持とはどのようなものでしょう。

 少し前の雑誌に、「プロフェッショナルを定義する」という記事が掲載されておりました[1]。その記事には、プロの定義として

  1.  専門的な知識や技能によって報酬を得ている人
  2.  果すべき役割をまっとうできる能力を備えた人
  3.  自分の仕事に夢と誇りを持ち続け、不断に努力を重ねる人(スペシャリストと異なる)

と記述されていました。すなわち、専門的知識、技能 + 倫理感、責任感を持つ者がプロであるとされているわけですね。ここで大事なのは、最後の3番目の「自分の仕事に夢と誇りを持ち続け、不断に努力を重ねる人」だと思います。

 さて、管理職と言えば、プロ野球の監督は、私の知る限り皆、選手出身です。プロ野球選手の経験を持たない者はなぜ監督になれないのでしょう。企業では、その職制として経営者は何をやるかについてすなわち「戦略」を担当します。管理職はその目標をどのように達成するかについてすなわち「戦術」を担当します。そして現場の社員は戦術に基づく「戦闘」を担当するわけです。ここで、戦闘の実際を知らない者が戦術を立てても、それは机上の空論になってしまいます。現場を知らない指揮官=管理職に従わなければならない部下の状況は、悲劇です。

Fig

「孤高のスペシャリストの宮本武蔵は部下が持てない」

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