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pHは桁数(対数)を使った指標(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 実験で余った塩酸、そのままでは廃棄できませんから炭酸水素ナトリウム(重曹のことです)を使って中和してから捨てる様に学生んさに頼みました。重曹を入れるたびにたくさんの泡(二酸化炭素です)がでてくるので、見た目はサイダーの様ですが、もちろん甘くはありません。それどころか炭酸水素ナトリウム中のナトリウムイオンと塩酸中の塩化物イオンが廃液内に残留しますから中和が終了した時点では塩水になってしょっぱいはずです。(試してはいませんが...。)

 発泡の有無でだいたいの中和点は分かりますが、念のためpH試験紙を使って中性に近づく状態を確認しならがら処理をしてもらったところ、こんな話が。

 「最初pHがほぼ1だったが、いまは2くらいに到達した。中性はpH=7だから今までの5倍くらいの炭酸水素ナトリウムが必要です。」

 そのつもりで炭酸水素ナトリウムを加えてゆくとあっという間に溶液はアルカリ性に。今度は塩酸を入れようか、という話になってきます。

 はい、このお話はpHというものがどのように定義されているか、がポイントになってきます。pHは水素イオン濃度が少ないときに小さい値になる。中性は7。それ以上はアルカリ性だ。ここまではOKなのですが、pHは桁数(対数)使った指標なので、量に対する私たちの感覚は通用しません。pHが1違う、ということは水素イオン濃度は1桁違うということになります。符号が逆についているので、pHが1大きくなると水素イオン濃度は10分の1になる、ということです。

 つまり、pHが1から2になった段階で中和は90%終わっているのです。

 我々が扱う水素イオン濃度の範囲は非常に広い、だから水素イオン濃度の指標として桁数(対数)をもちいることで煩雑さを避けているわけです。

 この桁数を用いた量の指標は他の分野でも用いられています。

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 例えば地震の規模を表す「マグニチュード」。東日本大震災をもたらした地震はマグニチュード9だった、といいます。ではマグニチュード4.5の地震のエネルギーはその半分か、というと全くそんなことはありません。4.5違うから約3万倍ちがうのか、と思うとそれも間違っています。マグニチュードは1違うと約31倍になります。なんて中途半端な、と思いますが、これは2違うと1000倍になる、つまりマグニチュードの1の違いは1.5桁の違い、ということだそうです。マグニチュード4.5の地震のエネルギーは東日本大震災の6.75桁小さい、つまり約1000万分の1程度の地震だ、ということになります。

 音の強さを表す「デシベル」のケースはもう少し複雑です。まず「デシベル」の「デシ」はSIの接頭語で10分の1を表すもので、もとの単位は「ベル」なのです。(これは電話の発明者グラハム・ベルの名前からとられています。)ですから、1ベル違うと1桁ちがう。10デシベル増えると10倍になる、ということになります。扱う数値の範囲が大きいので桁数(対数)をもちいて表す、はずがその単位を10分の1にして使っているのです。このケースは単純に範囲が大きいから用いられている訳ではないようです。

 このように、異なる分野で同じ桁数(指数)による量の表現方法が用いられています。それぞれの指標が提案されたのは偶然の一致だと思われます。しかし、それらが広く受け入れられたことには必然性があるのでしょう。

江頭 靖幸

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