「安全工学」の講義 第5回安全対策のたてかた(2) どの問題が対策を求めているか? (片桐教授)
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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。
このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。
さて、先のブログで「ゼロ・リスクは達成できない」ことを示しました。では、どのような大きさの危険にまで対策すべきなのでしょうか?。放置しても許される問題の基準はどこにあるのでしょうか?。これについて、異論はありますが、「10万分の1人/年の死亡率」がひとつの基準であるとされています。
日本の産業界は、危険予知訓練、ヒヤリハット活動など地道なしかし攻撃的な安全対策をおこなうことにより、その安全性を日々向上させています。厚生労働省によると2015年の労働災害による死亡者数は1,057人です[http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000083803.html]。この人数が多いか少ないかについては、総務省統計局による就業者数が6396万人ですから、10万人あたり1.65人になり、まだ対策は必要であると判断されます。
警察庁によると、2015年度の交通事故死者数は4117人です[https://www.npa.go.jp/pressrelease/2016/01/20160106_01.html]。これは日本の人口(1.273億人)を母数とすると、10万人あたり3.23人になり、まだまだ対策は必要であることが分かります。そして、日本の職場は日常生活における交通事故よりも安全であることが分かります。
内閣府によると、2015年度の自殺者数は24025人です[http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/pdf/h27joukyou/zuhyo.pdf]。これは、これは日本の人口(1.273億人)を母数とすると、10万人あたり18.9人になり、対策の必要性を明らかにしています。
全産業での死者数の推移(中央労働災害防止協会[http://www.jisha.or.jp/info/suii.html]より)
意外なのは、家庭内での不慮の事故死です。少し古い統計結果ですが、厚生労働省の2006年の調査では、家庭内での不慮の事故死者数は12152人です[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii06/deth18.html]。これはその時の日本の人口(1.278億人)を母数とすると、10万人あたり9.5人になります。これは交通事故死者の3倍にもなります。その詳細な死因を見ると、入浴中の溺死が3632人、階段などからの転落が2260人です。そういう意味では、階段やお風呂にも革新的な安全対策が求められていることが分かります。
このようなデーターを解析すると、対策すべき安全、安全技術の革新を求めている事項が見えてきます。そこへ科学技術者はそのように関われば良いか、それが工学者のミッションです。
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