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「安全工学」の講義 第4回安全の心理から(6) 他愛行動? 短絡思考?  手段の目的化!(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 先のブログ(「安全工学」の講義 第3回安全の法律から(2) コンプライアンス)で行き過ぎたコンプライアンスは短絡思考的に法の目的化(手段の目的化)を招くおそれがあると述べました。この短絡思考による手段の目的化も安全を阻害する大きな心理バイアスです。

 2011年10月に放送されたNHKスペシャルで「巨大津波—その時ひとはどう動いたか」という番組がありました。宮城県名取市閖上地区でのひとの動きを追跡した番組でした。この番組では避難行動の阻害要因として、「恒常性バイアス」「多数派同調バイアス」と「他愛行動」であろうと結論づけていました。他人を助けようと思う心が多くの逃げ後れをうみ、命を奪ったというのは、あまりにも悲しい結論です。

 私個人はこの結論に違和感を覚えました。その後、その番組の内容をまとめた書籍、NHKスペシャル取材班「巨大津波 その時ひとはどう動いたか」岩波書店(2013)が刊行され、読み直すことで検証するチャンスがありました。

 その中のインタビューでの記述(上記P80)、を引用します。

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(一部抜粋)

 もうダメだ、とにかくおばあちゃん立って行こうということで、お話はしたんですけどね。

(途中省略)「いいんだ、私はどうなってもいいんだわ」という話だけなんですよね。

置いては行けなかったですね。(途中省略)

 ーでもそこに留まったなら○○さん(書籍中では実名)たちの命も危ないですよね。

それもありましたけど、その時はあまりそこまで考えませんでしたね。自分の命がどうのこうのというよりも「とにかく行こう」ということで、「一緒に行こう」という気持ちがありましたので。

(引用終わり)

書籍では、○○さんの行動を他愛行動と位置づけています。しかし、このインタビューでのコメントからは、この○○さんの行動の裏に、「命を助ける」という本来の目的が置いてきぼりにされ、「一緒に行く」という手段が目的化されたかのような印象を私は受けました。すなわち、命の危険を招いた心理バイアスの正体は、他愛行動ではなく、「短絡思考による手段の目的化」ではないかと思います。

 短絡思考や手段の目的化は「教育心理学」や「認知心理学」の分野でよく研究されている課題です。「安全工学」でも大事な事項であると思います。

片桐 利真

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