« 8月7日(日)にオープンキャンパスを行います(江頭教授) | トップページ | 「安全工学」の講義 第3回安全の法律から(4) 学生のうちに取っておきたい資格 (片桐教授) »

「安全工学」の講義 第3回安全の法律から(3) 労働安全衛生法の改正(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 平成26年から28年6月にかけて、労働安全衛生法が改正されました。主な改正点のうち、「化学物質のリスクアセスメントの義務化」などの化学物質関連の改正は、応用化学の者に大きな影響を与えます。

 もちろん、この改正の影響は工学部の応用化学科だけの問題ではありません。多くの遷移金属元素やセレンやアンチモン等の元素化合物、あるいはMOCVDで使う有機金属化合物や、ハンダも指定されたことで電気電子科の方々にも影響があります。また、油類、鉱油やガソリンなども指定され、研磨剤なども指定されたことで、機械工学科の方にも影響があります。

 バイオ関係の物質も多く指定されましたので、応用生物学科や医療保険学部の方々にも、油絵の具やそれに関する油という意味では、デザインの方々にも影響はあります。また,汎用の農薬も対象となり、事務部の方々への影響も懸念されます。

 化学物質の管理に関する法律はとてつもなくたくさんあります。大きく分類すると、人間の健康への悪影響(有害性)を及ぼさないように管理することを求める法律と、環境への悪影響(環境汚染性)を防ぐための管理を求める法律に分けられます。今回の労働安全衛生法の改正は、前者の有害性を意識したものですが、後者にも若干関わってきます。

Photo_3

 これまでも、我々化学者からしてみれば「なぜこんなものが?」という化学物質が「毒物」等に指定されてきました。これはその化学物質が社会へ大きな影響を及ぼしてしまったことによります。帝銀事件では「青酸カリ」が有名(notorious)になりました。もちろん毒物ですし,十分な有害性があります。しかし、同じような「青酸ナトリウム」よりもカリの方が有名になったのは、やはり事件の影響です。クロロホルムは麻酔薬にも使われていた物質ですが、サスペンスドラマで布にしみ込ませたクロロホルムを嗅がして、瞬時に意識を失われる犯罪描写(そんなことはない!)のおかげで、早くから毒物にされました。もちろん,この化合物にも強い有害性があります。エアバックに使われるアジ化ナトリウムも大学でのポット混入事件の続発後、毒物並みの管理が要求されるようになりました。しかし、これらの化合物よりも数段毒性の強い化合物がほっとかれているのを見ると、法律の「泥縄的な対応」を感じます。

 今回の労働安全衛生法の改正のきっかけとなったのは、有機塩素系溶剤による胆管ガン頻発でしょう。狭い部屋で塩素系溶媒使ってインクを落としていた印刷工の方が胆管ガンで亡くなられるケースが多発し、顕在化しました。もちろん揮発したガス吸引による暴露もですが、新聞報道を見る限り誤った保護具の使用も問題ではないかと、個人的には考えています(ブログ2016.3.23)。実際に有機塩素系溶媒を手にかけると「痛い」と感じることがあります。皮膚からの吸収も馬鹿にできないと思われます。

 我々は工学者として、法律の規制を受ける前から、ほんとうに危ない化学物質を正しく扱う努力をしなければならないのでしょう。法律に追っかけられる安全ではなく法律を先導する安全を目指したいものです。

片桐 利真

« 8月7日(日)にオープンキャンパスを行います(江頭教授) | トップページ | 「安全工学」の講義 第3回安全の法律から(4) 学生のうちに取っておきたい資格 (片桐教授) »

授業・学生生活」カテゴリの記事