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2016年9月

2016.09.30

「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(1) 危険性と有害性 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 「危険性」ということばは、飲むと毒であるとか触れると皮膚がただれるとかの意味もイメージしますが、化学の世界では、爆発したり燃えたりすることを表します。毒性などの生体への影響は「有害性」ということばで区別されます。

 危険性を表す言葉では、爆発性、可燃性、自然発火性などを挙げることができます。いずれも「火」に関わる性質を表します。

 火が燃えるためには,3要素が必要です。まず,可燃物(燃えるもの)、酸化剤(火災では空気中の酸素)、着火源です。この3つがそろわないと、原則、火は出ません。ただし、酸化反応ではない反応の暴走、例えばアセチレンの重合反応やエポキシドの重合反応によるエネルギーの放出は「爆発的」なものです。

 また,三要素を複数持つ物質もあります。例えば,多くの自己発火性,自然発火性のものは可燃物と着火源を兼ねています。火薬は可燃物と酸化剤が共存しています。これらの危険物は、最後の1つの要素(火薬の場合は着火源となるエネルギー)があれば燃えたり爆発したりします。

 逆に、消火をしたければ、3要素のうちの1つを奪えばよいわけです。

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2016.09.29

飛行機の貨物室の環境(江頭教授)

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 少し前のブログ記事で飛行機の客室の環境を例に、人間の生活出来る空間が如何に限られているか、を紹介しました。水平方向には広大な広がりをもつ地球ですが、「縦方向に11km動くだけで人の住めない世界になってしまう」、という話です。

 今回は飛行機の客室ではなくて貨物室のお話です。この記事を書くにあたって飛行機乗務員の目をかいくぐって貨物室に侵入し…なんてことはしていません。たまたま荷物に入れた水位測定用のセンサー(これも以前のブログで紹介しました。今回のデータが残っていたのは実際には気圧補正用のものです。)がオンの状態であり、偶然貨物室の中の環境が分かった、というお話です。

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2016.09.28

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(6) 食事 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 私には他人のことを批判する資格はありませんけども、フレッシャーズセミナーの面談をすると、一人暮らしで食生活が乱れている学生さんが散見されます。まず、気をつけなければいけない食に関するリスクは「栄養不足」「栄養過多」でしょう。

 「コストパフォーマンスが良いので、冷凍うどんを多用しています」。確かに安価でお腹もふくれますが、それだけでは炭水化物過多、タンパク質や脂質に乏しく、ビタミンや繊維質も不足します。そしてなにより,塩分過多になります。うどんつゆの量を減らすだけではダメです。うどん麺そのものの中に大量の食塩が含まれています。そんな食生活を送っていると、命に関わります。実際、うどん県=香川県の2013年の糖尿病による死亡率は人口10万人あたり17・4人(全国ワースト2位)だったそうです。これではいけないと、野菜などの摂取を増やす改善を呼びかけるポスターをうどん屋に掲示したところ、2014年には11・9人(同21位)と大幅に改善されたそうです。健康は食生活のちょっとしたことで大きく改善されます。食費を削ってそのお金を趣味にまわすのは、やめましょう。

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2016.09.27

飛行機の客室の環境(江頭教授)

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 「環境とは我々の生活を包み込むもので多くの人間が一つの環境を共有することになる。従って、環境を守るにはすべての人間の合意と協力が必要だ。」などという内容をサステナブル環境化学の授業で説明しているのですが、今回はもっと小さな環境のお話。飛行機の中の環境問題です。

 この秋休みを利用してオーストラリアに行ってきたのですが(仕事です)、往復はシンガポール航空を利用しました。まだ暑さの残る夏の羽田空港から乗った飛行機内は涼しくて快適そのもの、だったのですがだんだん底冷えがしてきました。少し寒いのでは…。

 寒い人はブランケットをかぶってください。暑くて困る人がいるよりましだ、ということなのでしょう。暑ければ脱げ、とも言えますがそれにも限度がありますからね。

 さて、この飛行機内の環境、飛行機外部とはどのくらい異なった環境なのでしょうか?機内の端末で表示されるところでは外気温は-50℃。「少し寒い」どころではありませんね。

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2016.09.26

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(5) タバコvs大麻 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 さて,危険と不安のミスマッチの課題で、「大麻の健康被害はタバコに比べて小さいので危険ではない」という論を提出してきた学生さんがいました。前回,タバコ(合法的)をやめた方が良い理由を述べましたので、今回はこの「大麻の安全性」について、頭ごなしに禁止するのではなく、「なぜダメなのか」を少し掘り下げてみましょう。

 危険=リスクということばによる被害は、肉体的(健康)被害だけではなく、精神的被害、社会的被害、経済的被害、環境的被害と総合的に考慮する必要があります(ブログ「安全工学」の講義 第5回安全対策のたてかた(4) 安全対策で何を守るのか)。

 WHO(世界保健機関)の1997年の報告書「物質乱用プログラム 大麻:健康上の観点と研究課題」では、タバコのニコチンと大麻のTHC(Δ-9-テトラヒドロカンナビノール)を比較して、THCの肉体への被害はニコチン程度かそれ以下と見積もっています。そして,これが大麻解禁を訴える者の大麻正当化の根拠となっています。つまり、「タバコよりも毒性(有害性)が低いのだから、解禁すべきだ」という主張につながっています。

 しかし、人間への危険は「肉体への被害」だけで評価すべきではありません。大麻の吸引による短期的な精神への影響は、「著しい人格障害、時間感覚の喪失、「ハイ」 の感覚(高揚感)、不安、緊張、混乱」などが挙げられています。また、「すべての学習と精神運動機能を大幅に損なう」ことが報告されています。そして、その青年期における常習による「発達障害」も懸念されています。これらの症状は「酒」により酩酊することにも似ています。お酒の場合と異なるのは、周囲にその状況が明確に伝わらないことです。そのため、自動車運転を使用としていても、誰も止めないでしょう。実際、自動車の運転の危険が高まるとの研究結果もあるそうです。さらに長期的な影響として回復しにくい認知機能の低下も報告されている。さらに、「依存症候群、大麻によって誘発された精神病、(明確な)統合失調症の惹起と悪化」が報告されておいます。以上をまとめると、大麻の有害性は主に精神の健康への影響です。

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2016.09.23

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(4) 大学生特有の危険:タバコ (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 結論から:タバコはやめなさい、吸わない方が良い。

 大人であることをアピールするアイテムではありますが、体に悪いし、嫌な臭いも体にしみ込むし、いいことが何もありません。女性の場合、タバコを吸うとふけ顔(スモーカーズフェイス)になるというデメリットもあります。本当の大人は子供のようでありたいと思うものです。大人ぶりたいのはまだまだ子供の証拠です。

 タバコの害を安全工学的に分析すると、まず人間でみれば肉体への健康被害でしょう。有害物質である、ニコチン、タール、そして一酸化炭素(2016.4.25ブログ)による害です。これは本人もですが、副流煙による家族や周りの人の被害も含まれます。また設備的に見れば、タバコは火災の原因になります。火災は人の命をも奪います。そして環境(自然環境ではなく社会環境)的に見れば、勤務時間中の10分〜15分の時間を奪い生産活動を阻害します。またポイ捨てによる美観の毀損も見過ごせなせん。また、肉体被害から発生するガンは、その治療のために医療費の総額を押し上げます。タバコは人体への有害性だけでなく社会への有害性もある,と言えます。

 とはいえ、タバコによりストレスが軽減することは否めませんし、武田サン(ブログ2016.6.9の本の著者)のように「タバコと肺がんの間には関係はない」と主張される方もいます。

 このようにタバコを攻撃すると、「片桐はタバコを吸ったことがないから」と言われるかもしれません。実は私は1ヶ月だけタバコを吸ったことがあります。

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2016.09.22

明日から後期の授業が始まります(江頭教授)

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 明日から後期の授業が始まります。

 えっ、今頃?と思っている高校生の皆さん、大学の授業は前期と後期の2期制なので「夏休み」が終わって授業が始まったのではなく、「秋休み」が終わって授業が始まったのだと思ってください。

 前期、後期ともに15回の講義と1回の試験、全部で16週間で一学期となります。前期と後期を合わせて32週間ですから、その間の休みは全部で20週間、春と秋に平均10週間の休みがある計算です(実際は学期中のお休みなどがありますから、そこまでまとまった休みにはなりませんが。)

 1学期が終わり、「秋休み」が始まったのが8月10日ですから、7週間弱の休みだった、ということになります。

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2016.09.21

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(3) 大学生特有の危険:酒 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 以前のブログ([2016.05.05])で、エタノールの半数致死量のお話しをしました。そこで、一升瓶(約1.8 L)やウイスキーの瓶(約750 mL)の合理的な量である話しをしました。

 片桐はその体型から「酒呑み」と誤解されます。でもそんなに呑めません。呑みません。それは一度,学生時代に「やっちまった」からです。それ以降、正体がなくなるまで呑んだことがありません。

 二十歳になってすぐの頃、友達の下宿でほぼ、2人で1升空けたことがありました。当時は、まだ酒を呑みはじめてすぐで、十分に鍛えておらず、すぐに記憶があいまいになっていました。

 翌朝は朝から雪が舞っていました。ずぶぬれの状態で布団にもぐりこんでいた私は,寒さで目を覚ましました。真っ青になって震えながら,乾いた服を着替えて,下宿の廊下を見ると、玄関までぬれ雑巾で水を巻いたような状況でした。廊下を拭き掃除しながら、大学へ行く準備をしたのですが、自転車がありません。また,おでこに擦り傷や、体のあちこちに打ち身がありました。何があったのか?。自分ではまったく憶えていなかったので、大学で一緒に呑んでいた友達に話しを聞きました。ここからは伝聞です。

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2016.09.20

大気の厚さはどのくらいか(江頭教授)

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 皆さんは「mmHg」という大気圧の単位を聞いたことがあるでしょうか?

 私が子供の頃には大気圧にはこの単位が用いられていたと思います。Hgというのは水銀のこと。mmは長さを表すミリメータです。端を閉じた円筒を水銀の液面に立てると円筒内に水銀の柱ができます。この水銀柱がある高さ、およそ760mmを超えるとそれ以上は上昇しません。この状態で大気圧と水銀の重さが釣り合っている、そう考えると水銀柱の高さが大気圧の指標となります。

 水銀の代わりに水を使うとどうなるでしょうか。約10mの高さになるといいます。水柱の断面積を1m2とすると10mの水柱内の水は10ton、104kgです。重力加速度を10ms-2とすると105Nの力が1m2の面積にかかっている、これは105Paの圧力を受けているということですから、大気圧0.1MPaとよく一致しますね。

 では、考えを変えて水の代わりに空気を使ったら何メートルになるのでしょうか?大気圧と釣り合う空気柱の高さ、よく考えるとこれは今回のタイトルにある「大気の厚さ」そのものですよね。

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2016.09.19

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(2) 餅は静かなる暗殺者? (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 今年(2016年前期)の安全工学の課題9-2「自分の生活の中で「死ぬかと思った」ことについての記述」で、存外多かったのは「餅による窒息」「アメによる窒息」などの嚥下に伴う窒息でした。

 お餅は日本人のソウルフードのひとつです。正月のお雑煮の他に、ぜんざいや大福のようなあんこと組み合わせた餅は我々の日々の生活の中に染み渡っています。一方で、毎年、正月になると、お年寄りが餅をのどにつめて窒息死しています。正月の風物詩などといってはいられません。この死亡事故が多発する状況はやはり異常なことと認識すべきでしょう。

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2016.09.16

「安全工学」の講義 第8回 日常生活の安全(1) 怖い階段の話し (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 まず、副題は誤変換ではありません。「怖い怪談」ではなく「怖い階段」です。

 塩沢兼人という声優の方をご存知でしょうか。機動戦士ガンダムの「マ・クベ」や名探偵コナンの初代「白鳥任三郎」などを演じた声優さんです。残念なことに,この方は、自宅の階段での転落事故による脳挫傷で46歳の若さで亡くなられました。

 以前のブログ(「安全工学」の講義 第5回安全対策のたてかた(2) どの問題が対策を求めているか?)でもデーターを出しましたが、産業界での死亡事故(10万人あたり1.65人)や交通事故(10万人あたり3.23人)にくらべ、家庭内での不慮の事故死(10万人あたり9.5人)は存外に多いものです。そして、家庭内での事故死者のうちの19%が階段での転落事故が原因です。階段は間違いなく家庭内での危険地帯です。

 家庭内でのより恐ろしい危険地帯は、お風呂です。家庭内での事故死者のうちの30%が風呂での溺死が原因とされています。この方も声優ですが、白川澄子さん(サザエさんの中島君の声優)も入浴中に亡くなっています。風呂もまた間違いなく家庭内での危険地帯です。階段とお風呂の2カ所での死亡事故が、家庭内での死亡事故の約半数を占めています。

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2016.09.15

応用化学科のカリキュラムの流れ(江頭教授)

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 「受動的に授業を受ける生徒の立場から、積極的に学習する学生へ。」高校から大学へ進学するとき、私たちの年代の学生はこのように言われたものでした。現在では自主的な学習への切り替わりはもっと早まっていて、高校生でも自分の将来を見据えて自分のためにカリキュラムを考えている人もいると思います。

 ただ、最適なカリキュラムをつくるためにはカリキュラムを構成する講義の内容を熟知している必要があります。自分で学習するためのカリキュラムを作るためには学習が終わっていることが必要だ、そうでないと最適なカリキュラムを作ることができない、でも、まだ学習していないからこそ自分向けのカリキュラムが必要なのですから、これは自主的な学習の大きな問題点です。

 そこで学生諸君は、大学の準備したカリキュラムの中からいろいろな講義を選択することで、自分にふさわしいカリキュラムをつくっています。オーダーメイドではありませんがレディメイドでもない、適度にカスタマイズされた自分用のカリキュラム、というわけです。

 さて、自分にふさわしい選択科目をどうやって選べば良いのでしょうか。タイトルを見て面白そうなものを選ぶ?いえいえ、すべての講義はカリキュラムの一部として多かれ少なかれ相互に関係しています。ですから、すべての講義のシラバスを読み込んで...、おっとこれでは元の木阿弥。学習するためのカリキュラムを作るためには学習が必要、という話に戻ってしまいます。

 そこで、大学4年間のカリキュラムを構成するそれぞれの講義がどのように関係しているかを明確に示すマップを用意することにしました。本学のそれぞれの学部・学科で準備されていますが、我々応用化学科のものは以下の図の様になっています。

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2016.09.14

「安全工学」の講義 第7回ヒヤリハット報告書(3) ヒヤリハット報告書に書くべき原因・書かなくてもよい原因,書いても良い対策・書いてはいけない(書かせてはいけない)対策 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 ヒヤリハット報告書を書くとき(書かせるとき)には、その事例を可能なかぎり具体的に記述的に,事実と意見をしっかりと分けて記述することが求められます。そういう意味で、ヒヤリハット報告書には「書かなくてもよい原因」はありません。関連する全ての事象は「書くべき原因」です。ヒヤリハットの作成においての記述ではむしろ見落としが懸念されます。そのような見落としを防ぐためには、危険要因分析の技法、危険要因を設備・人間・環境に分けてなぜを5回繰返すことが有効です。

 では、対策についてはどうでしょう?。

 対策には書いてはいけない対策があります。それは「しっかりやる」という道徳的な責任を問うような対策は禁忌です。

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電柱衝突直前…「脇見運転事故のもと」

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2016.09.13

工業触媒に大切なこと(江頭教授)

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 触媒による反応の制御のついて先に説明したので、今回は触媒、特に工業的に物質生産に使用される触媒にはどんな特徴が必要なのかを紹介しましょう。

 まず「触媒は化学反応の進む速度を上げるもの」ですから、反応をより速くすすめられるものが良い触媒だ、ということになります。この反応を加速する能力の程度を「活性」と言います。触媒は活性が高いほど良い、高活性な触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。

 次に、「触媒を利用して生成物を選ぶことができる」ので、目的の生成物がたくさんできるものが良い触媒です。触媒は反応速度を速くしますが、最終的な生成物の平衡には影響しない。しかし、多くの工業的に行われる反応では平衡まで反応を進めることは少なく、平衡に到達する以前の段階で反応を終了します。平衡に達する途中で生成する物質のうち、どの物質が多く生成するかは触媒に依存することになります。反応生成物のうち、目的の生成物が生じる程度を「選択性」と言います。選択性の高い触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。

 三つ目の特徴は「寿命」です。

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2016.09.12

「安全工学」の講義 第7回ヒヤリハット報告書(2) ヒヤリハット報告書の書式 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 現場の作業員に書かせる会社のヒヤリハットでは、ヒヤリハットの内容を客観的に記述することだけを求めます。その事故の要因分析はその作業員の上司や指導員の仕事であり、気がついた本人の仕事ではないと考えます。これは企業の職制によります。企業での経営者はその企業の目標やすすむべき方向性,すなわち「戦略の立案」を担当します。管理職は,その戦略を実現するための「戦術の立案」を担当します。そして、現場の作業員はその戦略に従い「戦闘の実施」を担当します。したがって、ヒヤリハットでも、現場の人間がその対策案を考えることはある意味越権行為であると見なされます。

 そのような現場の作業の対策立案を公式に吸い上げるのが「改善提案」です。そのため,改善提案は上司(管理職)により審査され評価され、その報奨は作業員にのみ与えられます。作業効率化の戦術=改善提案そのものを職務・職制とする管理職には改善提案を出しても報奨はでません。それは給料のうちと考えられています。

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2016.09.09

「安全工学」の講義 第7回ヒヤリハット報告書(1) ヒヤリハット報告書は事故再発防止の起案書であって事故報告書ではない(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 どうやら私はヒヤリハット報告書の書き方指導の専門家「らしい」です。あまり本人に自覚はありません。しかし、これまでにも、前の大学内での講演会や他大学への出張講義などを依頼されてきました。また、いろいろな雑誌のヒヤリハット特集への原稿依頼も頻繁にあります。もちろん,本学の「工学安全」の講義でもヒヤリハットの書き方を指導しています。ただし、私の指導は、ヒヤリハットを書くことではなく、ヒヤリハットを書かせる際の注意事項、ヒヤリハット指導法の講義です。

 正直、ヒヤリハットは書く側でも書かす側でも、あまり楽しいものではありません。自分の本業への時間を奪われます。自分の恥を皆にさらすことに抵抗感を覚えないわけがありません。しかし、会社や本学でも積極的にヒヤリハットを書くことを推奨します。本人がやりたく無いこと、上司もあまりやりたく無いことを組織は強く求めてきます。なぜでしょうか。それは、広い意味での「書く側」(書く人とそれを指導する上司)と「書かせる側」でのヒヤリハットの意義が異なることによります。

 多くの場合書く側は「ヒヤリハットは事故報告書の延長」と認識しています。事故に至らなかったけども危なかった事例を集めることと認識しています。しかし、書かせる側には「ヒヤリハットは事故防止のタネ」です。小さな事故の種を未然に把握し、対策することにより、事故を防止すること=攻撃的な事故対策の起案書としてヒヤリハットを位置づけます。

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1件の重大事故の後ろには300件のヒヤリハットがある。

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2016.09.08

全学教職員会「アクティブラーニングについて」が開催されました(江頭教授)

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 東京工科大学では月に一度、八王子キャンパス、蒲田キャンパスでそれぞれに「全学教職員会」と称した講習会を開いています。(この「全学教職員会」についてはこのページでも紹介しています。)今回のテーマは「アクティブラーニング」。愛媛大学、教育・学生支援機構の中井 俊樹教授を講師にお迎えしました。

 「アクティブラーニングについて講演ですから、これが単調な講義形式というわけにはいきません。この講演の聴衆の皆さんにもアクティブになってもらいます。」

 なるほど、なるほど。講演のなかで会場への質問、聴衆同士の討論など、アクティブラーニングにおける工夫が講演の中でも生かされていて、とても新鮮な講演でした。

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 講演は本学の蒲田キャンパスで行われましたが、我々の八王子キャンパスへも同時に映像が配信され、質疑応答も形でも同時開催です。

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2016.09.07

「安全工学」の講義 第6回危険要因分析(2) 魚はなぜ左向きか (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 今回は脱線します。

 魚の骨図は頭を左側に,しっぽを右側に書きます。これはなぜか?。その理由には2つの可能性があります。これは物語の進行方向に関するルールによっています。舞台では右側が上手(かみて)左側が下手(しもて)と呼ばれます。そして主人公は右側から左側にすすんでいきます。

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「2016魚の頭コレクション」(レポートから)

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2016.09.06

触媒による化学反応の制御 エチレンオキサイドの合成(江頭教授)

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 反応を制御するための工学、「反応工学」の話題として圧力による反応の制御について、こちらこちらで紹介しました。今回は触媒による反応の制御についてお話ししましょう。

 例によって「ハーバーボッシュ法」からスタートします。

 発熱反応である窒素と水素からのアンモニア合成反応はルシャトリエの法則から低温ほど有利である。しかし、あまりに低温では反応が進行しない。そこで、アンモニア合成に際して分子の数が減少することに注目し、再びルシャトリエの法則を適用すれば高圧が有利であることがわかる。圧力を上げ、さらに触媒を開発してついにアンモニアの工業的な合成が可能になった。

 さて、ハーバーボッシュ法での開発された触媒の役割は低温でも充分早い速度で平衡濃度が達成されるように反応を加速することです。ただし、触媒を加えると正反応が早くなるのと同時に逆反応の反応速度も大きくなり、平衡状態に達する時間は短くなるものの、平衡の移動は起こりません。つまり「触媒は最終的な反応の結果に影響を与えない。」ということです。

 ここで話変わってタイトルにあるエチレンオキサイドの合成について紹介します。エチレン(C2H4)と酸素(O2)を反応させるとどうなるでしょうか?エチレンの酸化、あるいは燃焼ですから、最終的にはCO2とH2Oができるはずです。ところが銀を含む触媒をつかうとエチレンと酸素からエチレンオキサイド(C2H4O)を作ることができます。エチレンオキサイドを水と反応させるとエチレングリコール(不凍液やポリマーの原料として有用な物質です)が得られるため、この反応は工業的に行われています。ここで銀の触媒というところが重要で、他の触媒ではエチレンオキサイドではなく二酸化炭素と水(それと未反応のエチレン)が生じることになります。

 さて、このエチレンの部分酸化の例と先ほどの「触媒は最終的な反応の結果に影響を与えない」という知見とは矛盾してはいないでしょうか。

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2016.09.05

「安全工学」の講義 第6回危険要因分析(1) 魚の骨図の書き方 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 危険要因分析の解析に、「魚の骨図」がよく用いられます。これはマインドマップの一種で、危険要因を具体的に書き出し、それになぜを加えてより詳しくより具体的によりたくさん記述することで、問題の本質を探る作業です。この魚の骨図は具体的に解析していくことが求められます。そこで、この課題では「具体的な危険」として、講義中に眠くなることを「単位の危険」として取り上げ,その解析を行います。◯◯先生の「××学入門」「6月22日水曜日3限」という風に、具体的に眠くなった講義を解析の対象にします。

 まず、用紙の裏面に、「設備」「人間」「環境」という3つの枠を作ります。設備として,スクリーンやマイクなどの視聴覚機器,教科書やノートなどの教材を挙げます。次に人間は「私自身」「先生」「TA」などを書き込みます。環境は「教室」「午後一番の講義」「周りの人」などでしょうか。それぞれの要因のもつ「眠くする理由」を20個ほど挙げていき長良,「なぜ?」を最低5回は繰返します。

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魚の骨図の例

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2016.09.02

「安全工学」の講義 第5回安全対策のたてかた(5) 安全対策を阻害するもの(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 安全対策を実施しようとすると、必ず邪魔が入ります。今回はそのような安全対策を阻害するもの,抵抗する人間的なものについてまとめます。

 最初に挙げるのは「強い恥の意識」です。あたりまえですが、事故を起したことは周りに知られたくない、知らせなくて済むなら知らせたくない,と思うのは当然のことです。「事故を起こすのは恥」というよりも、事故発生を他人に知られるのは恥であると感じるわけです。あるいは、「身内の恥を晒す」ことへの抵抗感を覚えるのでしょう。

 この恥の意識を支配するのは組織への帰属意識です。小さな事故も研究室内では武勇伝として語られることもあります。これは、研究室のメンバーは身内である、と考えるからです。片桐は講義で自分の失敗=恥をさらします。これは、講義を聴く学生を自分の身内と思うからです。このような身内の内外の境目は、その組織への帰属意識に支配されます。しかし,近年の人材の流動化(リストラ、転職、契約社員)はこのような帰属意識を希薄にさせます。

 

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2016.09.01

大雨の八王子キャンパス(江頭教授)

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 この夏は台風やにわか雨、大気が不安定などいろいろな言い方になりますが、とにかく大雨が多かった様に思います。

 さて、下の写真はそんな大雨の時に片柳研究所から見た研究棟Aと研究棟Bです。片柳研究所と研究棟AB、どちらも本学八王子キャンパスを象徴する特徴的な形の建物ですが、我々の応用化学科があるのは片柳研究所の方。その4階にある私の研究室からいつもははっきりと円筒を二つに割った様な研究棟ABの姿が見えているのですが、この日の雨で霞んで見えています。

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 さて、研究棟ABとそれに連なる研究棟Cや講義棟、講義実験棟は一つのかたまりになっていて、それぞれが渡り廊下でつながっています。授業と授業の間に教室を移動するときなど、雨の時でも傘なしで移動可能です。

 では、研究棟から片柳研究所に移動するときはどうでしょう。写真に見える坂道を下って片柳研究所に移動するにしても雨宿りの場所もありませんね。

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