工業触媒に大切なこと(江頭教授)
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触媒による反応の制御のついて先に説明したので、今回は触媒、特に工業的に物質生産に使用される触媒にはどんな特徴が必要なのかを紹介しましょう。
まず「触媒は化学反応の進む速度を上げるもの」ですから、反応をより速くすすめられるものが良い触媒だ、ということになります。この反応を加速する能力の程度を「活性」と言います。触媒は活性が高いほど良い、高活性な触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。
次に、「触媒を利用して生成物を選ぶことができる」ので、目的の生成物がたくさんできるものが良い触媒です。触媒は反応速度を速くしますが、最終的な生成物の平衡には影響しない。しかし、多くの工業的に行われる反応では平衡まで反応を進めることは少なく、平衡に到達する以前の段階で反応を終了します。平衡に達する途中で生成する物質のうち、どの物質が多く生成するかは触媒に依存することになります。反応生成物のうち、目的の生成物が生じる程度を「選択性」と言います。選択性の高い触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。
三つ目の特徴は「寿命」です。
触媒は定義の上では反応の前後で変化しないことになっていますが、実際には反応を続けるうちに少しずつ活性が低下してゆくのが一般的です。工業的に触媒を使用する場合、触媒は化学プラントの反応装置の中に入っていて、流れ込んだ原料が反応して出て行く様になっています。一度反応装置に入れた触媒を取り出すにはプラント全体を停止する必要があります。触媒の活性が低下(これを失活といいます)した場合、プラントを止めて触媒の交換作業を行わなければなりません。通常は1年程度の期間連続運転を行い、定期的に点検を行うためにプラントを停止して、その際に必要に応じて触媒を交換します。つまり、工業的に使われる触媒は少なくとも1年程度の寿命が必要なのです。
さて、工業触媒の特徴である「活性」「選択性」「寿命」ですが、この並び方は研究を進める順番でもあります。「活性」のある触媒を探して、「選択性」を評価し、「寿命」について確認する訳ですが、これは同時に研究のし易さの順番でもあります。特に「寿命」の研究は難しい。1年程度の寿命があることを確認するためには、原則的には1年以上の実験が必要です。研究室で1年間装置を動かし続けることは簡単ではありません。
その一方で工業的に触媒を利用することを考えると、順番は逆転します。
一番重要なのは「寿命」です。「寿命」が短い触媒は実用になりません。「選択性」が良くない場合、目的の生成物が少ししかできないので原料の利用効率が悪くなる、要するに値段が上がります。一方、「活性」が低い場合は大きな反応装置を作ってたくさん触媒を入れることで対応可能なのです。
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