「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄) (片桐教授)
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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。
このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。
前回のブログ(「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約))で述べたように、これから水銀は我々の身の周りから消えていきます(応用化学科ブログ 江頭2016.5.12, 5.13参照)。
2020年に本格的に動き出す水俣条約では
- 水銀供給の停止(鉱山の閉山)
- 水銀の輸出入の原則禁止
- 水銀を使用した指定製品の製造・輸出・輸入の禁止(2020年までに)
- 廃棄物は「環境上適正な方法で管理」すること
となっています。そして、この条約に基づき、国内では「水銀汚染防止法」(2015年)が定められ、2016.4より施行されています。
さて、では回収された水銀は、どのように「廃棄」されているのでしょうか。
有害廃棄物でも、PCBやフロンは焼却処理により分子構造を壊せば無害化できます。一方、水銀は「元素」なので、そのような無害化処理ができません。現状で、回収された金属水銀は,まだ需要があるので再生精製処理され再利用されています。しかし、2020年の水俣条約の発効により、再利用されなくなります。すでに、蛍光灯は2020年までに生産中止することが決められています。これからは、水銀というジョーカーを押し付け合う、「ババ抜き」になりそうです。
日本国内の水銀の再処理や最終処分は、公式には野村興産のイトムカ鉱山(北海道)とその周辺でのみ行われています。これは、イトムカ鉱山(鉱山としては閉山済み)はもともと水銀鉱山であるため、ここで最終処分しても環境への影響は小さいことによります。
しかし、水銀の廃棄は現状でも高コストです。金属水銀はまだそれほどではありませんが(数千円〜数万円/kg)、無機水銀塩は数グラムでも数千円〜数万円の処理費用を必要とします。さらに、有機水銀は処理を受けてもらえません。
そして、事態はいまこのときも悪化中です。2016年4月現在、工科大学出入りの産廃業者は水銀を受け付けていません。「水銀汚染防止法」に基づく処理業者として都道府県への申請中だそうです。そして、再開後の処理価格は未定です。
もし,皆さんが配属された研究室に水銀を使った器具があったら、すぐに廃棄するように先生に申し入れましょう。水銀フリーな研究室にしましょう。手遅れにならないように。そして、そのタイムリミットはもうすぐそこまで来ています。
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