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2016年10月

2016.10.31

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄) (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 前回のブログ(「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約))で述べたように、これから水銀は我々の身の周りから消えていきます(応用化学科ブログ 江頭2016.5.12, 5.13参照)。

 2020年に本格的に動き出す水俣条約では

  • 水銀供給の停止(鉱山の閉山)
  • 水銀の輸出入の原則禁止
  • 水銀を使用した指定製品の製造・輸出・輸入の禁止(2020年までに)
  • 廃棄物は「環境上適正な方法で管理」すること

となっています。そして、この条約に基づき、国内では「水銀汚染防止法」(2015年)が定められ、2016.4より施行されています。

 さて、では回収された水銀は、どのように「廃棄」されているのでしょうか。

 有害廃棄物でも、PCBやフロンは焼却処理により分子構造を壊せば無害化できます。一方、水銀は「元素」なので、そのような無害化処理ができません。現状で、回収された金属水銀は,まだ需要があるので再生精製処理され再利用されています。しかし、2020年の水俣条約の発効により、再利用されなくなります。すでに、蛍光灯は2020年までに生産中止することが決められています。これからは、水銀というジョーカーを押し付け合う、「ババ抜き」になりそうです。

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2016.10.28

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約)(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 水銀は「毒の帝王」と呼ばれています。有機水銀は神経毒として働き、4大公害病のひとつである水俣病を引き起こしました。

 化学の研究現場での悲惨な事故例としては、ダートマス大学の化学教授カレン・ヴィッターハーン (Karen Wetterhahn) 先生の例が知られています。IUPACの定めた、水銀の核磁気共鳴(ブログ2016.02.17,他)の化学シフトの標準物質は、恐ろしいことにジメチル水銀です。ヴィッターハーン先生は、その核磁気共鳴測定サンプルの調製中に、ラテックス手袋に数滴のジメチル水銀をこぼし、被曝しました。5か月以内に水銀中毒の症状を示し、治療が行われたが、数か月後に死亡しました(ブログ2016.3.23)。

 水銀は強い有害性を持ちます。しかし、常温で反応性の低い液体の金属という特異な,他に代えがたい物質でもあります。

 蛍光灯の中には水銀蒸気が含まれています。1本あたりの使用量は昭和49年には50 mgでしたが、平成21年には7 mgまで削減されました。また、水銀電池(平成7年製造中止)や乾電池(平成3年無水銀化)にも水銀(アマルガム合金)を使用していました。今でも、使えなくなった古い乾電池の中には水銀が含まれています。これが,乾電池を特別に分別する理由の一つです。

 毒物(有害物)を嫌う医療の現場にも水銀はありあります、水銀式体温計や血圧計はその代表です。その他にも歯科治療のアマルガム、インフルエンザなどのワクチンの不活性化剤(チメロサール)。今は絶滅しましたが、昔はあたりまえに使われていた傷の消毒薬の赤チン(マーキュロクローム)は有機水銀を含みます。

 科学・化学実験器具としては、水銀温度計、マノメーター(圧力計)の他に、電気化学分析のカロメル電極や水銀滴下電極を用いたポーラログラフィーには水銀そのものや水銀塩が使われています。電子部品として水銀リレー、傾斜計、水銀スイッチも一般的です。高真空を作るための水銀拡散ポンプは、今はもう使いませんが、倉庫のどこかに眠っている恐れがあります。また、大電圧向けの整流器や、灯台などの投光器の潤滑剤としても使われていました。

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2016.10.27

応用化学科BLOGは二周年を迎えました(江頭教授)

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 本学、工学部応用化学科の公式ブログは今日で一周年です。

 昨年の10月27日、

の三本の記事を掲載したのがこのブログのスタートです。

......???

 おっと失礼!これは昨年の10月27日の記事でしたね。

 そうです、このブログのスタートは一昨年の10月27日。今日で東京工科大学 工学部 応用化学科のブログは2周年目を迎えるのです。

 この二年間で掲載した記事はすでに400本以上。閲覧数の多い人気ページの順位にも変動がありました。今回はその中から人気ページに新たにランクインした記事をピックアップしてご紹介しましょう。

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2016.10.26

読売新聞の記事に関して:テフロンのフライパンはなぜ焦げ付かないか(片桐教授)

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 2016年9月29日発行の読売新聞朝刊の「くらし家族」コーナーの記事に、私のコメントがのりました。『「フッ素樹脂」のフライパンはなぜ焦げない?』という記事です。おおよそ3週間前に読売新聞の記者さんが取材にきました。1時間の取材でしたが、実際に使われたのは、3行分でした。まあこんなものでしょう。(http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20160929-OYT8T50030.html

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それでも、読売新聞さんは私の名前を正しく出してくれたので、好感が持てます。以前、取材を受けた某◯HKの「◯サカメテレビ」では、その番組中に、私が描いた絵(正確にはメールで送った原案をイラストレーターがきれいに書き直したもの)を使ったのに、私の名前はどこにも出てきませんでした。原案や引用元を明示しないのは失礼なことです。安全工学のレポートなら不合格にするところです。

 さて、テフロンのフライパンはなぜ焦げ付かないのでしょうか。これは大きく2つの効果があると思われます。

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2016.10.25

「有機化学・物理化学強化プロジェクト」(上野講師)

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 早いもので本学科が開設されてから1年半が経ちます。第1期生は、現在2年生の後期を迎えたところです。その学生たちは来年度から研究室配属・卒業研究・大学院進学・大学院受験・就職活動などこれまで学んできた化学の知識を活用する機会に次々と直面していくことになります。本学科ではそのような場面でより活躍できる人材を育てるために、応用化学科の学生にとって不可欠で基幹となる有機化学・物理化学を勉強する会「有機化学・物理化学強化プロジェクト」を立ち上げました。この企画は、大学での単位・授業の成績に直接的には影響しませんが、初回の10月19日には本応用化学科の学生23名が自主的に参加しています。

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2016.10.24

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(4) 毒を構造から類推する。(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 危険物の回(「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(3) 危険情報源)でもお話ししましたが、その化合物が有害性(毒性)を持つかどうかは、実際に試してみなければ分からないところがあります。といっても、むやみに動物実験をするわけにもいきません。そのような場合、危ない構造を持っているかどうかから類推します。

 そのような毒性の「ありそうな」化学物質を構造から類推する指針としては:

  1. 遷移金属を含むもの:重金属を含むものは基本的に毒と見なしましょう。
  2. ニクトゲン(周期表の窒素の下)やカルコゲン(周期表の酸素の下)元素を含むもの:リン,ヒ素、アンチモン、イオウ、セレンなどは有害性を持ちます。
  3. シアノ(-CN)構造を含むもの:アセトニトリルのように有害性のほとんどないものもありますが、一部の有機化合物(例えばDDQ: 2,3-dichloro-5,6-dicyano-p-benzoquinone)中のシアノ基は加水分解などにより青酸として放出されることがあります。
  4. 炭素数が奇数の有機物:生体中では炭素を2つずつ取り外して分解するために、炭素数の奇数の有機物は最後に一酸化炭素になってしまうため、毒性を発揮します。メタノールはエタノールに比べて強い有害性を持ちます。
  5. カルボン酸:カルボン酸は生体に親和性があり、特に膜に取り込まれて有害性を発現します。
  6. 芳香族、特に塩素を含むもの:芳香族はDNAの間にはさまり、その転写を阻害したりします。遺伝毒になります。生体は芳香族の化合物を肝臓で酸化分解します。このとき酸化されにくい塩素の結合している芳香族化合物は長い時間体内にとどまるため、長期にわたり悪い効果を持続します。
  7. 生理活性物質に類似のもの:生理活性を持つということは毒にも薬にもなるということです。医薬や農薬だけでなく、人間の体を形成している化学物質やそれに似た構造のものは、だいたい、毒になります。

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炭素が9個のフェニルアラニン

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2016.10.21

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(3) 毒をむやみに恐れない。生物毒と人工毒 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 安全の心理の回に、スロビックの11因子の話しをしました(「安全工学」の講義 第4回安全の心理から(2) 安全と安心は違う)。その因子のひとつである「人工物」は天然物よりも1000倍程度も危険に感じるそうです。

 下の表は、天然毒と人工毒のLD50値を対比させたものです。

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2016.10.20

今週末(10月22日、23日)に学園祭(紅華祭)が開催されます(江頭教授)

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 「読書の秋」「スポーツの秋」など、いろいろな表現がありますが、日本人にとって秋はやっぱり収穫の季節なのでしょう。秋には収穫を祝うお祭りが行われていた、その伝統を引き継いでいろいろな大学の学園祭も秋に行われるものが多いのではないでしょうか

 本学の学園祭、「紅華祭」(コウカサイと読みます。工科大学にかけたネーミングですね。)の開催も秋に。今年は今週末の22日、23日に行われます。

 昨年までは何となく眺めていた紅華祭ですが、今年は、応用化学科の有志による発表が予定されています。片柳研究棟7階、応用化学科の学生実験室を利用して実験ありの展示を行う計画です。オープンキャンパスとはまた違った形で大学とその施設を見るチャンスです。是非、ご来場ください。

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2016.10.19

テレビ朝日 報道ステーションでのタンカー事故に対するコメントに関して:水酸化ナトリウムは水に触れるとどんな危険があるか?(片桐教授)

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 2016年9月30日夕方、テレビ朝日の報道ステーションの記者さんから電話取材の依頼がありました。その日に山口県の瀬戸内海で起こった水酸化ナトリウムと重油を積んだタンカーの浸水事故について、どのような危険性があるかについてコメントが欲しい、というものでした。

 慌てて、ネットで事故の概要についての情報を収集しました。大事(おおごと)にはなっていないようです。少しほっとしました。

 積み荷の水酸化ナトリウムが固形状のものであることを教えてもらった上で、私のコメントは「水酸化ナトリウムはチョウカイ性のある物質だから、密閉した容器に格納されていると思います。水に触れなければ事故は拡大しないと思います。でも、沈んだタンクに水圧などで水が入り込むと…ちょうど希硫酸を作る時に硫酸に水を入れると急激に発熱して水が飛び散るように、ひどく発熱してタンクを破裂させてしまう恐れもあります。飛び散った水酸化ナトリウムが皮膚につくと薬火傷の恐れがあります。目に入ると失明することもあります。事故がこれ以上拡大しないこと、トラブルシュートする方々にお怪我がないことを本当に祈ります。安全を大事にしていただくことを希望します。」という電話取材のコメントから、「水がタンクに入り込むとひどく発熱してタンクを破裂させてしまう恐れもあります。皮膚につくと薬火傷の恐れがあります。事故がこれ以上拡大しないこと、トラブルシュートする方々にお怪我がないことを本当に希望します。」と編集されて15秒ほど放送されました。

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2016.10.18

第6回おおた研究・開発フェアに出展しました(西尾教授)

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 10月6日-7日の2日間にわたって蒲田で開催された第6回おおた研究・開発フェア http://www.pio-ota.jp/ota-r-and-d-fair/6/ に出展し,「金の陽極酸化-グリーンプロセスによるナノスケールの金多孔質皮膜と金コロイドの作製-」と題した研究紹介を行いました.

 一昨年は高分子・光機能材料学研究室(山下研究室),昨年は触媒化学研究室(原教授)が出展しており,応用化学科では3年連続の出展となりました.

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2016.10.17

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(2) 毒の魔力・魅力(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。
このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。
 私が毒に興味を持っていたのは、学生時代に化学の啓蒙雑誌「現代化学」(東京化学同人)に掲載されていたA. T. Tu先生の連載を愛読していたことや、自分でホスゲンや青酸ガスの暴露(死ななかった…)を経験し、その怖さを知っていたことによります。
 毒には「近寄りたくない、触りたくない、お近づきになりたくない」というネガティブなイメージがあります。そしてそれと裏腹に、言い得ぬ魅力,呪術的な魔力すら感じます。これは怪奇小説やホラー映画にも通じるものではないかと思います。
 本屋に行くと、毒物についての興味本位の本が多数販売されています。化学や科学技術の専門書の棚に並んでいる本は、おおむねまじめな本です。一方、一般書の棚には「怪しげ」な本が並んでいます。まじめな本と怪しい本の違うところは、前者はその有害性を定量的に扱っているのに対して、後者は定性的に怖さをあおっていることでしょう。前者は科学的・化学的・工学的であるのに対し、後者は感情に訴えかけるような記述です。
 毒(有害物)を理解する場合は、定量的に考えなければ行けません。薬も過剰量ならば毒になります。水も摂取しすぎれば命に関わります。逆に、セレンは「毒の枢機卿」とまで言われる強い毒性を持つ元素ですが、不足すると不妊症の原因になると言われています。その毒と薬(栄養素)を分けるのはその摂取量です。
 半数致死量=LD50ということばがあります。これは体重Kgあたりこの量を摂取すると50%の確率で命を失うという値です。エタノールの半数致死量は7.2g/Kgですから、体重60Kgの人は430gのエタノールを経口摂取すると,命に関わる、ということです。これは以前のブログ(2016.5.5)でも記述しました。

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2016.10.14

「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(1) サリン(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 私が化学科の大学院生の頃、大学のサークル掲示板に「未来が分かる方程式を教えます」という講演会のポスターが貼ってありました。「これは怪しい、これは近寄ってはいけない」と本能的に感じました。その講演会の主催者は,後にあの大事件を引き起こしたカルト集団、オ◯ム神仙の会でした。もしあの時に講演会を聞きに行っていたら、私は死刑囚になっていたかもしれません。そういえば、サリン合成をしていたT死刑囚の専門は当時の私と同じく物理有機化学でした。

 今から22年前、まだ私が会社員だった頃に松本サリン事件が起こりました。私が出張で松本市を訪れた、わずか2週間後のことでした。松本市のある地区にサリンがばらまかれ、7人の方が亡くなり、数百人にものぼる方が被害にあいました。事件当初は、宗教団体によるテロとは認識されず、事件というよりも偶然発生した事故ではないかとマスコミの報道は推測していました。私は、柳の木が枯れていたことから偶然ではなく誰かが意図的に「サリン」のようなものをまいたのではないかと心のそこでは思っていました。しかし、そのようなことを行える残忍な者の存在を信じられませんでした。

 そして、3月になり、あの地下鉄サリン事件が起こりました。転職直前の私はいつも通り、会社の研究所に入り、仕事の引き継ぎのための報告書や書類作成を行っていました。午前中の勤務時間に入ってしばらくして、上司に呼ばれました。「片桐は毒物に詳しかったよな、本社から電話があったんだが…。」

 電話は地下鉄サリン事件の発生と、本社の社員が巻き込まれたことについてでした。「シアン化メチルはどんな毒物なのか?」という問い合わせに一瞬戸惑いましたが、「アセトニトリルは普通の有機溶媒ですよ。まぶしがる?瞳孔が開いているということですか?。それはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤だよ、きっとサリンだよ。」….。おおあたりでした。当時、私は今以上にぼさぼさのひげを貯めており、その4月には岡山へ移ることが決まっており、もちろん会社には辞表も出していました。そのため、「片桐は岡山へ高飛びするらしい」とか、「片桐は教祖の影武者らしい」とか、「そういえば松本サリンの時には下見に行ったらしい」とか、いろいろな風評被害を受けました。

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当時の片桐(30代)の写真

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2016.10.13

熱は温度の高いところから低いところに流れるものですが。(江頭教授)

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 今回はクイズです!

 10℃の水と90℃のお湯が、200mLづつ(コップ一杯くらいですね)あります。断熱材に囲まれたコップに入っていて、そのままでは暖まったり冷えたしない、としましょう。そうそう、水とお湯では見たでは区別がつかないので水には青いインクを、お湯には赤いインクを入れて色をつけておきましょう。(インクの量は充分少ないとします。)

 断熱材の一部を外して二つのコップを接触させると熱が伝わり始めます。充分時間が経つと、両者は同じ温度、10℃と90℃の平均である50℃になります。

 以上、図で示すと下の様になります。

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 さて、ここで問題です。

 水とお湯のコップが1個づつだと両方とも50℃になって終わりでつまらないですね。水(青の液)もお湯(赤の液)も2個づつ用意して、全部で4個のコップを準備しました。

 熱の交換を行って、青の液を60℃(二つともです)、赤の液を40℃(これも二つとも)にすることは出来るでしょうか?最初は冷たかった青の液の方が、最初はお湯だった赤の液より温度が高くなる、そんなことが可能か、というのが問題です。

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 熱は温度が高い方から低い方に流れる。温度を逆転させることは不可能な気がしますが、本当にそうでしょうか。

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2016.10.12

「安全工学」の講義 番外編 3.11被災地の今 閖上地区(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

今回は、8月14日に福島、宮城の被災地跡を見学に行った時の、片桐の個人的な意見と感想を述べます。

 宮城県名取市の閖上地区は、NHKのヘリからの津波溯上の映像で,強い記憶を我々に残しました。住民が多く亡くなりました。その時の人々の行動はNHKスペシャルで取り上げられ、また本にもまとめられています(ブログ「安全工学」の講義 第4回安全の心理から(6) 他愛行動? 短絡思考? 手段の目的化!。

 名取市のWeb pageでは、この閖上地区には震災前に5600人の人が住んでおり、名取市1146人の死者・行方不明者の大多数がこの閖上地区であったこととしています。その被災地は今、どのようになっているのかを学びに行ってきました。

 訪れたのは、「閖上の記憶」というプレハブの資料館でした(http://tsunami-memorial.org)。その周辺には慰霊碑や新しい神社の祠やお地蔵様が設置されていました。

 その資料館では、ちょうど学童を中心とした精神的なケアのビデオが上映されていました。なるほど、物理的な復旧・復興も大事ですが,心のケアの重要性も理解できました。そのビデオでは、あの繰り返し見たNHKのヘリからの映像ではなく、中学校の校舎から撮影した津波の映像も写されていました。このようなものを自分の目で体験しさらにその津波で友人を失ったら,心にも大きな傷を負うことでしょう(ブログ「安全工学」の講義 第5回安全対策のたてかた(4) 安全対策で何を守るのか 参照)。そして、それを真正面から受け止めて、いやして行くことの困難さは想像すらできません。

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2016.10.11

「百万長者」ってそんなにお金持ちかな?(江頭教授)

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 最近はあまり聞きませんが、私が子供のころには「百万長者」という言い方がありました。「百万円もお金を持っているなんて凄い!」と子供のころには素直に思っていたのですが、よく考えると「百万円程度で長者(お金持ち)かな」との疑念が。

 日本人の平均給与が414万円だ、と言いますから少し頑張ればだれでも百万長者に成れてしまいます。これでは少しありがたみが足りないですね。

 実のところ、この「百万長者」という言葉、英語のミリオネア(millionaire)から来ているのでしょう。有名なクイズ番組の『クイズ$ミリオネア』や、それをモチーフにした映画『スラムドッグ$ミリオネア』などで、日本でも耳慣れた言葉になっています。このmillionaireが「million」=百万という単語からできているので、「百万長者」は本来は「百万ドル長者」なのでしょう。円基準なら「約一億円長者」略して「億万長者」。「百万長者」という言葉が使われたのは1ドル360円時代なので「三億六千万長者」とすべきな気もしますが。

 「一億円」となればそれなりの金額です。ただ、大卒サラリーマンの生涯賃金が2億1千万~2億6千万円(出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2015』)であることを考えると「一生遊んで暮らせる」金額とは言えないようです。やっぱり「三億六千万長者」ぐらいが本当の長者なのでしょう。

 さて、この「millionが百万だ」という件、SIで使用する接頭辞のM(メガ)と同じで欧米の言語と日本語とでの数字の数え方の違いの一例です。

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2016.10.10

「安全工学」の講義 番外編 3.11被災地の今 国道6号線(片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

今回は、8月14日に福島、宮城の被災地跡を見学に行った時の、片桐の個人的な意見と感想を述べます。

 2016年8月の今も、福島県浜通の一部は「帰宅困難地域」として封鎖されています。しかし、経済的な理由から、この地域を通過する国道6号線、および常磐自動車道は通行できます。しかし、通行できるのは四輪車のみでバイクや自転車、歩行者は通行を禁止されており、自動車も窓を閉めエアコンを室内循環にして外気を取り込まないことが求められています。この国道6号線を、道の駅「よつくら港」から「南相馬」まで走ってきました。

 「SOEKS」という簡易型のガイガーカウンターを持参しました。私はこの装置を2011年から愛用しています。この装置はβ線もα線もγ線も峻別できない、おもちゃのようなもので、有効数字も1桁あるかないかでそれでもす。それでも、十分に目安になるものです。前に居住していた岡山は県北に人形峠(ウラン鉱で有名)な土地があり、ラドン温泉等もあるので、市内でも0.2μSv/h程度の自然放射線が観測されます。また、2011年秋の羽田空港では0.1μSv/hでした。その時のつくば市内で普通のところは0.1μSv/h程度、植え込みで0.2μSv/hでした。ところが2013年に国際線の飛行機の中で測定すると、3.2μSv/hもでます。脱線ですが大気は放射線から我々を守ってくれていることが分かります。

 今回、測定を開始した「よつくら港」では0.1μSv/hでした。その後、楢葉町をすぎまで、窓を少し開けて、エアコンも外気を取り入れていましたが、そこでの数値は0.2μSv/hでした。帰宅困難区域に入る富岡町のあたりから、国道6号線の測道や家々の門はバリケードで封鎖され、車はこの国道以外を一切通行できなくなります。

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2016.10.07

「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(4) 引火 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 ダイハード2のラストシーンで、犯人達が逃走するジャンボジェット機が離陸する時に、その燃料タンクから漏れている燃料に主人公が火をつけて、引火した火がジャンボを燃やし尽くすというシーンがあります。私は以前から「本とかしら?」と思っていました。

 この疑問に答える演示実験を大阪大学の山本教授のグループが示してくれました。長さ数メートルの透明なアクリルのパイプの中にジエチルエーテルをたらして充満させ、それに下端から着火し、その「火が走る」速度を測定されたそうです。こん実験による火の走る速度はおおよそ10 m/secだそうです。これは100m走の世界記録レベルで、時速36km/hです。一方、ジャンボジェットの離陸速度は250~300 km/hです。したがって、ダイハード2のようにマクレーンはライターでジャンボジェットを落とすことはできないと推測されます。

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飛行機は落ちません「ざんね〜ん!」

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2016.10.06

私の土地、私の空気はどれだけあるのか?(江頭教授)

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 地球の半径は6,378km、という話を先のブログ記事に書きました。

 今回は、この数値と世界人口70億人、という数字から、地球人一人あたりに土地(というか、地球表面)面積を求めてみましょう。

 球の表面積は4πr2ですから、地球の表面積は5.11×108km2です。この数字だけだと「大きいですな~」で終わり。全く実感が湧かないので地球の人口で割り算してみましょう。約70億人、つまり70×108人ですから一人あたり0.073km2、あるいは7万3千平方メートルとなります。やっぱり地球は大きい。これは270m×270mに一人ということです。こんなに人がまばらだと、ちょっと寂しくなってしまいそうです。

 もっとも、これは地球の全体の表面積ですから、海も含んでいます。陸地だけに限ると7万3千平方メートルの約3割になりますから2万2千平方メートル、約150m×150mに一人です。

 誰にも150m×150mの家に住む権利がある!というと雄大な気分になりますが、ちょっと待ってください。この150m×150mの土地は住むところだけに使えるわけではありません。食べ物も着るものもすべてこの面積でまかなう必要がある、そう考えると少々手狭にも思えてきます。

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2016.10.05

「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(3) 危険情報源 (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 物質の危険に関して、安全データシート、SDS (Safety Data Sheet) あるいはMSDS (Material Safety Data Sheet) は信頼性の高い情報源です。これはネット上で「MSDS 化学物質名」で検索すれば入手することができます。特に危険な(危険性のあるand/or有害性のある)物質のMSDSはその製造元からも販売元からも配布されるので、検索すると複数件ヒットします。できれば自分の購入した購入元のデータシートを入手しましょう。それができなかった場合には、名前の通った販売会社のものを入手し、その代用としましょう。

 安全データシートは、いささか誇張されて書かれています。その物質を良く知っている者には,危険性や有害性をオーバーなくらいに記述しています。これは、製造者として,あらゆる可能性を挙げておくことで、免責されることを狙っているのでしょう。数十グラムの試薬を扱う時に数トンのバルクと同じ注意を払うのは、滑稽ですね。

 試薬会社独自の危険性や有害性の表示もまあ信頼できます。その代表的なものとしてAldrich社のカタログの記載を挙げることができます。しかし、この記載は「その物質」のみの記載だけのこともあります。今は改善されていますが、25年ほど前に、「トリホスゲン」という物質の危険情報は「Moisture-sensitive(水との反応性)」とだけ記載されていたそうです。しかし、その水との反応により発生する「ホスゲン」は第一次世界大戦で毒ガスにも使われた、強い毒性ガスです。その後、危険表示に「Highly Toxic(強毒性)」も追加されたそうです。そのような見落としや記載不足の可能性は否めません。

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2016.10.04

地球の周の長さは4万キロメートル (江頭教授)

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 以前、このブログ記事で「飛行機でたった11km地球からはなれただけで人間が生きてゆくことが出来ないほどの環境変化が起こる」と書きました。垂直方向に11km以下、ということと対比して、今回は水平方向の話をしましょう。

 まず、地球の大きさについて。地球の赤道半径は6,378kmとされています。「赤道」とついているのは地球が完全な球ではなく、赤道の周の部分が膨らんだ回転楕円体に近い形をしているからだそうです。

 さて、地表で生活する我々の感覚からすると縦方向より横方向の広がりが気になります。地球の半径から周囲長を計算してみましょう。2×3.14×6,378=40074 km、結局表題通り約4万キロメートルということになります。水平方向で最も遠いところは2万キロメートル先、ということになります。

 もう少し感覚的に分かるものとして、地図上に円を描いてみましょう。例えば東京工科大学の八王子キャンパスを中心にして、100kmの円では関東平野がほとんど入る形になります。1000kmでは日本列島の大部分が入ります。

 いずれにしても、人間の生活圏の広がりは垂直方向には11キロメートル(本当はそれ以下)なのに、水平方向にはずっと広大であることが分かります。

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 さて、話は変わりますが、地球の周囲の長さ4万キロメートル、という数字、なんかキリの良い数字ですよね。実はこれ、理由があります。

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2016.10.03

「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(2) 危険性を恐れるな (片桐教授)

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2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な意見を述べていきます。

 私の師匠の丸山教授は豪快な先生でした。研究室のお茶会などで自分の失敗談をよくお話しになっていました。その中で,印象に残っていたのは、先生の学生時代のオートクレーブを使っての加圧密閉化での酸化反応の開発研究の話しでした。これは、圧力釜爆弾のようなもので、私なら学生さんの研究テーマにできないものですが、昔の大学ではこのような実験がよく行われていました。

 実験棟の廊下の端に、そのオートクレーブを設置して、それを土嚢で覆い、加熱することを何十回も繰返したそうです。その何十回目かの反応で、オートクレーブがキーンと言う音を発し、「これはまずい」と先生が土嚢の影に伏せたところで、オートクレーブが轟音を立て爆発したそうです。圧力計が柱に刺さり、周囲のガラス窓がみな飛散したそうです。

 「そのときボクは、しめた,と思ったよ。爆発したということは,酸化反応が進行したことだからね」,うれしくなって、後片付けは後回しにして、祝杯をあげにいったそうです。その直後、教員の先生が何事かと見に来たら,爆発の跡があり、圧力計も柱に深々と刺さっているし、実験をやっているはずの学生がいない!、と近所の病院に学生丸山を探しまわったそうです。「いやあ、あそこでうれしくなって呑みに行ったのは、失敗だったなあ。あとで目から火が出るほど怒られたよ、ワハハ。」

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