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読売新聞の記事に関して:テフロンのフライパンはなぜ焦げ付かないか(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 2016年9月29日発行の読売新聞朝刊の「くらし家族」コーナーの記事に、私のコメントがのりました。『「フッ素樹脂」のフライパンはなぜ焦げない?』という記事です。おおよそ3週間前に読売新聞の記者さんが取材にきました。1時間の取材でしたが、実際に使われたのは、3行分でした。まあこんなものでしょう。(http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20160929-OYT8T50030.html

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それでも、読売新聞さんは私の名前を正しく出してくれたので、好感が持てます。以前、取材を受けた某◯HKの「◯サカメテレビ」では、その番組中に、私が描いた絵(正確にはメールで送った原案をイラストレーターがきれいに書き直したもの)を使ったのに、私の名前はどこにも出てきませんでした。原案や引用元を明示しないのは失礼なことです。安全工学のレポートなら不合格にするところです。

 さて、テフロンのフライパンはなぜ焦げ付かないのでしょうか。これは大きく2つの効果があると思われます。

 1つ目はテフロンという有機フッ素化合物の電子分極が小さく、van der Waals力が極めて小さいことによります。フッ素化合物は高い電気陰性度を持ちます。これは、フッ素という原子がその周囲の電子を強く引きつけることを意味します。強く引きつけられた電子は揺らぎにくくなります。一方、van der Waals力の根源はこの電子の揺らぎです。原子核の陽電荷と電子の陰電荷で生じる一時的な双極子(電気分極)は、電子が揺らぐほど大きくなります。だから、電子が揺らぎにくい物質ではこの一時的な双極子が生じにくくなり、van der Waals力も小さくなります。だから、フッ素を含む有機物はvan der Waals力が小さくなり、テフロン加工のフライパンにはおこげがくっつきにくくなるわけです。

 そのため、テフロンをフライパン表面に固定するのは大変難しいことになります。いろいろな工夫でかろうじて固定しています。だからテフロン加工のフライパンを金属のフライ返しでこすると、簡単にはげます。ご注意ください。

 2つ目の効果は、まだよくわかっていません。これはテフロンの作る凸凹に由来するのではないかと、私は考えています。フッ素樹脂により撥水加工を施した表面の後退接触角とその高分子の結晶性との間になんらかの関係があるとされています。これは、含フッ素高分子の結晶が形成すると凸凹ができて、表面張力の大きな水はその表面と点接触になりなじみにくくなる、と説明できますが、どうもしっくりきません。まだ何かわかっていないことがあると、私は思っています。

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 某◯HKの◯サカメテレビ取材は、「フッ素加工のへたった傘をドライヤーで炙ると撥水性が再生するのはなぜか、という質問でした。私は仮説として、摩擦によりほどけた高分子がドライヤーで炙られることにより「再結晶化」して、凸凹が再生するからではないか、というものを示しました。

片桐 利真

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