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「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(4) 毒を構造から類推する。(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。

このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。

 危険物の回(「安全工学」の講義 第9回 化学の安全 危険性(3) 危険情報源)でもお話ししましたが、その化合物が有害性(毒性)を持つかどうかは、実際に試してみなければ分からないところがあります。といっても、むやみに動物実験をするわけにもいきません。そのような場合、危ない構造を持っているかどうかから類推します。

 そのような毒性の「ありそうな」化学物質を構造から類推する指針としては:

  1. 遷移金属を含むもの:重金属を含むものは基本的に毒と見なしましょう。
  2. ニクトゲン(周期表の窒素の下)やカルコゲン(周期表の酸素の下)元素を含むもの:リン,ヒ素、アンチモン、イオウ、セレンなどは有害性を持ちます。
  3. シアノ(-CN)構造を含むもの:アセトニトリルのように有害性のほとんどないものもありますが、一部の有機化合物(例えばDDQ: 2,3-dichloro-5,6-dicyano-p-benzoquinone)中のシアノ基は加水分解などにより青酸として放出されることがあります。
  4. 炭素数が奇数の有機物:生体中では炭素を2つずつ取り外して分解するために、炭素数の奇数の有機物は最後に一酸化炭素になってしまうため、毒性を発揮します。メタノールはエタノールに比べて強い有害性を持ちます。
  5. カルボン酸:カルボン酸は生体に親和性があり、特に膜に取り込まれて有害性を発現します。
  6. 芳香族、特に塩素を含むもの:芳香族はDNAの間にはさまり、その転写を阻害したりします。遺伝毒になります。生体は芳香族の化合物を肝臓で酸化分解します。このとき酸化されにくい塩素の結合している芳香族化合物は長い時間体内にとどまるため、長期にわたり悪い効果を持続します。
  7. 生理活性物質に類似のもの:生理活性を持つということは毒にも薬にもなるということです。医薬や農薬だけでなく、人間の体を形成している化学物質やそれに似た構造のものは、だいたい、毒になります。

Fig_4

炭素が9個のフェニルアラニン

 ところが、上記項目の4の炭素数の奇数の有機物は毒性を出す、ということですが、アラニンをはじめとする多くのアミノ酸は炭素数が奇数です。これは大変不思議なことです。たしかに、アミノ酸にはそれぞれ分解酵素があり、それらが欠損すると障害が出ることがあります。このような危険なものをわざわざ使うという生物の戦略は理解しがたいものです。人間が設計するのなら、もっと安全な物質を採用するでしょうね。

 プロスタグランディンという情報伝達物質では、その水酸基のついている場所が少し違うだけで、まったく逆の情報を伝達します。人間なら逆の情報を伝達するためにはまったく異なる構造のものを選定し使うでしょう。生物を創った自然の戦略は、人知の及ぶものではないようです。

片桐 利真

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