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「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(2) 毒の魔力・魅力(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

2年生の選択必修の講義「安全工学」の担当の片桐です。
このブログのシリーズでは、安全工学という講義の中でお話しした内容について、片桐の個人的な経験と意見を述べていきます。
 私が毒に興味を持っていたのは、学生時代に化学の啓蒙雑誌「現代化学」(東京化学同人)に掲載されていたA. T. Tu先生の連載を愛読していたことや、自分でホスゲンや青酸ガスの暴露(死ななかった…)を経験し、その怖さを知っていたことによります。
 毒には「近寄りたくない、触りたくない、お近づきになりたくない」というネガティブなイメージがあります。そしてそれと裏腹に、言い得ぬ魅力,呪術的な魔力すら感じます。これは怪奇小説やホラー映画にも通じるものではないかと思います。
 本屋に行くと、毒物についての興味本位の本が多数販売されています。化学や科学技術の専門書の棚に並んでいる本は、おおむねまじめな本です。一方、一般書の棚には「怪しげ」な本が並んでいます。まじめな本と怪しい本の違うところは、前者はその有害性を定量的に扱っているのに対して、後者は定性的に怖さをあおっていることでしょう。前者は科学的・化学的・工学的であるのに対し、後者は感情に訴えかけるような記述です。
 毒(有害物)を理解する場合は、定量的に考えなければ行けません。薬も過剰量ならば毒になります。水も摂取しすぎれば命に関わります。逆に、セレンは「毒の枢機卿」とまで言われる強い毒性を持つ元素ですが、不足すると不妊症の原因になると言われています。その毒と薬(栄養素)を分けるのはその摂取量です。
 半数致死量=LD50ということばがあります。これは体重Kgあたりこの量を摂取すると50%の確率で命を失うという値です。エタノールの半数致死量は7.2g/Kgですから、体重60Kgの人は430gのエタノールを経口摂取すると,命に関わる、ということです。これは以前のブログ(2016.5.5)でも記述しました。

Fig_2

 毒というと「青酸カリ」が有名です。なぜ青酸カリかと言えば、戦後の混乱期に起きた「帝銀事件」で用いられたのがこの化合物だからでしょう。「青酸ナトリウム」ではなくそれよりもどちらかと言えばマイナーな青酸カリが推理小説の世界でスタンダードになっているのは、この事件のためではないかと思います。同様に,クロロホルムも布にしみ込ませたもので犯人が後ろから口を塞ぐと、やられた人がすぐに崩れ落ち気を失ってしまうというシーンを火曜サスペンスなどで見ますが、「あれはない」「失笑もの」のひとつです。これらはイメージが先行した有害物です。

 A. T. Tu 先生の「事件からみた毒」という本の帯には「毒に魅せられて」というおどろおどろしいあおり文句がかかれています。この本の帯を考えた人の感性はすごいと個人的には思います。

片桐 利真

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