温度制御のこと(江頭教授)
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触媒の熱処理をしようとした時の話です。どこのメーカーとは言いませんが温度調節器にヒーターをつないで加熱を始めたのですが………。
「あれっ?温度が一定にならないな。PIDが外れちゃってるな。」
「これはいけない、AT、ATっと。えーと、マニュアルはこれか。」
「あれATのやり方が書いていない。不親切だなー」
「まさか自分でPIDを設定しろってか?まじか!えーとPを適当に決めてIを大きくとってそれからDには手を出すな、だったかな」
「うぅ、マニュアルのどこにもPIDの設定の仕方が書いてないぞ。」
「もしかして…、いや、まさか…、これって…、こっ、これがON/OFF制御しかできない温調だったのか!なっ、なんだってー!!」
さすがにオーバーですが今時ON/OFF制御オンリーの温調に出会うとは思いませんでしたので少しびっくり。ということで本日のお題は温度制御について。温度調節、というかプロセス制御について少し紹介しましょう。
まずはON/OFF制御について。温度を調節したい対象物に温度計をつけておく。制御装置がその温度を観察して、目的の値に達しないうちはヒーターに通電して加熱をつづけ、対象物の温度が目標値を超えたらスイッチをオフにする。これがON/OFF制御です。昔のバイメタルによる温度制御と同じことを電子的に行う、という理解でも良いでしょう。
極めてシンプル。ヒーターが暴走して温度が上がりすぎる危険を防ぐ、という目的ならばこれで充分です。でも、ヒーターへの通電に対して温度の上がり方が遅れるようだと温度は一定値にならず振動してしまう、とうい欠点があります。
対象物の温度が目的温度に達するとスイッチオフ、でも遅れがあるので温度は上がり続けてしまいます。しばらくしてスイッチオフの効果がでてくると温度は下がりはじめ、やがて目標値を切ります。ここでスイッチオン。でもスイッチオンの効果にも遅れがあるので、温度が上がるにもタイムラグが。結局温度は目標値の上下を行ったり来たりして安定はしないのです。
そもそも安定化なんてできるのか。
できます。温度が目標値に近づいたらそれに合わせてON/OFFのタイミングを調節すればよいのです。目標値にしたから近づくときには少しずつOFFの時間をいれる。上からなら逆に目標値を越えていてもONの時間をいれてソフトランディングさせるのです。このタイミングを制御器に自動的に計算させるためのパラメータがP、I、Dと略されるものです。
このPIDパラメーターをうまく調節すると目標値にきっちりと合わせてくれます。(厳密には少しずれているはずですが表示される温度の最小桁、たいていは0.1℃、には変動を押さえ込んでくれます。)ではPIDにどんな数字を入れるのか、これも最近では自動で(Autoで)調整(Tuning)してくれます。この自動調節を実行するのがAT操作です。
温度調節器のマニュアルにはPIDの値の初期値や設定のやりかた、自動調節するためのATの実行方法などが丁寧に書いてあるものです。今回行き当たった調節器もてっきりPID制御ができるものだと思ったのですが、これは例外でしたね。
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