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ビール瓶と試薬瓶(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 未成年の皆さんには関係のない話ですが、「ビールを注ぐとき、ラベルを上にするべきか」という話がネットで少し話題になっているようです。これは自分で注ぐときではなく、他の人(主に目上の人に、でしょう)に注ぐ、つまりお酌をするときを想定しているようです。お酌という儀礼的な行為のあり方について、ということですね。

 私はお酌については疎いのですが、化学関係の人間としては「ラベルを上に」という動作は覚えがある、というか身についています。化学薬品、液体の試薬を注ぐときは「ラベルを上にする」、というのは高校の実験でも教えられているかもしれませんね。

 さて、試薬を注ぐときはラベルを上に、というのは化学実験の場合には常識なのですが、その理由は「液だれによって試薬瓶のラベルが汚れるのを防ぐ」ということです。瓶を傾けて内部の液体を取り出したその後に、瓶の口に付着した液体が瓶の外側に流れてゆく、これが「液だれ」です。ラベルのある方向を下にして試薬を注ぐと液だれした試薬でラベルを汚してしまいます。試薬の性質によってはラベルが汚れる以上に溶けたり分解したりすることも起こるので問題になる、ということです。

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 さて、「ラベルを上に」すればラベルを汚す可能性は少なくなりますが、そもそも液だれが起こる、ということ自体が望ましいことではありません。本来なら液だれの起こらない容器の形を工夫するべきなのですが、これは意外と大変な様です。良い急須ならお茶が液だれすることはありませんが、食堂に置かれている醤油差しなどは良く液だれしています。ちゃんと調査したわけではありませんが、ラーメン屋のラー油はほぼ確実に液だれしている気がするのですが…。ラー油はネバネバしているのでお茶の様には行かないのでしょう。

 さて、試薬の話に戻るとラー油以上にネバネバしたものや水以上にさらさらなものなど、いろいろな種類があります。(この辺の状況は以前ここで書いたことと同じですね。) そう考えると、どんな液体がきても液だれしない試薬瓶をつくるのはすごく難しいことが想像できると思います。

 えっ? ビールのラベルを上にする必要はあるかって?液だれしてラベルが汚れても大して困らないし、そもそもその場で飲みきってしまうのが普通なのですから少なくとも化学薬品のような意味ではラベルを上にする必要はありません。とはいえラベルをどちらにしても大して労力は変わらないので上にするように習慣づけておくと良いかもしれません。

江頭 靖幸

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