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ロボット、AI、そして未来のイメージ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私が子供だった頃ですから、今から20年まえくらいでしょうか…。

 すいません、サバ読みました。今から40~50年くらい前、正確に言うと1960年代末から1970年代前半くらいの時代、世の中の多くの人たちが持っていた未来のイメージは「どんどん生活が豊かになり、新しい科学技術の成果が世界をより発展させる」というものだったのではないかと思います。私自身は子供だったので、その具体的なイメージは「鉄腕アトム」などで描かれた世界が下敷きになっているのだと思います。

 空飛ぶ自動車が透明なチューブの高速道路を走り、人間と会話するロボットが普通に居て、火星への探検も行われているような未来社会、そんな未来に向けて当時の社会が進歩を続けている、ということをなんとなく信じていたのだと思います。具体的に考えてみることは滅多になくても、問われればそう答えるしかない。取り立てて他のイメージがあるわけでもない。多くの人にとってそんな感覚だったのではないでしょうか。

 さて、この楽天的な未来イメージは後の石油ショックによって一気に崩れます。地球と資源の有限性が意識され、その中でサステイナブルな発展を続ける社会をどう作るか、という話に続くのですが、今回それには触れずにおきましょう。

 それより私が最近気になるのはロボットについてのイメージです。ロボットという存在は魅力的でいろいろなSF的想像をかき立てます。良くあったのは「仕事は全部ロボットがしてくれるので、人間は遊んで暮らせる」という話です。普通はこれに、でもそんなのは遠い未来の話なのでちゃんと勉強しないとダメだよ、という教訓がついていたものですが。

 この「代わりに仕事をしてくれるロボット」というイメージ、昔は肉体労働を代わってくれるものでした。それらが実用化された現在では、さしずめ「AI」がそのイメージを引き継いでいるのだと思います。

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 「AIが仕事をしてくれるので、人間は遊んで暮らせる」

 あれっ、こんな話は聞きませんね。どちらかというと、

 「AIの実用化で無くなる仕事はこれだ!」

という話が目立つように思います。「仕事がなくなる」という懸念はAIだけでなく、ロボットにも向けられるものです。

 「遊んで暮らせる」と「仕事がなくなる」、まるで天国と地獄の様な未来イメージですが、でもこの2つの表現、実質的には同じ現象を示しているのではないでしょうか。

 完全に客観的な視点、お金のやりとりや人間にとっての仕事の意義をまったく評価せずに見れば、上記の2つの状況は、AIとロボットが生産活動を行い、多くの人間が物質生産にかかわらずに生活する、という意味では同じ状況であるとも言えます。そんな宇宙人みたいな見方をされても、と思うかも知れません。ですが、重要なのは2つの状況のどちらになるかは別に自然の原理によって強制されるものではなく、人間が選んで決められるものだ、という点です。

 先日発足した米国のトランプ政権では、最重要課題の1つは「雇用の創出」だと言います。米国からみると雇用が他の国に奪われている様に見えるのでしょうが、大きく見ればロボットやAI、もっと一般的に言えば工学的な技術の向上によって生産性が上昇し、より少ない人数で生産活動を維持でき、仕事の数そのものが減っていることが原因だと思います。

 生産性が上昇し、仕事に縛り付けられる人の数が減っていること自体は良いことなのに、それが社会的には雇用問題という副作用を起こしています。この問題の解決方法については云々できるほどの知識は私にはありませんが、少なくとも副作用を軽減するためにロボットやAIを規制する、といった展開だけは願い下げです。

江頭 靖幸

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