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フェイク・ニュース(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 例年、いろいろな催しで「今年のことば」が選ばれています。2016年もいろいろなことばが選ばれました。

 流行語大賞では「神ってる」でした。野球監督さんの言葉でしたかねえ。選手の活躍を表現するための「神懸かっている」の短縮型でしょうか。私はあまり注目していないことばでした。日本は平和だなあ、と思います。

 今年の漢字は「金」でした。オリンピックで多くの金メダルの獲得や、政治に関する金の問題、経済の問題などの世相を表しています。流行語大賞とは異なり、抽象的な漢字ですから、その意味の取り方は、人により大きく異なるでしょう。

 さて、今朝(2月9日)のNHKラジオ第一で、イギリスのオックスフォード辞書が選んだ2016年の言葉は「post-truth」という言葉についての解説をしていました。ソーシャルメディア(ウェブ上の情報)の発達により、「既存の組織や媒体が提供する事実への不信感が高まっている」ことを背景にしたものだそうです。しかし、そのもうひとつの発露は、「フェイク・ニュース」という形で現れているという指摘もありました。

 私の「安全工学」の講義でネット情報を原則使うことを禁じているのは、そのようなウェブ上の情報の信頼性の低さによります。昨年の講義を聞いた諸氏は憶えているでしょうが、ネット世界は自分の意見を正当化するための間違った情報に満ちています。「ただで簡単に手に入る情報は、もともと価値がない」と私は思います。価値のある情報の入手には、金や汗や時間のようなコストを必要とします。正しい情報を得るためには、必ずその情報のソースにあたり、さらに複数のソースから「裏を取る」作業をしなければなりません。多面的な取材を必要とします。だから、私の講義では、単一のニュースソースでレポートを作成しようとする手抜きレポートは低評価です。

 だいぶ昔ですが、レポートの締め切りに関して「フェイク・ニュース」を流されてしまいました。

Fi

レポートの締め切りの1週間後にまとまった数のレポートが提出されました。

 「締め切りは過ぎているから、評価は×0.7だよ。」

 「えっ、私はレポートの締め切りが1週間伸びたと聞いたのですが…。」

 「そんなことは言っていないよ。」

 「僕は◯君から確かにそう聞きました。」

興味深い事例でした。そこで、その間違った情報の根拠を聞き回ってみると、間違った情報の発生源は×君でした。その×君に聞いてみると、

 「△君がそのように言っているのを聞きました」と胸を張って答えるではありませんか。そこで、△君を呼び出して尋ねると。彼は友達と「今週はレポートが4つもかぶったから、せめて片桐先生のレポートが1週間延びたら良いのに」という雑談をしていたことがわかりました。これはその雑談相手からも裏が取れました。

 結局、△君の「愚痴」を、同じく「締め切りが延びたら良いのに」と思っていた×君は自分の「希望に添うニュース」と誤解し、拡散してしまったたわけですね。幸いに多くの学生さんは、あまりに都合の良いそのニュースの裏をとるために、私へ問い合わせしたので、提出の遅れたのは1/4〜1/3程度ですみました。この件では△君もそのニュースを聞いて私に本当かどうかを確認に来ていたので、彼は締め切りに間に合いました。そして、彼自身が間違ったニュースソースにされずにすみました(彼が確認に来なかったら、ニュースソースをたどるラインが輪に閉じてしまうところでした)。

 もちろん、「先生、僕は×君にだまされたのですから、減点は堪忍してください」という申し出は、「それは残念だったねえ。恨むなら裏をとらなかった自分を恨んでね♡。」と全て却下しました。

 ウェブ上の情報にもこのような怖さをももちます。自分の希望(意見)をあたかも事実のように語るフェイク・ニュースはあなたを狙っています。

片桐 利真

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