人間が直接光合成ができるとしたら(江頭教授)
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「太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2。その約3割は反射され、 約2割は水の蒸発に使われることになります。」
という書き出しでいくつか記事を書いてきました。最近の記事では、光合成によって植物に蓄えられるエネルギーは0.21 W/m2 、全体の約1千6百分の1程度、という結論になったのですが、その際に
「植物が光合成をしても、植物自身が消費してしまう分のエネルギーは私たちは利用することはできません。(私たち自身が光合成ができれば話は別ですが…。)」
と書きました。
というわけで今回のお題は「私たち自身が光合成ができれば」どうなるか、です。
もちろん、光合成で直接エネルギーを得ることができる、となれば食事は必須アミノ酸の摂取や必要な元素の取得だけが目的となるはずで量や頻度が減ると期待できます。そこで、「光合成で人間が活動するエネルギーをまかなうとしたらどの程度の面積が必要か」を計算してみましょう。
まず人の必要とするエネルギーはどのくらいでしょうか。厚生労働省が行っている「国民健康・栄養調査」には日本人のエネルギー摂取量(カロリー摂取量と言った方がしっくりくるかも)が男女別、年齢別で記載されています。調査の年代や年齢によっても変わりますが男性はだいたい2000 kcal から2500 kcal、女性は2000 kcal から 1500 kcal に収まっています。これは1日の摂取量ですから単位は正確には kcal/d となりますね。cal はエネルギーの単位、dは時間の単位なので kcal/d はWと同じ仕事率の単位ということになります。
弐瓶 勉氏のSF漫画、「シドニアの騎士」では遺伝子改造で光合成ができるようになった人類が描かれています。といっても、体が緑色という訳でもないので我々が知っている地球の植物の光合成とはまるで違うメカニズムによっているのでしょう。でもみんな色白すぎでは...。シドニア内部の照明は現在の地球よりかなり明るいのでしょうか。
1 cal = 4.19J、1d = 24 × 60 × 60 s であり J/s が W であることを念頭に換算すると
2000 kcal/d = 97.0 W
となります。男性は 97.0 W から 121.2 W、女性は 72.7 W から 97.0 W のエネルギーの供給が必要となるわけです。
これと 342 W/m2 から面積を求めると0.28 m2を中心として±0.07 m2といったところです。正方形なら一辺 53 cm 、円なら直径 60 cm、を中心にそれぞれ±10%程度になります。
どうでしょう?意外と小さいと思いませんか?これなら頭にでっかい葉っぱをつけたりしなくても、少し露出の多い服を着ていれば充分な光を浴びることができる気もしますね。
もっとも今回の計算は太陽光のすべてのエネルギーを利用できる、という仮定で計算しています。我々が知っている植物の光合成のエネルギー効率(エネルギー効率ですよ。ここ重要。)は100%にはほど遠く、実際には1%を超えることはないとされています。頭に5m×5m(あるいは直径6m)の緑の葉っぱをつけて活動することを考えると「自分で光合成」はあんまり良いアイデアではなさそうです。
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