安全・安心?安心・安全? 豊洲問題(片桐教授)
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以前、江頭教授が取り上げた(ブログ2017.1.18)豊洲の地下水の問題への片桐の個人的な見解です。
昨日(2017.3.20)の都議会で石原元都知事は「安全と安心を混同している。専門家が豊洲は安全と言っているのに、信用せずに無為無策で放置して余計なお金を使う。理解できない。その責任は彼女にある」(2017/3/4 2:30日本経済新聞 朝刊)と現知事を非難する発言をしました。
安全と安心の問題については、このブログでも以前に取り上げました(ブログ2016.8.12)。ここでは、科学技術者は「安全」を尺度に判断する。しかし、一般は「安心」を尺度にする。したがって、科学技術者はその「安心」の尺度を慮らねばならない、と述べました。今回は、その安全と安心の優先順位について考えてみます。さて、Googleで検索すると:
「安全安心」 17.300,000件
「安心安全」 66,300,000件
「安全・安心」 17,200,000件
「安心・安全」 139,000,000件
でした。なんということでしょう。圧倒的に、安心が先にきています。これから結論づけるのは早計かもしれませんが、一般的には安全より安心の方が優先されているようです。
今回問題になったベンゼンの地下水の基準は、「水道法」の基準を定めた「水質基準に関する省令」(平成15年5月30日)厚生労働省令第百一号という厚生労働省の省令の別表に定められています。そこには「ベンゼン: 0.01mg/L以下」とされています。今回の100倍は1 mg/Lの濃度であることを意味しています。さて、この0.01 mg/Lは「飲用地下水」を意識しているようです(地下水の水質汚濁に係る環境基準の取扱いについて(平成9年3月13日)環水管80号 環境庁水質保全局長通知)。つまり、この豊洲の地下水は「飲用には不適切」という意味ですね。この基準値の濃度の水を飲むことによる死亡確率は1/100,000よりもはるかに低いものです。その意味では石原元都知事の言う「安全」は間違いではありません。
ベンゼンの飲用地下水における基準は、実際の健康被害の危険性の発生する数値の数百倍〜千倍の大きなマージンを持っているということですね。これは放射能の基準のマージンにも似ています。確率的な危険領域では、その「ここまでは大丈夫」という基準を作りにくいのです。実際の危険性を測りかねる場合、基準作成者の責任を問われないように(基準作成者の「安心」のために)大きなマージンを設定します。
しかし、このような基準は一度定められると、一人歩きします。その基準はあたかも安全と危険の境目のように取扱われます(ブログ2017.2.22)。そして、基準を超えたから危険だと誤解されます。
だからこそ、安全を正しく「定量的」に捉えなければならないのです。それは、科学技術者の使命(ミッション)です。それをどのように正しく伝えるのかについて、その専門家「リスク・コミュニケーター」を急ぎ育成しなければなりません。また、中等教育までにそのような情報を正しく受け取るリテラシーの教育も必要です。
そして、科学的な考え方と、一般的な考え方をすりあわせること、安全と安心をすりあわせることに責任のある政治家(この場合は都知事)は大変な仕事だと思います。これから事態はどのように推移していくのでしょう、私にはベンゼン(全然)わかりません。
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