ベンゼン濃度は最大で環境基準の何倍までなれるのか?(江頭教授)
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今度は環境基準の100倍のベンゼンが検出されたとか。あっ、豊洲の地下水検査の話です。
100倍、というと大きな数字のように感じますが、以前書いたように排水基準と比べれば10倍。だいぶ印象が変わります。やはりここは1mg/Lと書くべきでしょう。
さて、今回のお題はベンゼン濃度、どんどん高くなったとしたらどこまで高くなり得るのか、という問題です。
まず単純に最大の値、ということで純粋なベンゼンの濃度を考えてみましょう。ベンゼンの密度は0.88g/Lですから、880,000 mg/L。環境基準0.01mg/Lの8800万倍。もう一声で一億倍ですね。さすがにこれはありそうもない。誰かかベンゼン貯蔵庫を造っていたなら別ですが、廃棄物に何の混ぜ物もないとはちょっと考えられない話です。そもそも100%ベンゼンは水と分離する油なので"水"質に関する基準には当てはまらないですね。
ということで、今度は水にベンゼンが飽和している状態を考えてみましょう。
ベンゼンと水、油と水で混ざらないのでは、と思うかも知れません。確かに 「混ざらない」というのも事実ですがこれは水と油の二層に分かれて混ざらない、という意味です。水を主体とする相にもベンゼンは少しですが溶けています。(逆に水も少しですがベンゼンを主体とする相に溶けます。)
さて「少し溶ける」のが具体的にどれくらい少しか、ですが、ベンゼンの水への飽和濃度は0.050 g/100gH2O とあります。ベンゼンの飽和水溶液の重量を基準に書き替えると 0.050g/100.050g(水溶液) となりますが、まあ0.050/100g で良いでしょう。この水溶液、ほとんど水なので密度を1 g/mL と考えれば 0.50 g/L つまり 500 mg/L となります。環境基準の5万倍。これもすごい数値ですね。
実は2008年には豊洲で4万3000倍というベンゼン濃度が検出されているそうです(2017年 3月21日 読売新聞 13面 「スキャナー」)。 ほとんど上限の5万倍に近い値です。当時の豊洲の地下にはベンゼンを主成分とする油が溜まっていて、それに接触した地下水に飽和濃度に近いベンゼンが溶け込んでいたのでしょう。(その後、都が行った追加の対策でベンゼン濃度は下がったとされています。)
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