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「ふーふー」、熱いたべものに息を吹きかけると冷えるのはなぜ?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「いただきーます! あちち! ふー、ふー」

 てな感じで熱い食べ物を息を吹きかけて冷ます、というのは何となく身に覚えのある情景ですよね。今回のお題は息を吹きかけると物が冷えるのはなぜか、です。でも、最初にお断りしておきましょう。実は正解が何か、今のところ私にもはっきりしてはいません。二つの仮説を挙げますので、皆さんも一緒に考えていただければと思います。

 さて、「息を吹きかけると物が冷える」理由を考えると、「息を使って風を起こし、熱い物に風が当たることで冷える」と解釈できます。本質は熱い物に向かって風を送ることで、息を使うのはもっとも身近な手段だから、でしょう。風が当たることでものが冷える、というのは風が強いと寒く感じる、という日常の経験で分かりますし、手に息を吹きかけてみても実感できることです。

 この効果、化学工学の表現では

温度の高い物体の周辺のレイノルズ数が大きくなることでヌッセルト数が増大する、これは熱移動の境膜の厚みが減少することに相当するので、熱の移動が促進されて周囲より温度の高い物体に対する冷却速度が高くなる

ということになるのですが、要するに「熱の移動が早くなる」ということです。この効果が原因の場合、「熱いもの」の温度は風の温度、というか周囲の空気の温度までしか冷えない、ということになります。熱い物が周囲の温度まで冷える、その過程が加速されるだけなので当然ですね。

 さて、ここで思い出したのが昔に見た映画「スーパーマンⅢ 電子の要塞」の1シーン。化学工場の火事に遭遇したスーパーマン。消火用水がなくなって絶望している消防隊を救うために近くの湖にひとっ飛び。湖の水に息を吹きかけて凍らせて巨大な氷塊を作ると火災現場に舞い戻り氷を使って火事を消し止める、というくだりがあるのです。
 まあ、昔のアメコミ映画だし野暮なことは言いますまい。でもやっぱり気になるのが「息を吹きかけて凍らせる」という点です。ふーふーしても周囲の温度までしか冷えないのでは…。

Fig

 実は物体に風を送ることによる効果は熱の伝わり方が早くなるだけではありません。物質の移動も早くなるはずです。食べ物には水分が含まれています。湿度が100%でなければ、風を送ることで食べ物の周りの水蒸気が運び去られる速度が速くなり、食べ物からの水の蒸発が早くなるはずです。水が蒸発するとき、食べ物からは気化熱が奪われる、つまり冷却がおこります。この効果を考えると、物体が周囲の空気の温度よりも低い温度まで冷却される可能性があることになります。

 水が蒸発して熱が奪われる、というはなしは「夏に水打ちをすると涼しくなる」とか、水ではありませんが「アルコールを皮膚に付けるとヒンヤリする」などいろいろありますね。まったく水を含まない熱い食べ物、というのは考えにくい(熱い落雁とか?)ので熱い食べ物のまわりには水蒸気がよどんでいるはずです。そうなると水は食べ物から蒸発しますが、一方でよどんでいる水蒸気から食べ物に向かって凝集し、蒸発を打ち消そうとします。息を吹きかけるとこのよどんだ水蒸気が吹き払われるので蒸発が早くなる、これを続ければ周囲の温度より食べ物が冷たくなることもあり得る訳です。

 それで食べ物が凍るかどうかはさておき、最初に戻って「熱いたべものに息を吹きかけると冷えるのはなぜか」と考えてみると、一つは「熱の移動が早くなる」効果、もう一つは「蒸発が早くなる」効果がある、ということです。私たちが「ふーふー」しているとき、常に両方の効果があるはずですが、ではどちらの効果が大きいのでしょうか?最初におことわりしたように、これは私にも分かりません。どちらが大きいのか、どうやったら判別できるのか、皆さんはどうお考えですか。

江頭 靖幸

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