新材料登場のインパクト(江頭教授)
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「プラスチックだ」
ダスティン・ホフマン主演の1967年の映画「卒業」に出てくる台詞です。
「卒業」はラストシーンが印象的な映画ですが、この台詞が出てくるのは全く関係ないところ。ダスティン・ホフマン演じる主人公は前途有望なエリート大学生。卒業を間近に控えた彼におじさんがアドバイスするのがこの「プラスチックだ」です。いろいろな解釈があり得る台詞で、最初この映画を(TV放送で)見たときすごく気になりました。私の解釈では「プラスチック産業に就職すれば将来が約束されるぞ」という意味です。
現在、身の回りにはプラスチックの製品があふれていますが、プラスチックは金属や木材と違って昔から身の回りの製品の材料として使われていた訳ではありません。プラスチックが身の周りに入ってきた時期、というのがある訳です。
有名なプラスチック製品として「ナイロンストッキング」があります。これはアメリカでは1940年に製品化されたそうですが、本格的に普及するのは1945年の第二次世界大戦終結以降の消費社会の発展と軌を一にしているはずです。「卒業」が公開された1967年ごろに、1945年にはすでに大人だった世代が「プラスチックは新しくてすばらしいモノ」だと感じていた。その一方で1945年ごろに生まれた若者にとっては「珍しくもないつまらないモノ」に見えていたのでしょう。「卒業」で描かれていた若者の憂鬱にはぴったりのアイテムではないでしょうか。
まあ、「卒業」の主人公はおそらく文系なので憂鬱に感じるのでしょう。「プラスチック」と一言でいってもその使われ方はいろいろです。2017年の現在でも新たな材料は開発され続けているのですから、我々化学系の人間は「珍しくもないつまらないモノ」ではないプラスチックに出会う可能性のある日々を送っているのです。
さて、人々の日常の中にプラスチックが入り込んできた終戦後の消費社会の発展期は人々のライフスタイルが刷新された時代です。この時代の一番大きな変化は、実は個々の一つ一つの変化ではなく、日々の生活といった一番基本的な領域でさえ「変化が起こりうる」ということが明白になったことなのでしょう。金属と瀬戸物と木材しかなかった食器の材料に新しいものが加わること、それは当時の人々には大きなインパクトを持った経験だったはずです。現在でも新しい材料は登場し続けていますが、それでも最初のインパクトにはかなわないのかも知れません。
それを憂鬱と感じるかどうかは知識と感受性の問題ですけれどね。
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