充電式の乾電池の起電力は?(江頭教授)
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先日、ちょっとした電子工作をしていたところ、なんか動作が不安定に。全く動かないならともかく、動いたり動かなかったりというのが腑に落ちないで原因を探していると、どうやら電源に問題が。結局、使っていた乾電池を充電可能なタイプに交換したのが原因だと分かりました。そうなんです、充電式の乾電池の電圧は結構低いのです。
乾電池と言えば1.5V、一部例外(9Vの角形乾電池やボタン電池など)はありますが、ほとんどの人がそう思っている、というかそもそも気にしていない人も多いのではないでしょうか。昔は乾電池と言えばマンガン乾電池しかありませんでしたらマンガン電池の電圧1.5Vが基準となって定着したのでしょう。
一方、乾電池を使う側の電気製品をみると、入力電圧に対しては許容範囲の広い製品が多い様です。単純な懐中電灯などであれば電圧の低下は明るさの低下に直結しますが、多少暗くなっても使えなくなるわけではありません。また、情報処理を目的とした電子回路の部品は入力電圧にある程度の許容幅を持たせているものが多く、多少電圧が変動しても動作します。
このような状況から、乾電池型の蓄電池が開発されたとき、無理して1.5Vを達成する必要はない、と判断されたのでしょう。ニカド電池やニッケル水素電池など、充電式の乾電池の電圧、実は1.2Vとなっていて、1.5Vより20%も低いのです。
では、電池の電圧は何で決まるのでしょうか?
答えは、電池の中で起こる反応前後のエネルギー変化、正確にはギブスエネルギー変化、に比例する、です。電池から電流を取り出すと、電子の流れに応じて電池内部で反応が起こります。反応後にはより安定な状態になるので、エネルギーが放出されるのですが、それが電子に与えられるエネルギー、つまり電子が流れようとする強さ、電池の電圧(起電力と言います)となるのです。
この起電力は反応前と後のエネルギー変化、つまり二つの安定な状態の間の差、ですから、温度と圧力が決まってしまえば変化させることはできません。「触媒は反応速度を変えるが平衡を動かすことはできない」のと同様です。充電式の乾電池の内部で起こる反応は当然、使い捨ての乾電池の反応とは異なっていますから、起電力も異なるのは当然なのです。
起電力がちょうど1.5Vになるような反応を新たに探したり、電流を流したときに電圧変換を行う、など技術的に充電式の乾電池の1.5Vに合わせることは不可能ではありません。しかし、前述の状況を考えれば「充電式の乾電池は1.2V」という新たな常識を広めよう、と考えるのも理解できることですね。
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