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2017年6月

2017.06.30

「長期低炭素ビジョン」を読む(その1)(江頭教授)

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 未来の日本はどんな国になっているのでしょうか?別に日本に限らないのですが、未来に人々の生活がどのようなものになっているのか、はとても気になる問いであると同時に、自分の人生を考える時、特に若い人たちには切実な問いであると思います。

 私にはもちろん、そんなことを見通す力はありませんが、それは基本的に誰でも一緒です。では未来を予測することは無意味な(でも面白い)遊びなのでしょうか。

 そんなことはありません。

「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである。 」(The best way to predict the future is to invent it.)

これはパーソナルコンピュータの父と言われる、アラン・ケイの言葉だそうです。私たちが未来を予測するのは、好ましくない未来を避け、望ましい未来を実現するためです。好ましい未来をより具体的に思い描くことができれば、その実現に向けて今やるべきことが見えてくる。これは個人の人生についても企業の将来についても、そして国や世界の未来についても同じことです。

 特に大きなレベル、例えば一つの国レベルではその国に住む人々とその政府とが同じ未来の予測を共有していれば、個々人の努力と政府の施策が相まって、その未来を本当に「創りだすこと」ができるかも知れません。

 このような共有された未来予測は単なる将来の予想ではなく、望ましい未来を実現させるための目標でもあるのです。その意味での未来予測を未来の「ビジョン」と呼ぶのでしょう。

 日本の未来と一言でいっても、それは多分野に渡るものであり、その多くは共通の目標を定めることができないし、定めるべきでもないのです。しかし、人間の生活の基盤となる部分では共通の理念、人類の存続や人々の健康的な生活のような誰もが納得できる理念、に即した目標が定められるべき分野があります。温暖化問題の解決がそれであり、そのためのビジョンをなるべく広い範囲の人々が共有することが温暖化問題の解決に有用なはずです。

 このような意味で環境省の中央環境審議会で策定されたのが「長期低炭素ビジョン」です。

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2017.06.29

化学プロセスと自動制御~まとめに代えて~(江頭教授)

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 触媒の熱処理をしようとした時の話です。どこのメーカーとは言いませんが温度調節器にヒーターをつないで加熱を始めたのですが………。

「あれっ?温度が一定にならないな。PIDが外れちゃってるな。」

「これはいけない、AT、ATっと。えーと、マニュアルはこれか。」

「あれATのやり方が書いていない。不親切だなー」

「まさか自分でPIDを設定しろってか?まじか!えーとPを適当に決めてIを大きくとってそれからDには手を出すな、だったかな」

「うぅ、マニュアルのどこにもPIDの設定の仕方が書いてないぞ。」

「もしかして…、いや、まさか…、これって…、こっ、これがON/OFF制御しかできない温調だったのか!なっ、なんだってー!!」

 これ、実は昨年のこの記事からの再録です。このシリーズを読んでくださった方ならおわかりでしょうが、書き方はともかく自動制御について最小限必要な知識は上記のようなものではないでしょうか。

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2017.06.28

化学プロセスと自動制御~オートチューニング~(江頭教授)

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 化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回まではPID制御について説明をしてきましたが、今回はPID制御のパラメータを具体的にどのように決めれば良いか、を解説しましょう。

 まず、原理的に最適なPID制御のパラメータをどのように決めれば良いのか考えてみましょう。「最適」がどのような意味であれ、パラメータを決めるためには制御が行われたときの実際の動作をある程度予測する必要があるでしょう。制御は制御装置だけでなく、制御される相手(今回のシリーズでは温度をコントロールされる電球やビーカーの水です)と一緒になって、その動作が行われています。制御について予想するには、制御される相手が加熱に対してどのように応答するのかを知る必要があるということになります。

 制御を受ける対象の動作についての情報を得て、仮定したPID制御のパラメータに基づいて制御がどのように行われるかを予測する。そんな作業をくり返して、最も望ましい制御が行われるパラメータを見つける、これが最適なPID制御のパラメータを決める方法となります。

 ではその方法を...、となると非常に込み入った説明が必要になりそうですが、実は最近では細かい知識がないひとでもPID制御のパラメータを自動的に決定できるようなソフトウェアが制御機器の中に入っています。

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上図は今回のシリーズで温度制御に使用した制御装置。オムロン社の温度調節計「サーマック E5CB」

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2017.06.27

化学プロセスと自動制御~PID制御(江頭教授)~

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 化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回まででPI制御を導入することによって加熱する対象を目標温度で一定に制御することができる、ということが示されました。これで一応目標は達成したのですが、今回は、より早く目標値に到達する方法について考えてみましょう。

 PI制御を行う制御装置は現在から過去に至る「目標値と現在値の差」のデータを与えられながら制御対象の出力を決めています。制御の質を向上させるためには二つの方法が考えられます。一つはもっと他の要素を導入すること、もう一つは制御のパラメータを適切に設定することです。

 まず一つ目。PI制御では「目標値と現在値の差」そのもの(P制御)と、「目標値と現在値の差の積分」(I制御)に比例してヒーターへの出力が決められているのならば、当然(かどうかは分かりませんが)もう一つの考慮すべき対象は「目標値と現在値の差」の「微分」となるでしょう。これがD制御で三つ併せてPID制御、となるわけです。

整理すると、

  • その時間の「目標値と現在値の差」に比例した電力を供給する制御を比例制御(P制御)
  • その時間までの「目標値と現在値の差の積分」に比例した電力を供給する制御を積分制御(I制御)
  • その時間の「目標値と現在値の差の微分(変化率)」に比例した電力を供給する制御を微分制御(D制御)

と言うのです。この三つを組み合わせたものがPID制御で、三つの制御の比例定数を巧く調整することでよりよい制御が可能なはずです。少なくともPI制御で目標値で安定的な制御は実現できるのですから、D制御を加えることでより自由度が広がれば「可能性として」PID制御の方がよりよい制御ができるはずです。

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2017.06.26

化学プロセスと自動制御~PI制御~(江頭教授)

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 化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回はON/OFF制御では一定にならない温度制御の問題点を改善するためにP制御(比例制御)による制御を行いましたが、温度は目標値に到達することができませんでした。今回は温度を目標値に到達させる方法について解説しましょう。

 P制御ではオフセットが残って目標の温度に到達できない、この原因は前回も解説したように温度が目標値に達したとき「目標値と現在値の差」がゼロになってしまう、加熱速度もそれに比例してゼロになってしまうからです。もっと正確に言えば「目標値と現在値の差」が小さくなると加熱速度も小さくなってしまうので、結局目標値に到達できないのです。

 この問題を解決するためには「目標値と現在値の差」以外のものを加熱速度の制御に加える必要があります。何が適当でしょうか?

 瞬間瞬間の「目標値と現在値の差」に注目しているとこの問いには答えられないでしょう。ある瞬間での「目標値と現在値の差」がゼロになることこそが制御の目標ですが、これは制御の目標が達成された瞬間には制御のための情報が失われてしまう、ということでもあるのです。ですから制御装置は「目標値と現在値の差」の時間変化を記憶しておく必要があります。

 現在の制御装置では単純に「目標値と現在値の差」の積分値をデータとして保存し、その積分値に応じて加熱速度変化させる方法がとられています。積分値に応じた制御、ということでこれをI(Integral = 積分)制御と呼んでいます。通常I制御は単独で用いられることはなく、比例制御と組み合わせたPI制御として用いられています。

 さて、前回同様、このPI制御を実験してみましょう。電球をヒーター代わりにしている点は同じですが前回からはビーカーの中の水を加熱してその温度を制御する実験を行っています。(今回も動画の速度は10倍に加速しています。)

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2017.06.23

化学プロセスと自動制御~P制御~(江頭教授)

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 化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回は電球をヒーターに見立てて簡単なフィードバック制御系を作り、ON/OFF制御によって温度制御を行ってみました。

 ON/OFF制御では温度が暴走する(過熱する)ことを防ぐことには有効ですが温度を一定に制御するまでにはいきませんでした。今回はよりよい制御を行う方法について考えてみましょう。

 温度が目標値の上下でON/OFFするだけではOFFにしてもすぐに温度が下がるわけではない。ONにしてもすぐに温度が上がり始めるわけではない。この遅れが温度の上下の原因なのですから、温度が目標値に近づいたら加熱を弱めるのはどうでしょうか。

 この考えに基づいた制御が比例制御(P制御)という方法です。目標温度と対象の実際の温度の差の大きさに比例して加熱量を制御する、「比例して」というところをとって比例制御と呼ぶわけです。

 早速、そのP制御を行ったのが以下の動画です。

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2017.06.22

コーオプ教育世界大会(戸井コーオプセンター長)

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(今回はコーオプセンターの戸井センター長の記事を掲載します。機械工学科ブログ電気電子工学科ブログにも同様の内容の記事が公開されています。)

こんにちは、コーオプセンター長の戸井です。

6月5日から8日まで、タイのチェンマイで開催されたコーオプ教育等に関 する世界大会に出席して来ました。正式名称は、WACE(World  Council and Assembly on Cooperative Education) World Conferenceで、 今回で第20回目となります。世界各国から1000人を超える参加者を得て盛大 に開催されました。

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開会式の 様子

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2017.06.21

化学プロセスと自動制御~ON/OFF制御~(江頭教授)

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 化学プロセスで用いられている自動制御についてシリーズで解説しています。前回は電球をヒーターに見立てて簡単なフィードバック制御系を作ってみました。今回は実際に温度制御を行ってみましょう。

 一番簡単な制御の方法は「ON/OFF制御」です。単純な方法なので、昔から(デジタルな製品ができる前から)アナログな方法で実用化されていました。化学の実験で良く用いられるオイルバス(油を入れてフラスコなどを加熱するヒーター一体型の鍋のようなものです)の温度調節でも、昔からこの方法が用いられています。

 オイルバスのヒーターにずっと通電し続けるとどんどん温度が上昇して思い通りの加熱ができませんし、なにより加熱しすぎた油は危険です。そこで、温度が上がりすぎないようにヒーターに給電するケーブルの途中に「バイメタル」の接点が入れてあります。

 「バイメタル」は別にロック音楽の一種ではありません。二種類の(熱膨張率の異なる)金属板を張り合わせたものです。温度が上がると膨張率の差からバイメタルは変形して「反る」ことになります。バイメタルは電気を通し、温度によって反る角度が違うので接点の位置を適当に設定しておくと温度が低い間は電気が流れるが、温度が上がると電気が切れて、温度が下がるとまた電流が流れる、という動作をさせることができます。

 この、温度が低い間は電気が流れる(ON)が、温度が上がると電気が切れてる温度が上がると電気が切れて(OFF)、温度が下がる、という動作による制御がON/OFFです。

 前回も紹介した、オープンキャンパス用のフィードバック制御の装置でON/OFF制御を行ってみた動画を以下に示します。(画像をクリックしてください。)

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2017.06.20

化学プロセスと自動制御~フィードバック制御~(江頭教授)

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 化学工場ではいろいろな機械を使って化学反応を起こし、大量の材料を合成しています。

 たとえば化学反応を起こすための反応器は通常、反応が進むような温度まで加熱されています。では、その温度はどのように調整されているのでしょうか。自動制御によって一定値に保たれている、というのがこれまでの説明ですが、もう少し具体的に見てみましょう。

 反応器を加熱するには電熱線などのヒーターが用いられています。その電熱線だけで望ましい温度を達成する、これは理屈の上だけなら可能です。(つまり、現実的には不可能、ということです。)

 例えば前回の様に「電球を40℃にする」という目標を設定したとき、ちょうどよいワット数の電球をもってくれば単純につけっぱなしにするだけで、成行きのままで目的の40℃を達成できるはずです。問題は「ちょうどよいワット数」がいくらかが分からないこと、周囲の状況によって変わること、そのワット数の電球を準備することが難しいことです。つまり、現実的には成行きで目標値を維持することは無理、となります。

 成行きのままでは目的の値からずれてしまう。これを目的の値に近づけるためには、成り行きでどんな温度になったかを知り、その値と目的地との違いを小さくするように電球に働きかける存在が必要です。ヒーターから見れば、ヒーター自身の(加熱という)動作の結果に対して、修正するための情報(OFFするタイミング)を提供する(フィードバックする)存在が必要なのです。

 前回の例では人間がその役割を果たしていました。自動制御ではその役割を機械が代行します。これが制御装置で、ヒーターは制御装置によるフィードバックを受けて目的の温度を達成するのです。

 この様に機械の動作結果を測定し、適切な操作をフィードバックする制御装置による制御を「フィードバック制御」と呼びます。

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2017.06.19

化学プロセスと自動制御~手動で制御にチャレンジ~(江頭教授)

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 前回、化学プロセスにおける自動制御の役割について説明しました。化学工場で行われている物質の合成は機械を使って行われていますが、その運用は自動制御を中心に行われている。このため、非常に大きなプラントであっても運転要員の人数は意外と少ない、という話でした。

 さて、今回は昨日(6月18日)のオープンキャンパスで行った自動制御のデモ実験のなかで行った「手動での制御」について紹介しましょう。簡単な制御を手作業でやってもらって、制御の難しさについて知ってもらおう、という企画です。

 ヒーターによる温度制御を実演しますが、今回、小型の白熱灯をヒーターとして用いました。白熱灯はすぐに温度が上昇するのでヒーターの代用となりますし、オンオフが見た目ですぐに分かるのもメリットです。白熱灯の表面に温度を測る熱電対を接触させ、スイッチでオンオフができるようにセットアップ。光がまぶしすぎるので紙で覆いをつくって準備完了です。

 あまり熱いと危ないので40℃を目標値として手動での温度制御にチャレンジしてもらいました。スイッチオンで白熱灯が点灯し、温度は上昇します。オフにすると温度が下がります。オンオフのタイミングをうまく合わせて温度を目標の40℃に合わせます。

 目標時間は1分ですが、これがなかなか難しいのです。

 

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2017.06.16

化学プロセスと自動制御~はじめに~(江頭教授)

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 化学工場では私たちの生活に役立っている化学物質が日々大量に合成されています。生産のための合成、その際の化学反応そのものは化学の実験室で行われているものと同じですが、方法は実験室での作業とはかなり違う、というか似ても似つかないものです。特にスケールは化学実験で扱われるミリリットル~リットルレベルの量とくらべてずっと大量です。(大量といってもかなり幅がありますが。)

 さて、研究室と化学工場で行われていることの大きな違い、もう一つの特徴は化学工場での操作がほとんど機械で行われている、ということです。研究室では手作業が中心ですが化学工場でこれをやったら大変、というか無理ですね。小さくてもm3スケールの薬品を扱うとなるとどうしても機械の力が必要です。

 人型巨大ロボットに乗り込んで超巨大フラスコをゆさゆさ……、なんてシュールな絵づらではなくて、タンクやパイプをベースにした特製の装置を使用して、混合や加熱を行い、それによって化学反応が起こる様になっています。

 ではその巨大な化学工場はどの様に運転さているのでしょうか。流量の調整、温度の調整、場合によっては圧力の調整など、いろいろな機械と同様、自動制御が活用されています。このため化学工場はその巨大さに比較して意外と少ない人数で運転されています。

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2017.06.15

6月18日(日) オープンキャンパスを実施します(江頭教授)

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 大学とはどんなところなのか?大学にいる人間にはその風景が当たり前すぎて誰もが良く理解してくれている様に思い込んでいるふしもあるのですが、外部の人、特にまだ大学というものに行ったことがない高校生諸君にとって、大学はやっぱりよく分からないところでしょう。そう考えると大学が一般の人に開放される機会は、大学を知る、という意味で貴重なチャンスです。(もっとも大学は普通の日でも別に閉鎖されているわけではないのですが...。)私が高校生の頃にも学園祭などで大学を訪れる機会があり、それなりに「大学とはこんなところか」と思ったものでした。

 さて、最近では多くの大学で高校生向けの見学会「オープンキャンパス」が開催されているので、実際に大学を見る、というチャンスは確実に増えています。本学でも例年、この季節から夏休みに渡って数回の「オープンキャンパス」を実施しています。

 本学の八王子キャンパスでの直近のオープンキャンパスは6月18日、つまり来週の日曜日に実施します。

 本年度も、応用化学科のオープンキャンパスは片柳研究棟の7階の学生実験室で行われます。

 応用化学科についての説明会(学科紹介)では今、化学を学ぶ意義、日本の化学産業の位置づけ、そして本学の応用化学科の特徴を紹介します。

 学科紹介に引き続いての「模擬授業」では、大学の授業(通常90分です)を20分程度にコンパクトに、それでも大学の授業の雰囲気を感じられるように、ぎゅっと圧縮して実施します。

 さらに、随時参加可能な実験の体験コーナーも準備しています。さらに、応用化学科のそれぞれの研究室の研究紹介は、7階学生実験室の他、研究室でも実施します。

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2017.06.14

可逆反応・不可逆反応と言いますが(江頭教授)

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 高校の化学の教科書には化学反応には「可逆反応」と「不可逆反応」がある、と書いてあります。可逆反応は正反応、逆反応どちらにも進む反応で一定条件で充分な時間が経つと平衡に達する。で、その平衡の条件は...と続くわけです。

 一方、不可逆反応は「逆反応が普通は起こらない」反応だ、とされています。この「普通は起こらない」というところがミソで普通で無ければ起こるのか、という話になりますね。

 さて、不可逆反応の例として良く挙げられる水素ガスと酸素ガスの反応を例にどんな条件が普通でないのか考えてみましょう。

2H2+O2=2H2O+484 kJ

水素ガスと酸素ガスの反応、というか要するに水素の燃焼ですから大きな発熱を伴う反応です。この反応は高温ほど進みにくくなり、逆反応は高温ほど進みやすくなるはずです。ですから、温度が高ければ高いほどこの反応は可逆反応に近づいてゆくでしょう。

 もう少し定量的に扱ってみましょう。まず0℃(273K)でのこの反応の平衡定数Kpを計算すると、なんと10の88乗のオーダーとなります。反応式の右辺側(平衡定数の分子側)に圧倒的に傾いています。ともかく10の88乗というのはすごい数値です。1 mol (6.02×1023 個)の水分子を考えた場合、平衡状態の水素分子、酸素分子は1個より遙かに少ない、というのですから。室温付近でなら「逆反応が起こらない」というのは全くもって正しい表現です。

 では高温ではどうか?

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2017.06.13

中国とインド 二酸化炭素排出量の違いは何故?(江頭教授)

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 世界で人口の多い国、といえば中国とインドです。中国は総務省統計局の「世界の統計2017」によれば2015年の中国の人口は13億7千6百万人、インドの人口は約13億1千百万人と推計されています。どちらも日本のほぼ10倍ですね。

 さて、本日のお題はこの2大人口大国の温室効果ガス、なかでも二酸化炭素の排出量についてです。

 全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)のデータによれば

  • 中国: 93億4千7百万トン
  • インド: 20億5千3百万トン

となっています。人口は大差ないのに中国の方がインドよりもずっと多く、4.6倍程度の二酸化炭素を排出している訳です。

 なぜこれだけの差が付いているのでしょうか?二酸化炭素のほとんどが化石燃料のエネルギー利用によって放出されていることを考えると、どれくらいエネルギーを使っているか、要するにどの程度豊かな生活をしているか、が二酸化炭素を決めていると考えられます。そこで、再び「世界の統計2017」から、今度は中国とインドのGPD(名目・米ドル換算)を調べてみましょう。これは

  • 中国:11兆1584万ドル
  • インド:2兆1162万ドル

となっていますから、中国のGDPはインドの5.3倍程度となっています。GDP=豊かさ、というのは短絡的だ、という批判もあるでしょうが、それはGDPがかなり大きくなってからの話でしょう。中国に暮らす人々の方がインドの人たちよりも豊かな生活を送っているから二酸化炭素の排出量が多い、という説明で十分に納得できると私は思います。

 さて、これまでの議論、何を当たり前なことを、と思われた方も多いかと思います。私がわざわざこんな話をもちだしたのは実は、前回紹介した「人類の英知で雲泥の差がついたインドと中国 ブッシュの愚行で中国が環境破壊加速、トランプの暴挙では・・・」(伊東 乾、JBPress 2017/6/9)という記事を読んだからです。

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出典)温室効果ガスインベントリオフィス

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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2017.06.12

人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか? 番外編 (江頭教授)

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Q:「人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか?」

A:「約年間0.3トン」

 これは動物としての人間が呼吸によって排出している二酸化炭素のことで、化石燃料等からの放出は計算に入れていません。計算過程は以前の記事(その1その2)で解説しましたが、呼吸の前後での二酸化炭素の増加に基づく計算食事で人間が摂取する炭素の量からの計算、二つの方法でほぼ同じ結果となることから信頼性は高いと考えています。

 さて、先日(2017年6月9日)WEB経済メディア「JBPress (Japan Business Press)」とうWEBサイトで伊東 乾氏による「人類の英知で雲泥の差がついたインドと中国 ブッシュの愚行で中国が環境破壊加速、トランプの暴挙では・・・」という記事が掲載されていました。その中で著者の伊藤氏は「私たちは呼吸していますから、空気中の酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。」と述べて、その量を年間1トンと見積もっています。この数値、私が以前に計算した値よりもかなり大きいですね。その計算過程についての説明を以下に引用しましょう。

 1,000,000グラム(1トン)の二酸化炭素排出は1時間あたりだと114グラム、1分あたり約2グラムになります。CO2の分子量を44、(以下やや細かくなりますが)1モルの体積が22.4リットル程度だとすると1分あたり1リットル程度、1回の呼吸に際しての吸気・呼気の体積が500cc程度とし、空気中に酸素は20%程度含まれ、健康な人が酸素を吸ったとき、呼吸における二酸化炭素交換率は実測で95%程度だそうですから100%とすると、1分間の呼吸が10回程度で年1トンに達してしまう荒い計算になります。

 さて、伊東 乾氏はこの計算のどこで間違ってしまったのでしょうか。

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2017.06.09

第1期(クォーター制)本日終了です。(江頭教授)

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 4月にスタートした新年度、従来の前期後期の学期制なら今頃は「前期も半分過ぎて折り返し点です」ということになるでしょう。実際、本学科の1、2年生にとってはその通り。気を引き締めて前期残りの期間を充実させましょう。

 ただ、応用化学科の3年前期の授業はクォーター制で行われています。クォーター制とは前期を第1期、第2期の二期に分けて行うもの。本来は1年を4期に分けて行うものですが、本学のクォーター制は前期後期制の一方の期を二つの分ける、やや変則的な制度です。(ハーフ・アンド・ダブルクォーター制とでもいうのでしょうか?)

 でも、なんでこんな制度に?

 これは本学工学部の教育の重点の一つ、コーオプ実習制度に対応したものです。すべての学生が企業で8週間の実習教育を受ける、というのがこの制度の要点ですが、では前期15週間の残りはどうしているのか?もちろん遊んでいる訳ではなく、授業を受けるのですが、こんどは授業期間は短くなってしまう、という問題があります。

 そこでクォータ制。1週間に受ける授業の科目数は少なくなりますが、一つの科目は原則週2回実施します。(一部2回より多い科目もあります。)半分の科目を倍のスピードですすめるのがクォータ制。そのため、本年度の第1期が今日(6月9日)という早い時期に終了となったわけです。

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2017.06.08

「奨学金130万円×4年間」 工科大学の新しい入試制度(江頭教授) 

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 昨日(2017年6月7日)、工学部の会議で配られた資料、以下の部分に思わず注目してしまいました。

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 東京工科大学の新しい入試制度がスタートした、その目玉の一つ「奨学生入試」についての報告だったのですが、奨学金の選抜と大学入試の選抜を同時に行う。つまり、奨学金入試に合格すれば奨学金も確定する、という制度です。

 なるほど、本学も良い制度を導入したものだと思います。入試に合格したが、奨学金が受けられるかどうか分からない、というのでは進学に際しての計画が立てられません。この制度によって、奨学金を必要とする受験生にとって深刻なリスクを一つ排除したことになりますね。(もちろん、その分競争は激しくなるでしょうが。)

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2017.06.07

二つのキャンパスを結ぶ「全学教職員会」(江頭教授)

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 以前、こちらの記事こちらの記事で紹介しましたが、本学では「全学教職員会」という、名前通り本学の教員、職員が全員参加する講演会形式の会をほぼ月に一度のペースで開催しています。本学で教育に携わるすべての人間の意識の統一を計るために一同に会して...おっと、本学には我々工学部応用化学科がある八王子キャンパスとともに蒲田キャンパスもあります。同じ都内とはいってもそれなりの距離離れているキャンパスをいききするのは結構大変です。

 と、いうことでこの「全学教職員会」では両キャンパスの会場(八王子キャンパスではメディアホールが使われています)の間で相互に映像配信を行い、それによって同時開催を実現しています。

 当初はなんとなく違和感を感じていましたが、なれてくると自然に受け入れられる様になりました。初期よりも音声や映像のクオリティも上がっているのでしょう。会場をまたいでの質疑応答でも自然に会話ができています。

 また、ビデオ会議形式であることのメリットとして確実に映像データが残る、ということもあります。この「全学教職員会」の記録映像は学内ネットワークで本学の教職員に対して公開されるので都合によって参加できなかった場合でも内容を確認することができます。

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2017.06.06

日本の温室効果ガスの排出量(2015年度版)(江頭教授)

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 最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。日本国内での発生量については詳細な統計が発表されている、その点については以前もこの記事で触れています。

 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は毎年、国内からの温室効果ガスの排出量の統計値を発表してます。今回は最新版(とは言っても2015年度版ですが)について見てみましょう。

2015年度の温室効果ガスの総排出量は13億2,500万トン(二酸化炭素(CO2)換算)。前年度比2.9%減。

 まずはこれが最大のポイントでしょう。それまでの増加傾向から減少に転じた2014年度に引き続き,2015年度も温暖化ガスの排出量は減少しているのです。

 では、温暖化ガス排出量はなぜ減っているのでしょうか。

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2017.06.05

「科学的に証明」? (「科学」はなぜ正しいのか? その3)(江頭教授)

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 「いや、証明するのは数学だから。」

 だよねー、と思った人には特に言うことはありません。私はこの「科学的に証明」されているという表現が気になって仕方がないのです。

 さて、数学での「証明」というのはある前提にもとづいて結論が理論的に導き出される過程を示すことです。この「前提」を突き詰めると「公理」にまで到達します。「公理」は一つ(あるいは一セット)とは限りません。新しい「公理」をワンセットつくれば、それは新しい数学をつくることでもあるのです。

 「証明されている」といえば「正しい」ということを意味している様に聞こえますが、それは「公理」が正しければ、という条件つきで正しいに過ぎません。ですが、逆に「公理」が正しければ証明された命題は絶対に正しいわけで、その意味でなら「証明」されたことは完全に正しいと言えるでしょう。

 その一方で、科学の正しさの由来は「実験によって確認されている」という事実から、そしてその正しさが保証されるのは「理論と実験が矛盾したら理論を修正」するからです。ですから何かの主張が科学に基づいて正しいと言う場合、その確実性の程度は元になった理論がどの程度実験で確認されているか、によっていろいろだと考えるべきです。比較的実績のすくない理論に基づいた主張は現実と矛盾して修正を余儀なくされる可能性がある、有り体に言えば間違っている可能性があるのです。

 数学的に「証明」された主張の正しさは、公理を前提とすれば絶対的です。それとくらべて科学の主張の正しさは常に条件付きです。当然ながら、非常に多くの実績があって信頼性が高い主張もあれば、そうでもない主張もあってケースバイケースです。

 ある科学的な主張がどの程度正しいと考えられるのか、それを判断するには元になった理論を良く理解し、どこでどのように使われて確認されているかを把握している必要があります。それができる人は科学者・専門家だけですから科学者が他の人たちに判断の結果を伝えなければなりません。

 そのときの言葉として

「科学的に証明」されている

という表現が使われるとしたら、あまり良い表現とは言えませんね。数学的な主張の(公理を前提とした)正しさを形容詞として用い、その科学的な主張の信頼性を最大限アピールする表現となっているのですが、専門家以外の人が聞いて本気にしたら大変です。こんな言い方をして、もしその主張が間違っていたら、言った専門家の信頼性は地に落ちてしまいますからね。

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2017.06.02

サステイナブル工学基礎 学内施設見学(2017年度)(江頭教授)

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 本学の工学部が掲げる「サステイナブル工学」、その最初の授業として本学2年生が履修している授業が「サステイナブル工学基礎」です。本年四月からは2016年度入学の第2期生が受講を始め、第2回目の講義が行われています。

 この「サステイナブル工学基礎」で行われるのが学内施設の見学。工学部三学科が代わる代わる学内のサステイナブル工学に関係の深い施設を見学します。5月29日には我々応用化学科の見学が行われました。

 見学は、まず「スマートハウス実習棟」という専門学校の施設からスタート。太陽電池が乗っている建物です。太陽電池パネルで電力すること、建物の断熱性を高めて冷暖房の必要エネルギーを削減すること、地中にたまった熱を熱源として用いることで消費エネルギー以上の暖房効果を実現すること、などいろいろな家庭向けエネルギー関連技術の設備があり、その運用や施工方法を学ぶ場所となっています。

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 写真の手前に写っているのは太陽電池パネルの設置工事を実習するための模擬屋根。瓦葺き屋根を始め三種類の屋根の一部が再現されています。

 次の施設はエネルギー関係。

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2017.06.01

危険物取扱者の資格を取ろう-28 法律-25 屋外貯蔵所の基準 (片桐教授)

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 このシリーズはこの夏の受験により危険物取扱者の資格を目指す学生さんを対象にしたレクチャーをします

 今回は屋外貯蔵所です。これは容器に入れた危険物を屋外に野積みにする貯蔵所です。

 保安距離は製造所の基準になります()。保安空地は指定数量の倍数で異なります。倍数10以下なら保安空地の幅は≧3 m、10<倍数≦20なら≧6 m、20<倍数≦50なら≧10 m、50<倍数≦200なら≧20 m、200<倍数なら≧30 mです。

 屋外貯蔵所は貯蔵できる危険物が限られています。

  第二類 硫黄(硫黄のみを含有するもの)、引火性固体

  第四類 できないものを除く

 貯蔵できないものは

  第一類、第三類、第五類、第六類

  第二類で上記の貯蔵できるもの以外。

  第四類 特殊引火物、第一石油類の中で引火点<0℃のもの

 屋外貯蔵庫の構造と設備は:

(1) 湿潤でなく、排水の良い場所

(2) 周囲に高さ1.5 m以上の柵

(3) 見やすいところに「標識」「掲示板」を設ける。

(4) 架台を設ける時は不燃材料で、堅固な地盤面に固定

(5) 架台の高さは <6 m

(6) 必要な消火設備

(7*) 塊状硫黄の場合は面積は<100 m2 、油分離槽、排水溝、

 

Fig_7

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