人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか? 番外編 (江頭教授)
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Q:「人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか?」
A:「約年間0.3トン」
これは動物としての人間が呼吸によって排出している二酸化炭素のことで、化石燃料等からの放出は計算に入れていません。計算過程は以前の記事(その1、その2)で解説しましたが、呼吸の前後での二酸化炭素の増加に基づく計算と食事で人間が摂取する炭素の量からの計算、二つの方法でほぼ同じ結果となることから信頼性は高いと考えています。
さて、先日(2017年6月9日)WEB経済メディア「JBPress (Japan Business Press)」とうWEBサイトで伊東 乾氏による「人類の英知で雲泥の差がついたインドと中国 ブッシュの愚行で中国が環境破壊加速、トランプの暴挙では・・・」という記事が掲載されていました。その中で著者の伊藤氏は「私たちは呼吸していますから、空気中の酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。」と述べて、その量を年間1トンと見積もっています。この数値、私が以前に計算した値よりもかなり大きいですね。その計算過程についての説明を以下に引用しましょう。
1,000,000グラム(1トン)の二酸化炭素排出は1時間あたりだと114グラム、1分あたり約2グラムになります。CO2の分子量を44、(以下やや細かくなりますが)1モルの体積が22.4リットル程度だとすると1分あたり1リットル程度、1回の呼吸に際しての吸気・呼気の体積が500cc程度とし、空気中に酸素は20%程度含まれ、健康な人が酸素を吸ったとき、呼吸における二酸化炭素交換率は実測で95%程度だそうですから100%とすると、1分間の呼吸が10回程度で年1トンに達してしまう荒い計算になります。
さて、伊東 乾氏はこの計算のどこで間違ってしまったのでしょうか。
計算の順序が1トンから遡る形式になっていますが、呼吸の前後での二酸化炭素の増加に基づく計算と類似したものです。その記事から引用しましょう。
極端に考えて、空気中の酸素がすべて二酸化炭素になっている、としましょう。
(中略)
2m3の二酸化炭素は常温なら大体83 mol で、重さにすると 3700 g = 3.7 kg。一年365日で 1.34 トンとなります。
あれっ、前回の計算とくらべて、かなり大きいですね。
やっぱり「空気中の酸素がすべて二酸化炭素に」なる、というのは極端過ぎる仮定のようです。
そうです、伊藤氏の計算はこの「極端すぎる仮定」を使ってしまっているのです。
もう少し引用を続けましょう。
実は人間がはき出す空気の中にも酸素はたくさん残っていて、二酸化炭素に変化しているのは実際には4%ポイントくらいだそうです。先ほどの計算では 20 %、としてましたがその1/5の4%しか二酸化炭素は含まれない、ということですから年間の二酸化炭素排出量も1/5になります。
つまり 1.34÷5 = 0.27トン 程度の二酸化炭素を排出する、ということです。
呼吸の際、吸った空気の中のすべての酸素が二酸化炭素になるわけではありません。これは意外と知られていない様で以前「クイズ番組のネタにしたい」という問い合わせをもらったこともあるくらいです(こちらの記事)。
考えてみれば当たり前です。もし呼吸ではき出す息に酸素が全く含まれていなかったらmouth to mouth の人工呼吸で患者は窒息してしまうはずです。それどころか息で人を窒息死させることも可能なので、「熱い吐息であなたを悩殺」じゃなくて「熱い吐息であなたを殺害!」なんて歌詞が書かれることになるでしょうね。
なお、伊藤氏の文章中の「呼吸における二酸化炭素交換率は実測で95%程度」という部分ですが呼吸商のことではないでしょうか。呼吸で消費される酸素に対する呼吸で増える二酸化炭素の比率であれば95%というのは妥当な値だと思います。
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