中国とインド 二酸化炭素排出量の違いは何故?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
世界で人口の多い国、といえば中国とインドです。中国は総務省統計局の「世界の統計2017」によれば2015年の中国の人口は13億7千6百万人、インドの人口は約13億1千百万人と推計されています。どちらも日本のほぼ10倍ですね。
さて、本日のお題はこの2大人口大国の温室効果ガス、なかでも二酸化炭素の排出量についてです。
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)のデータによれば
- 中国: 93億4千7百万トン
- インド: 20億5千3百万トン
となっています。人口は大差ないのに中国の方がインドよりもずっと多く、4.6倍程度の二酸化炭素を排出している訳です。
なぜこれだけの差が付いているのでしょうか?二酸化炭素のほとんどが化石燃料のエネルギー利用によって放出されていることを考えると、どれくらいエネルギーを使っているか、要するにどの程度豊かな生活をしているか、が二酸化炭素を決めていると考えられます。そこで、再び「世界の統計2017」から、今度は中国とインドのGPD(名目・米ドル換算)を調べてみましょう。これは
- 中国:11兆1584万ドル
- インド:2兆1162万ドル
となっていますから、中国のGDPはインドの5.3倍程度となっています。GDP=豊かさ、というのは短絡的だ、という批判もあるでしょうが、それはGDPがかなり大きくなってからの話でしょう。中国に暮らす人々の方がインドの人たちよりも豊かな生活を送っているから二酸化炭素の排出量が多い、という説明で十分に納得できると私は思います。
さて、これまでの議論、何を当たり前なことを、と思われた方も多いかと思います。私がわざわざこんな話をもちだしたのは実は、前回紹介した「人類の英知で雲泥の差がついたインドと中国 ブッシュの愚行で中国が環境破壊加速、トランプの暴挙では・・・」(伊東 乾、JBPress 2017/6/9)という記事を読んだからです。
出典)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より
この記事の著者である伊東 乾氏はインドと中国を比較して以下の様にまとめています。
思えば、インドはもともと何千という藩王国の集まりで、発展途上―新興国という横顔もありますが、自然と調和する長い伝統の英知を擁し続けています。
これに対して、社会主義国家のモダンタイムズで、党が短絡して指導すると伝統や自然の歯止めが利かない中国では、こんなトンでもないことが短期間に達成させられてしまう・・・。
改めて 各国の分野や国民性と、自然環境に与える負荷インパクトの大きさを目の当たりにするように思います。
これはいろいろとものすごい考え方だと思います。インドと中国のGDPがほとんど同じなら「長い伝統の英知」と「社会主義国家のモダンタイムズ」とを対比させるのも分かるのですが、単純に中国の開発が巧くいって経済成長を遂げているのに、インドの経済成長は未だその段階に到達していない、というだけのことではないでしょうか。
べつに中国の人々も(もちろん我々日本人も)好き好んで大量の二酸化炭素を排出している訳ではありません。豊かな生活を送る上でエネルギーは必須であり、現時点でそのエネルギーを得るために化石エネルギーを燃焼させなければならない、これは「長い伝統の英知」でもどうにもならないことです。インドで生活している人々は充分にエネルギーを使うことができない、不自由な生活を送っているのであって、当然もっと豊かな生活を送る権利がある。その大前提の上でどうやって二酸化炭素の排出を削減してゆくか、が問題なのです。
この「長い伝統の英知」などの美辞麗句で発展途上国の人々の生活向上の権利を無効化しようとする態度をみて、私ははじめてトランプ大統領を支持する人々が温暖化対策に対して批判的な理由が理解できたように思いました。
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