「長期低炭素ビジョン」を読む(その5)(江頭教授)
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日本、そして世界の将来はどのような姿なのか。温暖化問題の解決、という立場からまとめられた日本の将来像「長期低炭素ビジョン」についてシリーズで解説しています。
前回と同様、第5章「長期大幅削減の絵姿」にしめされた、低炭素社会で我々がどんな暮らしをしているか、どんな技術を使っているのか、という「絵姿」についてみてみましょう。前回の家庭生活の絵姿に対して、今回は街のイメージです。
前回の家庭のイメージ同様、いえそれ以上にイメージ図から得られる情報は漠然としています。例えば書き込まれた文字を消してこの図を示したら、誰もコレガ未来社会のイメージだとは思わないのではないでしょうか。逆に、この図のポイントは文字情報にある、ということなのでしょう。
そう思って、この図の中の文字を読み込んでゆくと「長期低炭素ビジョン」が想定している未来の(家庭レベルではない)社会レベルの技術の概要が分かってきます。
「長期低炭素ビジョン」参考資料集(p95)より
2050年の日本ではエネルギーの供給源としてバイオマス、ソーラー、風力等が大規模に導入されていて、まだ使用されてる化石燃料による火力発電所にもCCS(排出される二酸化炭素を回収・貯留するシステム)が付随しています。地域はそれぞれの場所で有利な自然エネルギーを導入してエネルギー的に独立する一方、都市はコンパクトにまとまってエネルギーの消費を抑える構造になっています。エネルギー媒体としては水素が多用されていますが、ジェット機のような炭化水素燃料を必要とする乗り物のためにバイオマス由来の燃料も生産されています。
図から読み取れる範囲を少々逸脱していますが、この図を作成するときに想定されていた事項はだいたいこんな内容でしょう。
さて、前回と今回、2回にわたって「長期低炭素ビジョン」が想定している2050年頃の生活とそこで用いられる技術についてみてきました。単純にまとめると低炭素社会を「いまのままの生活」を「今ある技術を十全に発達させること」で実現しよう、という方針だと言うことが分かります。ある意味、だれもが納得できる方針で、これに異を唱えるひとは、少なくとも総論のレベルでは、少ないのではないでしょうか。(これでは生ぬるい、という逆方向の異論はあるかも知れませんが。)
政府が策定するビジョンである以上、これはある意味当然の判断である様に思えます。ですが、問題は「今ある技術を十全に発達させること」だけで80%以上という厳しい温暖化ガス排出削減を実現できるのか、という点です。この疑問について「長期低炭素ビジョン」はどう答えるのでしょうか。次回はその点を観てみましょう。
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