原子力、過去に描かれた未来のイメージ(江頭教授)
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原子力。
今と昔(私が子供の頃ですから...今から40~50年くらい前です。この辺りの段取りはこの回と同じ。)、最もイメージが変わったのがこの原子力ではないでしょうか。
昔は夢のエネルギー、それこそ「鉄腕アトム」も原子力で動いているという設定した。(何しろアトムの妹はウランちゃんですからね。)とにかく原子力はすごい、なんでもできる、という非常にポジティブなイメージがあったのではないかと思います。
しかし、このポジティブなイメージはそれ以前の「原爆」のイメージを塗り替える形で登場したものでした。その背景には、原爆から水爆へ、そして冷戦のなかで「全面核戦争によって本当に人類は滅亡してしまうかもしれない」という核の恐怖が横たわっており、その核の明るい側面として、原子力の平和利用、具体的には原子力発電がポジティブにとらえられていたのだと思います。(もちろん、当時子供だった私にはここまでは理解できなかったのですが。)
さて、当時の原子力のイメージをよく表していると思うのが特撮映画に出てくる空想の兵器です。1959年、東宝製作のSF映画「宇宙大戦争」に出てくる熱線砲は地球を侵略してくる宇宙人、ナタール星人を撃退するために人類が開発した兵器です。 熱線とは厳密には赤外線のことなので熱戦砲は発射されても見た目は変わらないのでは、などと野暮なことは言いますまい。光線といえども稲妻のようにかっこよくギザギザに進む不思議な「なにか」(通称ズビズバ破壊光線)が発射されると標的の特殊金属を次々に貫いてゆきます。
すごい!でも、大量のエネルギーを放射しているように見えるのに燃料タンクやケーブル、エネルギーカートリッジ的なものが全く見当たらないんですが…。砲身と引き金、それに台座だけでいくらでも、というか5万時間?、撃ち続けることができるそうなんですけど…。(あっ、後でなんとなくパラボラがついているやつもでてきました。)
この熱線砲、もちろん動力は原子力を使っている、と説明されています。でも、近くの原子力発電所から引いてきた電線を熱戦砲についないで、などとややっこしい描写はなし。なにか原子力電池的なものを砲身の一部に埋め込むだけで事実上無尽蔵のエネルギーが出せる、とイメージされているようです。
2017年現在、私たちが手にしているスマートフォンやタブレットはあまり電池の存在を意識させません。(単三電池の入ってるスマホとか電池切れしたときは便利かもしれませんね。)これが可能になっているのは高性能な電池が開発されたことももちろんなのですが、スマートフォンが本来情報を扱うための機器であり、なるべくエネルギーの放射を少なくなるように、省エネになるように工夫されていることも大きいのです。一方、熱線砲のような兵器はエネルギーの放出それ自体が目的なのであって、「省エネルギー熱線砲」なんてものはできそうにありません。
このように現在のモバイル端末のイメージから、このモバイル兵器である熱線砲を見直してみると、過去の人たちが原子力にもっていた(過大な)イメージをある程度感じるとることができます。現在の高性能な電池のそのまた数桁上の性能をもった「原子力電池」。原子力を使えばきっとそんなすごいモノが作れるに違いない。
どうしてそんなイメージがもたれたのでしょうか?当時のいろいろなニュースや作品の影響もあるのでしょうが、その根本にはやはり、広島・長崎に落とされた原子爆弾と、それまでの通常の爆弾との対比があると考えざるを得ませんね。
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