石英管のジンクス(江頭教授)
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石英管は、正確には透明石英ガラス管ですが、純度の高い酸化ケイ素でできたガラス管です。通常のガラス管は不純物を多く含む、というか混合物なので融点が下がる(正確には軟化点ですが)ので比較的加工がし易く、ガラス細工でいろいろな形のものを作ることができます。
融点が低いことはガラス管のメリットですが、高温で実験をしたいとき、せいぜい400℃までしか保たないガラス管では力不足な局面がままあります。そうなると石英管の出番。1000℃程度の温度でも普通に使用することができます。
ただ、石英管の難点は加工精度が低いことと、それによるシーリングの難しさです。例えば直径10ミリと指定しても、±0.5ミリ程度の誤差があるのは普通のことです。Oリングなどをつかって”締める”タイプのシーリングには不向きなことが分かると思います。
結局、通常のガラスジョイントなどを石英管と接合して反応器を作成することになりますが、これを自分でやるのは敷居が高い。専門の業者さんに発注すると今度はお値段が高いのです。
さて、ここまで前置きをして、今回のお題、ジンクスのお話しです。これは私が学生時代のお話し、周りの先輩達から聞いた噂話です。
新しい装置を作り、石英反応管(ジョイントを接合した石英ガラス管)、も納品されました、さあ実験だ!
ジンクスその1) 高価な石英反応管を使った装置では、最初の実験で石英反応管が割れる
やはり石英管が高温には強いですが機械的にはもろくて壊れやすい。このままでは先が思いやられる、ということで石英反応管の修理を依頼すると同時にもう一個、予備の石英反応管も発注します。
今か今かと待ち望み、ついに石英反応管が2本納品されます。今度は石英反応管が壊れても大丈夫。予備の石英反応管を使っている間に修理ができる。もう時間を無駄にはしないぞ!
ジンクスその2) 予備の石英反応管がある場合、実験で石英反応管が割れることはない
結局、予備の石英反応管はいらなかったのでしょうか?とはいえ、予備を頼まないとまた割れたら大変です。うーん、一つは実験の神様へのお供え物なのでしょうか、などと非科学的な考えさえ浮かぶ始末です。
さて、このジンクスのお話し、どのくらい実際の事件が反映されているかは分かりませんが、今にして思うと「こういうことだったのかな」と思う節があります。
何かを作ったことのある人、工作でもプログラミングでも良いのです。そういう人なら必ず思い当たると思いますが、1度目より2度目、2度目より3度目と同じものを作るたびにどんどん良いものが作れるようになる、という経験はないでしょうか。
最初の実験は不慣れでトラブルも起こりやすい。繊細な石英反応管も割れてしまうかも知れません。でも2回目は違います。難しいところや問題点への対策、コツもつかめて失敗の可能性がぐっと減り、石英反応管にもきちんと注意しながら作業をこなしてゆけるのです。ここを乗り越えれば石英反応管が割れる心配はほとんどなくなります。おかげで予備の石英反応管には出番がない、ということになるのです。
同じ実験を繰り返す、ということは実は同じ経験を繰り返している訳ではない。2回目、3回目と技量が向上してゆくので実験が失敗する確率が下がると同時に、実験者の理解も深まるものです。そしてなにより、技量の向上は実験を面白く感じることにもつながっています。(と私は思います。)
そう考えると、学生実験のように同じ実験を一回しかしない実験は、じつは一番つまらない実験をしていることになるのかも知れません。何回も実験をこなして真の喜びを知るのは、そう、卒業研究までもう少し待ちましょう。
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